皇太子との面会
伊吹とマヤが皇宮へと到着し、すぐに伊吹の父親である皇太子、
時間は五分程度と最初から決められており、報道関係者の写真撮影に応じた後、マヤは伊織と伊吹と会話をし、その後皇宮内の侍女の案内で迎賓館に用意されている部屋へと引っ込んでしまった。
ちなみに伊織とマヤは初対面ではなく、伊織の外遊の際にアルティアン王国の王宮で顔を合わせた事がある。
「お父様、ちょっとだけ時間取れますか?」
「ん? あぁ、大丈夫だ」
伊吹は対王族の付き合い方を教わるべく、伊織を呼び止めて別室へと移動した。
「王女殿下の一番の目的は、俺かお父様との子供だと聞いてたんだけどさ。空港で出迎えた時の態度が素っ気なくて、避けられてるというか何と言うか。
こういう時ってどうしたら良い? ……って聞きたかったんだけど、よく考えたら父親に聞く事じゃないな」
「急に我に返るの止めろよ」
伊織は伊吹にツッコみつつも、しっかりと自分の経験を元に語り始める。
「あの王女は女王である母親と、第一王女である姉とも関係は悪くなく、割と素直な女の子だった。まぁあくまで三年くらい前の話だけどな。
ただ、来日前に集めた情報では、最近は第一王女との関係が上手く行っていないかのように見える」
伊織はアルティアン王国で会った際、マヤは滅多に見ない男との出会いに嬉しそうにしていた年相応の女の子であるという印象を受けていた。
また、アルティアンにとっては日本は国の滅亡を救った救世主であり、伊織は遠い親戚にあたるので、より親近感や憧憬の念があっただろうと思われる。
「両殿下、ご報告させて頂いてよろしいでしょうか」
伊吹の亡くなった祖母の双子の妹、
「第二王女殿下は精力的にご公務をこなされて、ご公務のない日にも積極的に外出をされておりましたが、ここ半年ほどは体調を理由に王宮内で過ごされる事が多くなったそうです。
また、天真爛漫であった性格も鳴りを潜め、作られた笑顔や無表情である事が増えたとも見られています」
マヤは伊吹と同じ十八歳で、普段は大学へ通っている。大学へは行けるが、公務を務める事は出来ない程度の体調不良を訴えているという事になる。
アルティアン王国世論としては、何か理由があって公務を拒否しているのではないかと捉えているようだ。
「半年前に何かがあって、王女の心境が変わってしまったってとこか?
半年前って言うと、十一月くらい? どうせ配信内のお前の発言が原因だとかそんなんだろ」
「いやいや、俺のせいにされても困るんだけど。ってか公の場で抱き着かれてキスされた、とかじゃなく、避けられてる訳だから。
……もしかして四兄弟や歌手としての顔を演じ分けてるのを見て、生理的に無理ってなってんのかな?」
伊吹はこの世界において、自分を嫌う女性にほとんど出会った事がない。
その他の女性は大抵自分の事を好いてくれていたり、憧れ、応援してくれる視聴者である事が前提になっていたので、マヤに関しても自分の事を好いてくれているものだと思って空港へ向かっていた。
だからこそ恥ずかしく、だからこそどうして良いか分からなくなっている。
マヤと表面上の付き合いをするだけで良いのであれば、マヤの帰国までの二週間をそれなりに過ごす事は可能であるが、マヤの目的は日本の皇族との子供だと思われる。
伊吹の中で、表面上の付き合いの範疇にベッドを共にする事は含まれていない。
もし今のまま、マヤのお付きの人からそんな要請が来た場合、伊吹はどうして良いのか分からず悩んでいるのだ。
「ってか俺じゃなくても良いんだろ? あと頼んだわ」
「まぁそうなんだけど。でもお前だから。話が行ってるはずだが」
「はぁ?」
皇宮と王宮の間で、マヤの相手を伊吹が務める事で話が付いていると伊織は話す。伊吹はそんな話を聞いておらず、
「あぁ、まだお伝えしておりませんでした」
犯人はどうやら、心乃夏だったようだ。
「
心乃夏としては、外国の要人からの要請のせいでいらぬ心労を与えたくないという気遣いだったようだ。
「今後はそんな気遣いは不要だと思っておいて下さい。まぁ、他国の王族に種付けする機会なんてもうないでしょうけど」
「かしこまりました」
伊吹は伊織と別れ、皇宮内にある自分の私室へと移動した。
「で、結局僕はどう過ごせば良いんだ?」
何だったら今夜あたり、自分からマヤのいる客室へと顔を出すべきかと考えていた伊吹であるが、マヤにつれない態度を取られたせいでそんな気もなくなってしまっている。
「ご様子を窺って参りましょうか?」
司が気を利かせてマヤのお付きへ話を聞きに行こうとか提案するが、伊吹は首を横へ振った。
「飛行機移動で疲れているのは間違いないだろうし、今はゆっくりしたいだろう。そっとしておいてあげよう。
時差ボケで寝ているかも知れないしね」
『なぎなみ動画を見ているぞ』
「ん?」
治の突然の報告に、伊吹は困惑してしまう。
「治、他人の私生活を勝手に報告するのは止めてくれ。僕から尋ねたなら別だけど」
『すまぬ。だが、親父殿が摩耶お母様の事で悩んでいるようだったのでな』
この発言により、伊吹はさらにどうして良いか分からなくなり、頭を抱えるのだった。
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