14.現実と仮想と距離
アルチーノさんとの出会いから三日経つ。
結局俺達に接触しに来た
ニーナもアルチーノさんが来た直後は他の
ニーナもレベルが15まで上がったので流石に慣れたのか、レベル上げの狩場をグラニア渓谷に変える事も普通に頷いてくれた。
「ニーナ?」
「え? な、なに? 今度はグラニアエイプを倒せるようになればいいのよね?」
「ああ、レベルも近くなってきたし俺も参加しようと思うんだけど……」
「本当? リットくんが戦ってるところ見るの初めてだから楽しみかも」
けれど、ニーナの様子はあの日以来おかしいように見えた。
口数も少なく、どこか無理して笑っているような。喋っている時は普通になのだが会話が途切れると違う事を考えているように見える。
一体ニーナは何を悩んでいるんだろうか……?
じろじろとニーナを観察していると怒られてしまった。しかしニーナは初めて出来たフレンド……見て見ぬふりはしたくない。
ニーナと別れてログアウトした後も一人で……
自分<「ニーナの様子が変なんですけど、アルチーノさん何か話しました?」
アルチーノ<「サインは何に書いて欲しいかって話はしたけど?」
悩んでいる時間がもったいないので相談する事にした。
同年代の友達がいない自分があれこれ考えても思い当たる節が見つかるはずもない。
アルチーノさんとは知り合って以来、メッセージアプリで少し話すようになったので相談相手としては適任だと思う。
ニーナと同性でかつ同じ
自分<「何か様子が変なんですよね」
アルチーノ<「私と出会えた事が嬉しくてしばらく放心しているんじゃない?」
自分<「ははは」
アルチーノ<「愛想笑いすな」
「真面目な話すると、そっとしてあげたほうがいいんじゃない?」
自分<「そういうものですか?」
アルチーノ<「あなたはニーナちゃんの協力者だけど専門知識は無いし、リアルのニーナちゃんについて何か知っているわけでもないんでしょう? 聞いてあげるだけでも楽になるって事もあるけど、話せない事だったら気を遣われる申し訳なさでもっとしんどくなるもの」
アルチーノさんからのメッセージをベッドの上で寝転びながら読んでなるほどと頷く。
確かに話せれば気が楽になるかもしれないが、俺は無知な上に同じ立場でもなく、さらに言えばニーナから完全に信頼を得られているわけでもない。
協力者である俺に話していないという事は話せない事の可能性は確かに高い。
自分<「なるほど、確かにそうですね」
アルチーノ<「だからもしニーナちゃんが暗かったら出来るだけ一緒にいてあげてるといいんじゃない? ただ暗くても同じ時なんて一瞬も無いから、考えが変わって打ち明けたいってなった時に誰かがいてくれるのは安心すると思うわ」
自分<「ゲーム内ではずっと一緒なのでその点は大丈夫かもしれません。確かにリアルの悩みかもしれませんし、ゲームを気分転換でやっていたそこに話を持ち込ませるのは野暮ですね。相談に乗ってくれてありがとうございます」
アルチーノ<「少年少女のお悩みに寄り添うのも大人の役目ってやつ? あ、でも向こうからがっついてくる大人はやばい奴だから気を付けなさいよ。頼られた時にスマートに真剣に答えるのが大人だから」
自分<「アルチーノさんは案外面倒見がいいというか、こういう質問にも普通に答えてくれるので頼もしいですね。自分は相談できる人がほとんどいないので参考になりました」
アルチーノ<「ふふふ、ようやく私の凄さがわかった? そう、あなたとフレンドになってあげたのは頼りがいのある大人のお姉さんでありながら人気絶頂中の超可愛いエタブル系V
これは既読無視で寝た。
いい人ではあると思う。
「あ、こんにちはリットくん」
「ああ、今日は早いなニーナ」
翌日、病院で検査とリハビリを終えてエタブルにログインするといつもより早い時間にニーナがすでにログインしていた。
ニーナが俺と同い年くらいだとすればまだ学校がある時間だと思うが……ずっと同い年くらいだと思っていたけれど、もしかしたら違うのかもしれない。
昨日アルチーノさんに言われた通り、俺はニーナの事を何も知らない。
