13.トライグラニアの死神
最初の町アルティム周辺でこのゲームの動きに慣れた初心者が辿り着く大都市であり、この都市に来るまでがチュートリアルであり、ここから先からゲームは始まると言われる町である。
プレイヤーが集まって徒党を組むクランの設立や登録、職業やスキルに関する情報や転職施設でもある職業ギルドへの所属、この世界を歩む上でストーリーが展開されるメインクエストの開始、各種サブクエストのフラグからミニゲームを遊べる酒場などなど……ここから先基本となる要素に寄り道の仕方などをこの町で経験してから次に進むのだ。
この町をスルーして進む事も出来るが、少し先にあるマップである首都などは職業ギルドへの所属が無いと身元確認が出来ないという理由で入るのを拒否されたりするので縛りプレイをしないのであれば大人しく寄るのがいいだろう。
なによりここをリスポーン地点として登録しなければ必然リスポーン地点はアルティムになってしまうので戻ってくるのが面倒臭い。
そしてここから先はチュートリアルであった最初の町アルティム周辺よりもエネミーの強さなどが本格的になってくる。しっかりと装備を整えて、準備をしてから君を待っている冒険の舞台を楽しもう!
「あぎゃ、いだあアアあぁああ!?」
トライグラニアから出発したプレイヤーは主に三つのエリアへと進む。
北門からは鉱石系アイテムが豊富な「アルコレイ山脈」。
西門からは職業スキル強化のドロップが多い「
南門からはクエスト進行の近道となる王都へ繋がる「
その一つ、大森林と呼ばれる「
「なんで、おで……つうがくオフに、じてるのに……!」
涙目で転がる男性プレイヤーの名はオオガミ。トライグラニアで装備を整えて、最初の町アルティムで知り合ったフレンド二人とパーティを組んで三十分前に意気揚々と出発した。
大森林で待っていたのは霞みの森のような生温いエリアとは違う緊張感、グラニア渓谷のようなある程度予想できる道中とは違うあまりに予想付かないエネミーと地形、フルダイブシステムによって伝わってくる圧倒的な臨場感。
……そして、パーティ全員が八つ裂きにされる惨劇だった。
設定ウィンドウを開いて痛覚再現設定を確認する。
間違いなくOFFになっている設定と斬られた部分からじんじんと伝わる激痛が表情を歪ませる。
「あんだ、よこれ……! ばぐだ……バグだぁ……!」
ずぶり、とウィンドウを操作する手に刃が刺さる。
そのままオオガミの手首は宙に舞った。
「あ!? い、ぎゃあああああああ!!」
「おいおい、大袈裟だな? 痛覚オフなんだろ? そんな叫ぶなんて
「ひっ……! ひっ……!」
手が斬られてもここはゲーム……インベントリや設定の操作ができなくなるなんてことはない。
だが伝わってくる激痛と目の前で自分の手が飛んだ光景に頭の中が塗りつぶされる。
痛い。痛い痛い痛い――!
現代社会でおよそ経験しないような痛みが信号となって体を走り、思考は極限まで狭まっていた。
両手は飛ばされ、背中には肩から腰まである傷、足にも刺し傷。
血を示すであろう赤いデータがそこら中で音を立てていて、HPの表示は2。
見上げると、自分を追い詰めているプレイヤー……プレイヤーキラーが巨大な大鎌を肩にかけながら見下ろしていた。
「だのむ、だずげ、て……バグだ……。痛い……いだい……! たのむ……やめで、くれ……ポーショ、ポーションを……。ごんな痛いの、死ぬ……死んで、しまう……」
普段であれば自分をこんな状態にしたプレイヤーキラーに助けを求めるなどおかしい事に気付けただろう。だが痛みから逃れたいオオガミは荒い呼吸で必死に助けを求める。
「なんだって! そりゃ大変だ! とはならんわな?」
「待て! や、め――!」
ボロボロと涙を流しながら懇願するが、プレイヤーキラーはその声さえ最後まで聞く事は無い。
後は少し攻撃してやればリスポーンするであろうオオガミに、大鎌を思い切り振りかぶってその首に振り落す。
首に振り落された凶刃はオオガミの装備ごとHPと首を刈り取り、大森林での冒険に胸を躍らせていたプレイヤー三人は恐怖と痛みをトライグラニアの宿屋まで持ち帰った。
「バグ?
自分の足下で消えていくプレイヤーを見ながらプレイヤーキラーは笑みを浮かべる。
けらけらと、最後の懇願を
「そんなわけねえだろってなあ? いやあ助かったぜ初心者さん、見張りってのはストレスたまるからな……これくらいの役得はないとな?」
長身に黒い長髪、顔立ちの整った大男が背負う武器は大鎌。
"重騎士"と呼ばれる巨大な武器を扱う職業だが、彼はスタンダートな重い鎧を装備せずに敏捷を重視して立ち回るのを得意とする。
最近エタブルを騒がせているトライグラニアから出発する初心者をPKするプレイヤーキラー……名をクドラク。
彼は今トライグラニアに辿り着いた初心者が先に出発せずに留まり続ける原因でもある。
トライグラニアから出て行けばプレイヤーキラーに必ず出会う。しかもそのプレイヤーキラーからの攻撃は何故か激痛が走るという噂が広まっていた。
「けど感謝してほしいもんだ。俺ら
あまりに恩着せがましい台詞を吐きながら、キルしたプレイヤーのアイテムをインベントリに回収するクドラク。
とある掲示板で"死神"と呼ばれている悪質なプレイヤーキラーは次の獲物を求めてその場から離れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます