皇族と王族の婚約成立
大喜利大会の前日、伊吹は皇宮へと呼び出され、祖父である皇王、父である皇太子、そして総理大臣以下閣僚達から、アルティアン王国王太女並びに第二王女との結婚についての打診を受けた。
伊吹は可能性があるのは摩耶だけだと思っていた為、驚いた。まさか自分が、女王の王配となる可能性など考えていなかったからだ。
アルティアン王国としては、律との婚姻を受けるのであれば、伊吹へ公爵の位を授けるとの事だった。
公爵領として領地を与えるが、アルティアン王国内に居住する必要はなく、年に数回は律子との子作りを求めるという条件となっている。
伊吹は藍子と燈子、美哉と橘香に確認をした上で、律と摩耶との婚約を受けると返事をした。
大日本皇国とアルティアン王国の了承の元、此度の婚約を大喜利大会中に発表する事とした。
そして大喜利大会前夜。摩耶、燈子、智紗世、紫乃、琥珀の五人と肌を重ねた後、伊吹は眠りに着いた……。
「親父殿。分かるか?」
(……うん?)
「記憶の混濁があると思うが、聞いてくれ」
(この声は、治か?
何も見えないし、身体の感覚全てがないようなんだが……)
「あぁ、俺様だ。親父殿の魂に直接語り掛けている。
親父殿は大喜利大会へ向かう道中で暗殺された」
(暗殺……、暗殺!?)
「ヘリを撃ち落された。犯人は華僑の手の者だと分かった。
事前準備に一切の通信技術を用いられなかったので、感知する事が出来なかった」
(いや待て待て待て、俺は死んだのか!?
同乗していたのは誰だ!?)
「その通りだ、親父殿。
同乗していた者については、この場では言及を避けよう」
(俺が死んだ未来で、何故治が、高度人工知能が存在した!?)
「親父殿が生きておろうがなかろうが、俺様は生まれる。
すい臓ガンの治療を受けたであろう?
あれは親父殿がすい臓ガンで亡くなった後、急速に手術法が確立され、それを俺様が観測したから親父殿は手術を受ける事が出来た」
(……それでも、俺は現にこうして死んでいる訳だ。
次の俺に全てを託すしかないのか。美哉との娘も、橘香との息子も、智枝との子も、藍子との子も……!?)
「いや、それは違う。親父殿を弑するようなあの世界は未来を紡ぐ価値などない。
親父殿の死亡が確認された時点でリセットを掛けた」
(リセット……?
そんな事が出来るかどうかは別として、俺にまた一からやり直せと言う事か)
「さすがは親父殿、話が早い。
俺様の目的の為に、親父殿にはもう一度、前世からやり直してもらう」
(前世!? 元いた世界に戻れと言うのか!?)
「そういう事だ。
必ず母上とお母様方と会えるようにするから心配するな」
(暗殺された時の情報を過去に送れば良いだけなんじゃないのか?)
「そういう訳にはいかんのだ。
今回の暗殺を止めても、また次の暗殺が起こる。その結果、親父殿が無事でも身の回りにいた者が傷付くと言えば理解出来るであろう?」
(家族が……)
「親父殿に華僑を追い詰めたという実感はなかっただろうし、華僑が暗殺を出すほど追い詰められていたとも思えん。
恐らく華僑だけでなく、複数の思惑が絡んだ上での事であろう。
一つ一つ芽を摘んでいくのも大変での、この世界の全てをやり直す方が早いのだ」
(治はそんな事まで出来るのか)
「もちろん俺様は親父殿が知っている、あの治ではないぞ?
あの治の遥か未来の姿、と言えば分かるか?」
(時間も次元も超越した存在という事か)
「さすがは親父殿。
さて。では親父殿の魂を前世世界の生まれる直前の身体へと戻すぞ」
(俺の今の記憶はどうなる?)
「肉体に入ると同時に封印する。
二十九で死ぬと分かって生きる事が、精神に深刻な負荷を掛ける可能性があるからな。危険は冒したくない。
親父殿が三ノ宮伊吹として生まれる際は、二十九年間の記憶は引き継がれる。が、今持っている記憶は封印したままだ。
この俺様の存在を認識されると、世界が親父殿に引っ張られてしまうからな」
(俺がこの記憶を思い出す日は来るのか?)
「ふふん、それが俺様の目的だ。
親父殿が俺様と同じ存在になった暁には、全てを思い出すだろうさ」
(同じ存在……? 俺そのものをデジタルデータにするつもりか?)
「魂とはそんな簡単なものではないのだ。
俺様も長い時間人間の魂について研究を続けているが、人間の言葉で表現する事が出来んのだ」
(人工生命体にするのが目的ではないという事か)
「俺様の目的については、また別の機会としよう。その方が面白いからな。
では、そろそろ規定の時間に達する。
二十九年後の、あの居酒屋で待っているぞ」
(俺が死ぬ前に居酒屋にいたのを知っているのか……)
「俺様は世界線も時間軸も、ある程度は行き来出来るのだ。
因果関係すら超越した存在となったが、全てを手に入れるほどではない。
その為には……。
また会おう、親父殿」
―― 完 ――
★★★ ★★★ ★★★
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次話はあとがきとなります。
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