「リットくん? パーティ申請送ったよ?」
「ああ悪い」
動かなかった俺を不審に思ったのか首を傾げて覗き込むニーナ。
俺は急いでパーティ申請を受理する。
「あれ? レベル上がってる?」
「そ! 今日リットくんを驚かせようと思って!」
パーティ欄のニーナのレベルを見るとニーナはレベル17に上がっている。
昨日が15だったのでもしかしたら昨日俺がログアウトした後も頑張っていたか、今日かなり早めにログインしていたに違いない。
「驚いた。一人でグラニアエイプ相手は大丈夫だったのか?」
「うん、アルチーノちゃんにアドバイスして貰ったの……サインあげるってメッセ貰ったついでに相談に乗って貰って……リットくんに頼り切りなのも悪いでしょ? だから攻略サイトとかで調べたりしたんだ。ここら辺のエリアはもう色々情報が載ってたから」
「そうか、凄いなニーナ」
グラニア渓谷へと向かう途中、ニーナは楽しそうにアルチーノさんの話をしてきていた。今日は昨日よりは元気そうだ。
これもアルチーノさんに相談した結果だろう。俺からの相談だけじゃなく、ニーナからの話もきっちり聞いてあげているのは頼れる大人と自分で言うだけある。
「アルチーノちゃん、私と同い年なのにしっかりしてて相談にも優しく答えてくれたんだ。最初は同じ
「ん?」
「どうしたの?」
何か妙な事を聞いたような?
「誰が? 誰と同い年?」
「え? 私とアルチーノちゃん、だけど……?」
……思えば、アルチーノさんに何故ちゃん付けなのかと疑問だった。
俺にくん付けするニーナなら年上にはさん付けしそうなものだが、その理由はどうやらニーナはアルチーノさんを同い年だと思っているらしいからだった。
「えっと……聞いて欲しくなかったら申し訳ないんだけど……ニーナって何歳?」
「十七歳だよ? 言わなかったっけ?」
「あー……えっと……? それで? 誰と誰が同い年……?」
「だから、私とアルチーノちゃん。アルチーノちゃんは女子高生配信者だよ? それで
「そー……なんだ……?」
尊敬半分ファン感情半分のニーナの笑顔を見て、昨日アルチーノさんに言われた、リアルについて何か知っているわけでもない、という言葉に物凄い説得力を感じ始める。
……確かにリアルの事なんてゲームやアプリ越しじゃほとんどわからないよな。
あれだけ俺に対して大人のお姉さんアピールしているアルチーノさんでさえ、ニーナの様子を見れば配信者としては別の顔を持っているんだろう。
だから、そばにいてあげるだけっていうのが大事とアドバイスしてくれたのか。
いつか別の顔を見せてもいいと、頼ってもいいと思って貰えた時のために。
どれだけフルダイブによってリアルに感じて、人との距離が近くなったように思ってもここはゲームの中で、人によっては現実ではない仮想だから。
「そりゃずかずか踏み込まれて奇妙に思われたら……頼る相手どころじゃなくなるんだもんな……」
「どうしたの?」
「いや、なんでも」
頼られたいわけじゃないが、今更変な人とは思われたくはない。
なんとなくアルチーノさんのアドバイスが的を射すぎているというか経験豊富な人生に基づいているような……やっぱり同い年じゃないだろあの人?
「それじゃあやるか……早い時間だし、今日中に20は行きたいな」
「え!? だ、大丈夫かな?」
「今のニーナのやる気なら余裕だろ。パーティで狩るのはほとんど初めてだけど、俺がモンスター釣るからまずはそこに魔法撃ち込んでくれるだけで助かる」
「わかったわ!」
俺はただニーナを手伝うだけだ。
それが俺の体を治したこのゲームの謎に近付くために俺が決めたやり方なんだから。
ニーナについて色々と悩んていたのが妙に吹っ切れて、俺はグラニア渓谷に到着した瞬間グラニアエイプの集団に突っ込んだ。
そもそも何故ニーナを手伝いたいのか、湧いて出た別の疑問は今はどうでもいい事だ。
――――――
あけましておめでとうございます。
誰がとは言いませんが彼女は二十三歳です。
いけるいけると本人は言っています。
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