マヤ、来日
様々な事柄を同時進行で準備する中、あっという間にアルティアン王国より第二王女が来日する当日となってしまった。
約束通り、
なお、念の為朝食は抜いている。
『皇宮へ向かわれる際は、王女殿下とは別の車両が用意されておりますのでそちらへ乗り込んで頂く予定です』
『可能であれば同じ車両へ同乗して頂きたいと伺っております』
式部姉妹が機内用ヘッドセット越しに最終確認をしている。
『現場の警備的に問題ないのなら、同じ車両に乗るようにするよ』
伊吹はマヤの事を、政府より提出された資料で顔写真やプロフィール等を確認している。
日本人の血が混じっているとは思えないほど整った顔の東欧美人であり、背丈は伊吹よりも高い。
性格としては、第二王女という立場からあまり自己主張をせず、周りに勧められた通りの行動を取る控えめな女性であると資料に記載されている。
『うーん、僕なんかで良いんだろうかねぇ。近隣の王室に幼い頃に愛を誓い合った王子とかいない?
ベッドの上で泣かれるような事にならないと良いけど』
伊吹がそう独白すると、機内用ヘッドセットから艶めかしい声が聞こえ、ヘリが大きく傾いた。
『ご主人様、操縦室にもお声が届いている事をお忘れなく』
伊吹の乗ったヘリが空港に着いた時点で、すでにアルティアン王国政府専用機は着陸しており、各国マスコミ関係者が専用機の周りで待機していた。
ヘリから降りて、伊吹達が用意されていた移動車へ乗り込んで専用機まで向かう。
伊吹の乗った移動車が専用機へ近付いた頃合いを見てか、タラップ車が専用機に取り付けられる。
伊吹が移動車から降りたのとほぼ同時に、専用機のエアハッチが開けられた。伊吹はマスコミ関係者から注目を集めているのを意識し、微笑みながらタラップ車へと歩み寄り、階段に足を掛ける。
「「伊吹様!」」
伊吹の背中へと小声で咎めるような式部姉妹の声が掛けられる。伊吹はもしかして失敗したかな? と思いつつ、ここまで来たからにはもう引き返せないだろうと思い直し、階段を堂々と上がっていく。
エアハッチから出て来たマヤが、階段を上って来る伊吹の姿を確認し、一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに微笑みを作り、その場で待機する。
マヤは目の色と髪色が共に茶色で、肌は白い。
「ようこそ、大日本皇国へ」
「お世話になります」
一番上まで上がった伊吹がマヤへ右手を差し出し、マヤがその手へと自らの右手を重ねる。
地上では一斉にカメラのフラッシュが光り、そんな二人の姿を写真へと収める。
伊吹は勢いのまま、その場で膝を突いて手の甲へキスを落とそうかと思ったが、式部姉妹より公の場で絶対に膝を突いてはならないと言われていたのを思い出した。
やや強引ではあるが、重ねた手を握手へと形を変えて、自らの左手を添える。それに合わせてか、マヤも自らの左手を添えたので、大きく上下させて友好を表わす。
そして伊吹はマスコミ関係者へと二人の姿がよく見えるように、握手をしたままマヤの左側へと移動した。
「お疲れでしょうから、そろそろ参りましょうか」
しばらく二人で写真撮影に応えていたが、もう良いだろうと判断し、伊吹がマヤの手を引いて階段を下りる。
ちなみにアルティアン王国の公用語は第一公用語がアルティアン語で、第二公用語は日本語である。
「お気遣いありがとうございます」
伊吹の付き添いに従い、マヤも階段を下り始める。伊吹よりも半歩後ろを意識しているのが分かる。
階段を下り切り、地上でも同じようにマスコミからの写真撮影に応じた後、伊吹がマヤへと皇宮への移動について提案する。
「第二王女殿下。もしよろしければ私の車で一緒に移動致しませんか?」
二人はまだお互いの自己紹介をしていない為、伊吹はマヤの名を呼ばずに話し掛ける。
マヤは微笑みを浮かべたまま、伊吹へと返答する。
「とても光栄なお誘いなのですが、飛行機での長距離移動のせいで、何か粗相をしてしまうかも知れません。
せっかくなのですが、私は一人で移動させて頂きたく存じます」
小さく膝を曲げて、伊吹に謝意を示すマヤ。
「お疲れが出ておられるのですね。分かりました、それではまた後ほど」
伊吹がずっと握っていたマヤの手を離す。
男性優位の世界である為、本来であれば先に伊吹が車に乗り込む場面なのだが、マヤは伊吹に背を向けて車が用意されている方向へツカツカと歩き出してしまう。
マヤのお付きの者達が慌ててマヤを追い掛けて、車体にアルティアン王国の国旗が掲揚されている車の後部座席を開け、マヤが乗り込んだ。
「ご主人様も参りましょう」
それを見守っていた伊吹に対し、智紗世が声を掛けて伊吹の為に用意されている車の方へと先導する。
「あれー? 僕、何かしちゃいました?」
「車の中で教子さんと司さんと答え合わせしましょうね」
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