19.大森林の邂逅

 私はトライグラニアでアイテムを整えて出発する。

 時間帯はまだお昼……この時間でも人が多いのはエタブルの人気かはたまたそれだけトライグラニアで立ち止まっているプレイヤーが多いのか。

 余計な事を考えないように頭をぶんぶんと振る。



========

PN:ニーナ

LV:26


HP(体力):70

MP(魔力):110

STM(スタミナ):35

STR(筋力):20

AGI(敏捷):45

INT(魔法):60+30

VIT(耐性):40+20

LUK(幸運):21


パッシブスキル

(水泳)(隠密)(登攀)(魔力回復速度上昇)(マテリアル2)(忍び足)(秘密の檻)


アクティブスキル

攻撃

(『始まりの火球ファイアーボール』)(『氷の雨コルドレイン』)(『魔弾バレット』)

支援

魔法使いの加護マジシャンコート)(『始まりの治癒ヒール』)(『足止めの呪いヴァインカース』)(『隠れ火の指針フレアペンデュラム』)


装備

武器:トレントの加護杖

頭:魔女の耳飾り

胴:霞みの森の鎧

腰:姫猿革の腰布

足:霞みの森の鉄袴

特殊:ブラインドチャイム

金額:150ユーマ


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 自分のステータスを確認して、手札を確認する。

 リットくんとのレベル上げでもうレベル1でびくびくしているだけじゃない。

 私の職業は魔法使い……けど一か月間戦闘を避け続けたおかげで(隠密)と(忍び足)のスキルがある。この二つを駆使すれば逃げるのだって難しくない。

 接触しなかったらしなかったで先に進めるわけだから気にしなくてもいい。

 アルチーノさんから貰ったプレゼントも装備しているし、むしろ序盤にしては安全なステータスを持っていると思う。


「私のスキルを活かすなら隠れる場所も多い「弱肉強肉の大森林アライブフォレスト」ね……他は平原や山でスタミナの無い私にはむしろ難しいだろうし……」


 私はステータスウィンドウを閉じると西門へと向かう。

 途中の露店で食べ物を食べて空腹度もしっかり調整、インベントリにも余裕がある事も確認した。

 西門付近にはもっとプレイヤーがいて、情報交換しているのか話し込んでいる人達ばかりだ。これから先にある冒険に思いを馳せているような人はいない。

 あるのは死神にどう出くわさないかどうかだ。

 私はそんな人達を尻目に西門のほうへと歩を進める、


「お、おいあんた! 一人で行く気か!?」


 誰かが私の背中に声を掛けた。

 足を止めかけたけど、振り返らずに私は歩を進める。

 今立ち止まったら恐怖に負けて引き返してしまいそうだったから。

 ……ヘッドギアを叩き壊そうとするお母さんの姿が頭の中にふと浮かんだ。

 お母さんがああなってしまったように、自分も耐え難い恐怖を目の当たりにしたら、あんな風になってしまうのだろうか。





 トライグラニアから少し歩いて私は「弱肉強肉の大森林アライブフォレスト」のエリア内に入った。

 グラニア渓谷はプレイヤーが多くいたにもかかわらず、このエリアにはほとんどプレイヤーがいない。

 まるで人の立ち入りを禁止されたかのよう……このエリアに生息してるだろうエネミーの鳴き声や虫の羽音しかしない。


 このエリアは霞みの森より巨大な樹木によって地形が荒れている。

 かつてここにあった文明を呑み込むように木々は立ち並び、人の胴より太い蔓が巻き付いている。そこここに咲いている極彩色の花々はまるで塗装されたかのように主張して小動物を待ち、地面は緑でないところのほうが少ない。

 動物も植物も食らい合い、互いの肉になり合う……それがこの「弱肉強肉の大森林アライブフォレスト」というエリア。危険だがその分ドロップの恩恵も大きいいわゆる美味しいエリアだ。

 (隠密)と(忍び足)のスキルを駆使して私は巨大な樹木の陰を進んでいく。


「こんな所でどうやってプレイヤーを正確に狙いをつけているんだろう……?」


 想定通り、このエリアは隠れる所が多くある。

 事実エネミーを何匹か見かけたが物陰に隠れながら(隠密)スキルを駆使すれば回避できた。

 エネミーにはプレイヤーを見つける事が出来るスキル持ちがいたりするが、プレイヤーが他プレイヤーの位置を把握するには基本的にフレンドになったりパーティを組んだりしなければならない。

 特定のプレイヤーを見つけるスキルは色々な問題を危惧されて基本実装されていないのだ。

 けれど、死神というプレイヤーキラーは騒ぎになるくらい多くのプレイヤーを狩っている。私がリットくんと出会う前に聞いた噂の時点で百人以上をPKしているとされていた。

 なら……今では千回以上PKしていてもおかしくない。

 そんな数は不可能だと思いたいけれど、トライグラニアにあれだけのプレイヤーが集まっている事を考えると大袈裟でもないのではないだろうか。


「それにしても、エネミー以外の虫が多いわね……虫苦手とかだったらこのエリアに入る前に気絶してしまうんじゃないかしら……」


 リットくんとかはどうだろう? 意外に虫が苦手だなんて事もあるんだろうか。

 男の人にしては線が細かったから、そんな一面があったら何となく可愛いけれど……いやリットくんなら虫に目を輝かせながら捕まえて見せてきそうだ。

 うん、こっちのほうがリットくんっぽい。


「……そんな風に、ゲームできればなぁ」


 少し羨ましい。

 どこかで恐がってゲームをしている私と、そんなもの無くゲームをする彼。

 配信でエタブルを楽しんでいる人達を覗きながらモチベーションを保っていたけれど、一人でエリアアリシアを探している時は全く楽しくなかったから。

 ……最近はそうでもないけれど。

 やっぱり私にとってゲームは誰かとやるものみたいだ。


「感謝は、しないとね」


 偶然とはいえ、同じエリアアリシアを共有してくれた事に。

 初めて会った時、あんな風に・・・・・言ってくれた事に。


「……!?」


 それは偶然だったと思う。

 突然エネミーの一体が樹上を見た。何気ないそんな行動。

 その違和感に、私はすんでの所で気付けたのだから。


「くっ――!!」


 急いで前に飛び込む。

 瞬間、私のいた場所に一本の剣が突き刺さった。

 もう死角から狙う必要はないと思ったのか、上から声が聞こえてくる。


「お? 初心者の魔法使いにしては動きがいいな?」

「はっ……! はっ……!」


 上から降りてきたのは長身で黒の長髪を靡かせる大男。

 私は息を荒くさせながらも、背中に背負っている巨大な大鎌に釘付けになってしまっていた。


「その警戒の仕方を見ると……覚悟くらいしてきたんだろ? "死神"に狩られる覚悟をよ?」


 プレイヤーキラーは反吐が出るような自己紹介をしながら笑みを向けてきた。

 相対してようやく"死神"とあだ名で呼ばれていた理由を理解する。

 ……プレイヤーネームが、見えない! プレイヤーキラーを示すマークも!


「やっぱり、電脳神秘師ニューゲート……!」

「おっと、あんた……ようやく当たりかぁ!」

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