第3話

 二人きりで会うのは初めてだったわけだし、かなり緊張していたはずだ。アイドル活動をしていることもあってか、綺麗な顔をしていたし、そんな子が俺に興味を示してくれていることに驚きを隠せなかった。 

 こんな30歳にもなって、女性経験の少なさから緊張気味の俺にも、優しく接してくれて、楽しい時間を過ごすことができた。


 再会した日以来、二人だけで何回か会うようになった。確か水族館にデートへ行った日、告白された。容姿が平凡以下の俺に興味を示すなんて何か裏があるんじゃないかと最初は勘ぐっていた。

 それでもこんな出会い一生ないだろうと思い、付き合ってみることにした。


 やはり、テレビ業界にいる俺のコネを使って、有名になろうとしているんじゃないかとも考えた。取り柄もない俺と付き合うメリットなんてそれくらいしかないと思っていたから。

 けれど、付き合ってから一週間ほどで、彼女は『アイドルやめようかな』と俺に打ち明けた。そこで俺は疑っていたことを恥じた。


 まあ、その言葉も今となっては──


 当時の俺は呑気に、彼女のことを一層好きになっていた。この人と結婚するのだと思っていた。


 付き合ってすぐに俺たちは2LDKのマンションで同棲を始めた。


 幸せの絶頂だった。しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。いや、続けることなんてできなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る