プロローグ⑤
バケツ一杯に入っている宇宙ヒッツキ虫は、体に綺麗なブルーのラインが入っていて、今にも逃げ出しそうな勢いで、ウヨウヨと動いていた。
.....うん、気持ち悪い。
「さてと.....ミミットさんは、塩水に漬けるって言ってたな」
いわゆる、砂抜き的なやつなのかな?
そう思いながら、大量の宇宙ヒッツキ虫をサッと洗う僕。
「ネモさん、水はどこから出ますか?」
「水?水ならそこから出るぞ」
そう言うと、ネモさんは天井に繋がっている、シャワーヘッドとボタン付きのホースを手渡してくれた。
「青いボタンはまず、赤いボタンを押すとお湯が出るから、気をつけろよ」
「分かりました!!」
これが宇宙船の水道なのか......何か、面白い!!
「えっと、塩は......これか!!」
塩らしき物を発見し、僕はそれを棚から取り出すと、その塩を水と共に、大きめで底が深いボウルの中に入れ、そこに軽く洗った宇宙ヒッツキ虫を投入した。
すると、まだ活きがいいのか、宇宙ヒッツキ虫はビチャビチャと暴れ始めたかと思えば、今度は静かになり、ボウルの中の水は、赤茶色に染まるのだった。
「うわっ!?何だ!?」
「それは宇宙ヒッツキ虫が食べた錆が出ているのよ」
「錆!?」
「あ、言っとくけど......それ、一回だけじゃ終わらないからね」
嘘ぉ!?
「早く言ってくださいよ!!」
「ゴメンゴメン☆」
気を取り直し、砂抜きならぬ錆抜きを繰り返すこと約三回。
ボウルの中の水が赤茶色から透明になったので、フライパンっぽい物に宇宙ヒッツキ虫・ビールを入れ、蓋をして蒸していく。
「あ〜!!それ私のビール!!」
「自業自得だろ」
「そうッスね」
「.....少しは我慢しろ」
ビールが料理に使われたの対し、悲鳴を上げるミミットさんと、そんなミミットさんに対し、そう言うネモさん達。
そんなこんなで、蒸すこと数分後..........塩で味を微調整し、最後にバターっぽい物を一欠片入れれば
「宇宙ヒッツキ虫の酒蒸しの完成!!」
ん〜、いい匂い。
我ながら、いい物が出来たかも?
「わぁ!!美味しそう!!」
「いい匂いがするッス.......」
「あの宇宙ヒッツキ虫が美味そうに見えるなんて..........どこをどうすれば、こうなるんだ?」
「......美味そうだな」
出来上がった料理を見つめながら、そう呟くネモさん達。
「ささ、食べましょうか」
そう言った後、宇宙ヒッツキ虫入りの皿を大きなテーブルへと移動させると、全員椅子に座り、僕達は、料理を食べ始めるのだった。
「う、美味っ!!」
「塩加減がちょうど良いッス!!」
「...........美味い」
「宇宙ヒッツキ虫は久々に食べたけど、こっちの方が好きだわ」
僕の料理を食べ、そう絶賛するネモさん達。
どうやら、みんなの口に合ったらしい。
「うん!!美味しい!!」
ふむふむ、食感はコリコリしてて、クセのないアッサリとした味...........これは無限に食べられるかもしれない。
「そういえば.....何でミミットさんは、宇宙ヒッツキ虫の下処理方法を知ってたんですか?」
僕がミミットさんにそう尋ねると、ミミットさんは、こう答えた。
「何でって...........私、大分昔に宇宙ヒッツキ虫を食べたことがあるんだもの」
「えぇ!?そうなんですか!?」
ミミットさんの言葉に対し、思わず、驚く僕。
「私の家はそれはもうド貧乏でさ、食べ物を買うお金がなかったのよ。それで、必然的にみんなが食べないであろう物を食べるようになったのよね」
「へぇ、そうだったんですね」
だから、宇宙ヒッツキ虫の下処理方法を知っていたんだ......
「確かに、こういう時のミミットは頼りになるんだよな」
「あのねぇ、私はこういう時以外にも役立ってるでしょ?」
「そうだっけ?」
首を傾げながら、ミミットさんに対して、そう言うネモさん。
「ムキー!!何なのよアイツ!!」
それを聞いたミミットさんは、ムシャムシャと料理をやけ食いするのだった。
「しっかし、こんなに美味しい料理を作れるなんて...........リューセーは凄いッスね!!」
「そ、そうですかね?」
ランドさんの言葉を聞き、照れる僕。
「あぁ!!俺達は普段、インスタント食品しか食ってねぇから、温かい料理を食べること自体が久々なんだよ」
「それに、誰も料理出来ないのよね〜」
「えぇ!?」
そうなの!?
「じゃ、じゃあ..........何で、ミミットさんは宇宙ヒッツキ虫の下処理方法を知ってたんですか?」
「アレは、ただ単にお母さんの横で見てたから、覚えていただけよ」
そういう理由で覚えたんかい!!
「.......リューセー、少しいいか?」
「あ、はい、何ですか?」
ヘッジさんの言葉に対し、そう答える僕。
すると、次の瞬間...........ヘッジさんは、僕に向けて、こう言った。
「お前を..........アルゴナ号の料理人に任命する」
「......へ?」
その言葉が出た瞬間、その場の空気はしばらく静かになったかと思えば
「「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」」
と、ヘッジさんを除いた全員が叫んだのは、言うまでもない。
「ほ、本当に僕でいいんですか?」
「お前の飯は美味い。それだけでも、十分な理由だ」
「ヘッジさん.......」
僕のご飯が美味しい。
その言葉が出ただけでも、僕は、とても嬉しかった。
「良かったな!!リューセー!!」
「は、はい!!」
「やったぁ!!仲間が増えたッス!!」
「ヘッジにしては、いいアイデアじゃない!!」
こうして、僕はアルゴナ号の料理人となったのだった。
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