15.気安い関係になったのだとポジティブに捉える事にした
「じゃあ合わせてくれ」
「う、うん!」
グラニアエイプの集団が気付く前に後ろから武器を
一匹の首に刺さり、そのまま倒れる。消滅しないという事はまだHPが残っているみたいだが、今はそれでいい。
仲間が倒れたのを見て突っ込んでくるグラニアエイプの群れ。全部で四匹。
だが一直線に俺に向かってくる所を見るにヘイトはとれている。
「『
背後から来る声と迫ってくる熱を感じて俺は横に跳ぶ。
ニーナの魔法は一匹のグラニアエイプを呑み込んで、後続の三匹を怯ませた。
火に怯えるグラニアエイプの側面に回り、俺はインベントリから武器を取り出す。
「一つ」
一番近くのグラニアイプの首に初心者用短剣を一突き。
このエリアにはまだ皮膚を装甲や魔法で守っているエネミーはいない。
首以外では大してHPも削れないが、首なら
グラニアエイプの首を一突きして耐久が限界を迎えたのは、初心者用短剣は消滅する。
「キキキッー!!」
「二つ」
インベントリからまだ武器を出して飛び掛かってくるグラニアエイプの首に投擲。
武器をどんどん消費しているが、初心者用短剣だがらコストは無いみたいなもんだ。
「き、キキーッ!!」
「四つ」
ニーナの魔法で火に巻かれていた四匹目。
グラニアエイプは狂暴な設定だが、自分が燃やされたのと仲間がやられたのを見て逃げようとしたのだろう。
最初のエリアである霞みの森のゴブリンみたいに戦い続けない所がやけにリアルだと感心するが、だからといって逃がす理由もない。
飛び掛かってこないならこちらかと距離を詰めながらインベントリから武器をまた取り出す。
ガーデニングスキルを取得した時に貰った小鎌をそのまま振り抜いて、グラニアエイプの首は飛んだ。
「ぎ……ぎ……」
「五つ」
最後に、最初の投擲で仕留め損ねて倒れていた五匹目の首に刺さった短剣を踏んで深く突き刺す。
赤いデータが飛び散って、五匹のエネミーは全て動かなくなった。
お、霞みの森よりも大分経験値効率がいい。ものの数秒でもう次まで半分くらいになったぞ。
「俺もグラニア渓谷のエネミーはほとんど倒してないからドロップアイテムは山分けでいいよな?」
「…………」
「ニーナ!」
「え!? あ、う、うん!」
ニーナは何故か固まっていたが、俺に名前を呼ばれるとようやく気付いたのかグラニアエイプのドロップアイテムを漁り始める。
……もしかして勝手にやり過ぎたか?
ドロップアイテムを漁りながら今の戦闘を振り返る。
かなりいい感じに奇襲できたつもりだったが、もしかしたらニーナはほとんど戦闘できなくて不満だったのかもしれない。
こういう戦闘もゲームの醍醐味だもんな……楽しみを奪われたらそりゃ嫌か……。
「あ」
「ん? ど、どうしたニーナ?」
ちらっとニーナのほうを見ると、ニーナもこちらを見ていた。
するとニーナは慌てた様子で目を逸らしてくる。
「ううん、なんでも! レアドロップみたいなのはないかもね!」
「あ、ああ……そうだな」
もしかして俺パーティ向いてないのかも……?
でもあんな感じでやるのが一番楽だと思ってるからどうしたものか。
ドロップアイテムを漁った後、少し気まずくなりながらグラニア渓谷を歩き始める。
「この調子でいきたいんだけど……ニーナはこうしてほしいとかあるか?」
「ううん、全然! なんというか……最初にゴブリンを倒した所を見せて貰った時にもちょっと思ったけど、リットくん凄いね……?」
「え、そうか?」
どうやら不満があったわけじゃないようでほっとする。
まさか褒められるとは思わなかった。最初の時もそうだったが、ニーナは割と大袈裟に持ち上げてくれる子なんだな。
「でも何でまだ初心者用短剣使っているの?」
「特に理由は……いっぱいあるから使いやすいなって」
「いっぱい……? 最初に一本貰えるだけじゃなかったっけ?」
「ほら、このゲームの武器って耐久値があって初心者用短剣なんて耐久値修復してまで使う人いないじゃん? ほとんど限界になったやつが鍛冶屋にいっぱい売られてきて、鍛冶屋のNPCと仲良くなるとガラクタだからって譲ってくれるんだよ」
「へぇ……」
鍛冶屋に入り浸って(鍛冶屋の友人)スキルが取得するとそういうイベント会話が起きるらしく、俺は最初の町の鍛冶屋NPCレギンさんから初心者用短剣を何本も貰っている。
最初はお金も使わなくてすむし、案外耐久値が残ったまま売られたであろうやつが混じっていたりして便利なのだ。
後半になれば難しくなるのだろうが、首があるエネミーは首さえ落とせば倒せるので耐久値が高い武器なんて必要ない。
首狙い最高。首斬り祭りで飛ばせ飛ばせ。初心者は首だけ狙えばハッピーだ。
「なんか……掲示板で見た死神みたい……」
「掲示板がなに?」
「ううん、リットくんは……PKした事ないわよね?」
「ないぞ? てか、PKについてもニーナから教わったからな俺は。言われてみれば普通にプレイヤー対プレイヤーは起きてもおかしくないよなってあの時に思ったくらいだ」
「そうよ、ね……うん、ごめんなさい。気にしないで」
ニーナの口ぶりからするとどうやら俺と似たような事をしているプレイヤーが他にもいるようだ。
でもこれだけ効率がいいんだから、同じ事をやっているプレイヤーがいたっておかしいとは思わない。
「じゃあこのままレベル上げをしながらトライグラニアを目指しましょうか。拠点がアルティムだとちょっとここまで歩いてくるのに時間かかるし……リットくんのおかげでこのままのペースで行けばトライグラニアに着く頃にはレベルも適正になっているでしょうし」
「さっきみたいにやってもいいか?」
「ええ、でも私の攻撃はちゃんとかわしてね? 同じパーティ内でも
ニーナの真剣な忠告に俺は首を傾げる。
そうは言われてもな……この前ニーナに胸を刺して貰った時別にだったんだよな。
「その
「本当にあるわよ! 前みたいに私が胸を刺すとかごめんなんだからね!?」
俺の質問に少し表情が険しくなり、早足になるニーナ。
ニーナに追い付くとニーナは怒っているのか頬を膨らませている。
「悪かった悪かった……別に疑ってるわけじゃないから」
「……トライグラニアに着いたら何か奢って」
「はは、わかったよ。姫にお似合いの装備でも見繕いましょうか」
「ひ、姫って……何かリットくんにそういう事言われるの……い、いえなんでもない」
なんだその引きつった顔……今まさか気持ち悪いって言おうとした?
おい、今度は俺が怒るぞニーナさん。
やっぱりこういう台詞はイケメン限定ってわけか……。
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