3.思い切り遊ぼう。そう今まで以上に

「わかってたけど……もしかして俺って馬鹿なのか?」


 襲い掛かってくるモンスターを退けて、俺は何とか初心者が最初に拠点とする町アルティムに戻ってきた。

 この町は最初の町だけあって広くはないが、リスポーン地点となる宿屋にポーションや薬草を販売する薬屋、武器防具を作る鍛冶屋や空腹を解消するための露店など基本的な施設が揃っている。

 そんな町に飛び込むようにして帰ってきた俺はぼやきながら露店で買った串肉を鍛冶屋の隅っこで頬張っている。

 やたらモンスターに襲われたのが自分で高笑いして|注目(ヘイト)を集めたからだと気付いたからである。でもテンション上がると仕方ない。


「なんか……食感はあるのに味がしないってのも変な感じだな……」


 エタブルはほぼ全ての感覚が現実のように再現されているが、味覚は再現されていない。香りはあるし肉を食べれば肉っぽい食感はするのがまた変な感じだ。

 人によってはこの妙な感覚が受け付けないという人もいるらしいが、ずっと病院暮らしだった俺は大して苦に感じなかった。病院食だと思えば別にね。

 それにしても何で味覚は駄目なんだろうか? ポーションも味しないんだよなぁ。食べられないものは食べられないアイテムとして分類されているし、正直理由はわからない。


「おい、ここで食うのは別に構わんがこぼすなよ!!」

「気を付けます店主さん」

「ったく、こんな鉄臭い場所で食事なんて物好きな奴だ」


 カウンターから顔を出して注意してくるのはこの鍛冶屋の店主レギンさんだ。

 勿論NPCのはずなのだが、こうして普通にプレイヤーとの会話もこなせる。

 屈強な体躯に長い髭、そしてなにより強面な顔が特徴的で……そのせいか武器防具を調達するなら鍛冶屋よりも既製の装備が売っている武器防具ショップのほうにプレイヤーは集まりがちだ。


「言っておくがそんなすぐにはできねえからな」

「大丈夫です、じっとしてるの得意なんで」

「宿屋に帰れよ……」


 そう言って店主さんは奥へと引っ込む。

 さっきトレントから手に入れた「霞みの森の霊木」で作れる防具を依頼しているのだ。

 店主は頑固な性格に設定されているからか、本来なら装備作成を依頼すると追い出されるのだが俺は友好度を上げて(鍛冶屋の友人)スキルを持っているので店の隅っこで肉を食らっていても追い出されない。

 ログイン直後、プレイヤーと話す練習としてNPCと会話しまくったからな。リアルでは病院で賀茂先生と話す機会が一番多かったから、ずっと年上の人と話すほうが気楽だったのである。



========

PN:リット

LV:10


HP(体力):55

MP(魔力):10

STM(スタミナ):55

STR(筋力):25

AGI(敏捷):35+5

INT(魔法):1+5

VIT(耐性):20

LUK(幸運):8+5


パッシブスキル

(値切り)(鍛冶屋の友人)(ガーデニング2)(登攀4)(落下耐性)


アクティブスキル

戦士の矜持ウォーリアープライド)(魔法使いの加護マジシャンコート


装備

武器:初心者用短剣

頭:無し

胴:先駆けの革鎧

腰:先駆けの腰布

足:先駆けの洋袴

特殊:無し

金額:1200ユーマ


========



 肉を食べ終わり、空腹感が無くなったのを確認すると俺はステータスを開く。

 ふむ……フレンドや知り合ったプレイヤーはいないから他と比較する事はできないが、プレイして三日の割には結構進んだほうじゃないだろうか。

 最初の二日はプロローグを読んだり、チュートリアルで町でNPCとお喋りばっかりしていた割にはレベルも順調に上がってる。チュートリアルを全て終わらせた後に全部やらなくてもいいって知ってちょっと悲しくなったのもいい思い出だ。

 テスターの時にプレゼントして貰った装備のお陰でそれなりに余裕もあるし、まだ一回もリスポーンもしていない。いや、崖からダイブした時はしかけたけどしなかったからセーフ。

 金に関しては今装備を作るのに使ってしまったから稼ぎに行かなければいけない。


「トレント以外の経験値は正直もう美味しくないけどあれだけ狩りまくったおかげで結構レベル上がったな。ボーナスポイントがいまいちどこに振ればいいかわからないんだよな……やっぱ武器の取り扱いに関係する敏捷か……? それとも一向に上がらない魔法か? 魔法耐性に影響あるらしいからこれからそういう敵に会ったら困るのかも」

「すいませーん」


 俺が店の隅っこでステータス画面と睨めっこしていると後ろから声を掛けられた。

 振り返ると、そこには初心者用装備に身を包んだ長身の男性キャラが立っていた。俺と同じ初心者のプレイヤーかな。名前はスグル。何かリアルネームっぽい。


「はい?」

「武器の作成依頼したいんですけど……素材もあります」

「え?」


 ……それを何で俺に言う?

 一瞬意味が分からなくて混乱したが、隅っこにいたからか俺のプレイヤーネームが壁にかかる武器に隠れているのに気が付いた。


「えっと、俺店員さんじゃないです……」

「え!? すいません! カウンターに誰もいなかったんで……あ、ほんとだ。プレイヤーネームちらっと見えてる!」


 やはり俺をNPCと勘違いしていたようで、そのプレイヤーは俺にぺこぺこと頭を下げてカウンターのほうに歩いていく。

 店主を呼ぶ声で奥のほうから店主のレギンさんが仏頂面で出てくるが、そのプレイヤーは特に気にしていないようで、そのまま武器の作成を依頼していた。

 俺はそれを見届けると、改めてステータスと睨めっこを再開する。さてボーナスポイントどこに振ろうか。

 そんな風に悩みながらも狭い店内なので、後ろからしっかりと会話は聞こえてきていた。


「レギン……あの、ここって下半身装備がオススメなんです?」

「あん? 何言ってんだおめえ?」


 そんな会話が聞こえてきて、ついつい頷いてしまう。

 気持ちはわかるよ。俺も最初そう思ったもん。

 それにしても初めてプレイヤーとまともに喋ったかもしれない…………あ、もしかしてこういうきっかけでフレンドを作るのか!?

 そう気付いて振り返るが、すでにそのプレイヤーは店を出た後だった。自分の会話スキルの低さに泣きたくなる。初日にNPCと交流した経験が全く活かせてないじゃないか俺……何か同い年くらいっぽかったのに。


「はぁ……ポイントは明日にするかぁ……」


 ボーナスポイントをどこに振るかよりも今の機会を棒に振った事にため息をついた俺は今日はログアウトする事にした。防具は明日には出来ているだろう。

 レベルも十分上がったし、防具が出来たらそろそろ次の町を目指してみようか。


 次……次だ。次プレイヤーと絡む時はもっと積極的に行こう。

 俺はもう寝たきりで、生かしてもらうだけの病人じゃない。

 このゲームは俺に自由をくれた場所。そしてここには俺以外にもプレイヤーが大勢いる。なら、もっと楽しめるに違いない。もっと自由にやってみよう。

 ここでなら気持ち次第でいくらでも強い自分になれると思うから。

 誰かを助けられるような、かっこいいプレイヤーになれたら最高だな。

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