12.温度差
「お、お、応援してます!」
「ありがと! こんな可愛い子までリスナーだなんて嬉しい……! これよこれ……私が求めていた声はこういうのなわけ……!」
「そんな得意気に言われても……」
どうやらアルチーノのファンだったニーナはアルチーノと会えたのがよほど嬉しかったのかもじもじと近付いて握手を求めた。
握手に応えたアルチーノも自分のファンと出会えたのに大満足なのか、反応が薄かった俺のほうを見てふふんと勝ち誇っている。
いや、そんな顔されてもどうしろと……?
「あ、あの! さ、サインとかって頂けないでしょう……あ! インベントリが!」
「ふっふっふ、慌てなくて大丈夫だよ……後ゲーム内でサインはできないから」
「あ、そ、そうですよね!」
ニーナはよほど動揺しているのかインベントのアイテムを周囲にばら撒いてしまう。
せっせと拾う動作もどこかぎこちない。拾うのを手伝ってやりたいがインベントリから出したアイテムは一定時間、そのプレイヤーに所有権があるので手伝えない。
ニーナがアイテムを拾い終わると、アルチーノさんはニーナと肩を組んだ。
「サインはできないけど一緒にスクショ撮ったげるねー!」
「は、ひっ……!」
瞬間、変な声がニーナから漏れる。
ニーナは黒髪クール系美少女だと思っていたが、こう見ると可愛いが先に来るな。
いや、ゴブリンから逃げ回ってた時からクール系というよりはポンコツ系って感じだったか。口に出したら怒られそうだからこれは言わないでおこう。
「はいこんチノー!」
「こ、こんチノー!」
妙な掛け声と共にぱしゃりと一枚、もう一枚。
慣れた笑顔と緊張で引きつった笑顔が同じ写真に収まっていく。
それが終わったかと思えばポーズを変えてまた一枚。今度は手をがっちりと繋いでぱしゃり。
楽しそうにしている所悪いが、話が進まなさそうなので横から口出しする。
「ニーナ、この人
「え!? アルチーノちゃんが!?」
「ちょ!? 何言ってくれちゃってんの!?」
「いやニーナも
「え!?」
俺がそう言うと二人は驚いて顔を見合わせる。
互いの正体がばれても手は繋いだままなのが面白い。
「ちょっと待って……? じゃああんたはなんなの!?」
うーん、冷静に考えるとなんなんだろう……?
「あっはっは! ニーナちゃん頭よさそうな見た目してるのにうっかりだねぇ!」
「反論の余地もなく……」
ニーナから俺と協力関係になった経緯を話すとアルチーノさんはけらけらと笑っている。
雰囲気から察するにどうやら敵対するために来たわけではないようだ。何か魔術師って聞くと魔術で戦ったり殺伐としたイメージあったから……いや、こういうイメージもフィクションの影響のほうが強くなった結果って事なのかも?
「派閥とかあった一昔前なら懲罰受けちゃうから気を付けなよー?」
「はい……焦ってしまって……」
あ、やっぱ殺伐してる時代はあったんだ。
「じゃあリットくんはただの協力者って事なんだ?」
「一般人が首突っ込むのまずいですか?」
「いんや? 魔術が基盤になっているとはいえあくまでゲームだからね、一般プレイヤーに協力して貰って情報集める
アルチーノさんにそう言われて俺は少しほっとする。
「積極的にばらす事はないけど、ばらした所で信じてもらえないくらい現代は魔術が衰退してるから信じて協力してくれる協力者とか貴重貴重。
運が良かったねニーナちゃん……ちょっと変な子みたいだけど」
「そこは……まぁ……」
あれ? 否定される気配が無いぞ?
何でこっちを見て諦めたような顔をする?
「でも……うん、とてもいい人です」
噛み締めるような声に不覚にもちょっとぐっときてしまった。
アルチーノさんもそんな俺に気付いたのかにまにまと視線を向けてくる。
「それで? 目的は何です?」
「あ、照れてる……意外に可愛いとこあんねー?」
「何です?」
にまにましている顔に少しイラっとしてしまう。
けれど、こういうやり取りは何というか新鮮で心の底から不快とも思えなかった。何でだろうか。
「
情報交換目的の撒き餌だと思ってはいたから場合によっては交渉で、万が一悪人だったらマークだけはってスタンスでね」
「交渉……」
俺は確認の意味も込めてニーナのほうをちらっと見る。
ニーナも俺のほうを見ているが……決定権はニーナのほうだろうと顎をくいっと動かして意を示す。しかしニーナは迷っているようだった。
これは……ニーナの考えが纏まるまで俺が少し話をしたほうがいいか。
「……アルチーノさんの
「ん? ないよそんなの?」
「え!?」
さらっと言ってのけるアルチーノさんに考え込んでいたニーナが驚く。
「だって私は
このゲーム自体には感謝してるよ? このゲームのおかげで私の可愛さがようやく多くのリスナーに届いたから」
「では何故……
ニーナが問うとアルチーノさんは首を傾げた。
「な、なにそんな切羽詰まった顔して……? 偶然そういうファンタジーな家柄だったからやってるだけだよぅ……。別にやりたくないわけじゃないし、
「……」
ニーナが驚愕している所を見るとニーナとはだいぶスタンスが違うようだ。
正直な話、俺はアルチーノさんの言い分はかなり妥当に聞こえる。
魔術は科学や化学に取って代わられて現実ではもう衰退し切った。
なら、自分が
「ですが、このゲームの目的がもし……」
「あくまで実生活のついでに
「……い、え……そうですね……」
俯くニーナの様子を見てアルチーノは視線を合わせるようにしゃがむ。
「そんな顔しなくても、こうしてせっかくの縁なんだから……気持ちが落ち着いたらお姉さんを頼ってくれたまえ! これでもそこそこやってるからレベル47の中堅どころだよ?
君達のレベルがもっと上がったら、いつか足並み揃った協力関係になるかもね?」
「ありがとう、ございます」
アルチーノさんはにかっと笑って手元で何かを操作する。
すると、俺とニーナにフレンド申請が送られてきた。
「君達がどういう人達かもわかったし……さあ受け取るといい! 私とフレンドになれる名誉を!」
「あ、どうも」
「リットくん反応うっす……。私のリスナーなら泣いてよろこ……ばない子もここにいるか」
残念そうなアルチーノさんに気付いたのかニーナは顔を上げる。
「い、いえ! とても嬉しいです!」
「そ? よかった……じゃあ私落ちるから、何かあったら連絡してきてくれたまえー。
あ、配信中は勘弁してね。リットくんは配信中かわかるようにチャンネル登録しといて! それと通知が来るように――」
「わかりましたから早くログアウトしてください」
「塩ー! でもそういうの新鮮で嫌いじゃないー!」
そう言い残してアルチーノさんは手を振りながらログアウトしていった。
とりあえずチャンネル登録……チャンネル登録ってなんだろう?
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