失うモノの無い犯罪者

@ho-ho-ED

第1話


 手錠を掛けられた俺は下を向いている


 正面にあるガラスの向こうにいる弁護士が俺に喋りかける


「何故、故意に被害者を轢き殺したんです? 警察に連絡するなりすればドライブレコーダーに映ってた映像通り轢かれた被害者の方を捕まえる事も出来たのに」


 弁護士の言葉を聞き俺はガラスの向こうにいる弁護士を見て声を出した


「確かに弁護士さんの言う通り、わざと車の前に飛び出し当たり屋なんて警察に通報すれば良いだけでした」


 目の前に飛び出してきた当たり屋を思い出す、当たってもいないのに痛がりわざと俺の車にぶつかりに来た男と目撃者の振りをした当たり屋の仲間を


「ならば何故あんな事を?」


 弁護士が再び俺に疑問をぶつける


「ぶつかって来た男は慣れてた、腕を押さえて痛がっている割に顔をニヤけさせて、そんな姿を見ていると」


「ふと、アクセルを全力で踏みたくなった」


 あの時の光景を思い出して俺の顔が笑顔に歪む


「ひぃっ」


 俺の顔を見た弁護士が顔を引き攣らせて細く悲鳴を上げる


「まさか、本当に轢かれると思っても見なかったろうな」


「当たり屋の仲間も血の気が引いた顔で当たり屋に駆け寄っていた」


「金を騙し取るつもりが命が無くなるなんて想像してみろよ」


「クソ笑える、クククッ」


 俺は心の底から笑いが込み上げてくる、端金の為に死んだ当たり屋を想像して


「た、確かに当たり屋などをやっていた被害者が悪いと思うが、殺す程の事ではないだろう!」


「人を平然と殺し笑うなど倫理に反するよ!?」


 恐怖と驚きを顔に浮かべた弁護士が正論を言う


「悪いとは思っているが、倫理なんて人それぞれだ」


 倫理は所詮自分の中に自分自身しか作れない、いくらそれを他に言われても固まった倫理は消えない


「悪いと思っているなら貴方は何故そんな平然としていられる!」


「家庭環境か? 学生の頃いじめられていたのか? それとも現状の社会に問題があったのか?」


 弁護士と喋っていると俺は過去の自分を思い出す


 親は母一人の片親だった、貧乏だったが優しく真面目に俺を育てくれた


「小学生の時、悪戯で人に怪我や迷惑をかけてばかりいる悪ガキがいた」


「俺は何故か悪ガキを川に突き落としたくなり、俺は悪ガキを掴み川に投げ飛ばした」


「中学生の時、クラスで暴力や金を奪うイジメをしていたクラスメイト達を見ていると後悔させてやりと思い」


「俺はイジメをしていたクラスメイトの一人の顔に両手を乗せ親指で両目を潰した」


「トイレでイジメをしていたから逃げられ無い状態のクラスメイト達一人一人潰していった」


「後で警察やら何やら学校に来たけどイジメの証拠とか大事にしたくない大人達の事情で大した、お咎めはなかった」


「高校に上がると俺は自分について考えた、考えに考えた結果、俺は他者が苦しみ後悔する姿を見て楽しんでいる俺自身に気付いた」


「正義の味方気取りとかでなく、イジメをしていたクラスメイト達となんら変わらない他者を不幸にして喜ぶクズだった」


「苦悩した、恥じた、母に心の中で懺悔した、もうこんな事をやめようと思った」


「けど高校ではクラスで孤立している女子を裸に剥いた写真を撮り無理矢理パパ活などの売りをさせているう女子グループを見て」


「俺は女子グループのリーダーの顔をカッターナイフでズタズタに切り裂いた」


「自分の性を止められなかった悲しさと」


「女子グループのリーダーの顔を一生まともに見れない位、切り裂いた歓喜の気持ちで一杯だった」


「この事件も中学同様揉み消されたが俺は、お咎め無しとは行かず高校を退学」


「高校退学後は小さな工場で働いた」


「休日出勤サービス残業当たり前の、かなりブラックだったが社長を三日三晩説得したらホワイトになった」


 今までの人生、俺は数々の思い出を弁護士に告げた


「確かに貴方は人傷付けてきた、だけど人を殺す一線だけはしなかった、なのに何故人を轢き殺したんです」


 俺の話を聞いた弁護士は神妙な顔で聞いて来た


 俺は真顔になる口を開く


「母が交通事故に巻き込まれて死んだ、俺は悲しく涙を流した」


 俺の言葉を聞いた弁護士は口を開く


「知ってました、貴方の弁護をする為に調べてさせて貰いました」


「ボールを取る為に飛び出した子供を避ける車がおこした衝突事故に巻き込まれて昨年亡くなった事を」


 痛ましげに弁護士が語る


「俺は生き残った運転手を恨んでないし飛び出した子供にも復讐なんて考えてない、思う所はあったがアレは事故だ」


 喋った俺は仕方ないと言う顔になる


「母が死に俺の中のストッパーが無くなった、今まで他人を気付けるのに無意識に手加減していたのを」


「母と言う悲しませたくない相手が居無くなり、俺の中の歯止めが無くなった」


 母が死に心は自由になったが、それと同時に心は悲しさで埋めつけれた


「母親と言う大事な存在がいたなら他者の痛みも貴方ならわかった筈だ、なのに何故止められなかったんだ……」


 弁護士は顔を歪めている、悲しそうにも怒ってる様にも見える


 俺はこの弁護士に感情移入のし過ぎだと思った


「だから言ったら性だと、当たり屋が来た瞬間、俺は笑顔で遠慮なくアクセル踏んだ」


 あの時は凄く清々しい気分だった


「弁護士として昨年母親を亡くした事と貴方の精神鑑定を要求する予定です」


「要らない、弁護の必要もない」


 俺は弁護士の言葉を否定する


「何故です!? 被害者の遺族らは貴方の死刑を望んでいるのですよ!」


 弁護士が驚き声を上げる


「轢き殺した事に後悔も反省も悪いとすら思ってない」


「言っただろ俺自身クズだとそんな人間この世から居なくなって当然だ」


 俺は同じ状況ならまたやるだろう


「……分かりました、そろそろ時間です私は失礼します」


 弁護士が立ち上がる、俺は弁護士の顔を見ない、一体どう思っているのだろうか


「弁護士さん、ありがとう」


 それを最後に弁護士は出て行った





 その後、相手側の弁護士が殆ど喋り俺の反省もなく被害者遺族の要望通り俺の死刑が確定した


 後は俺の死刑が来るのを待つ人生、悪い事は確かにダメだろう、だけど俺の中で他者を不幸にする事を歓喜してしまう心は変えられない


 人としてマイナスになっている俺はこれで良かったと心から思った

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