お忍び旅行の終わり
わら天神にて祈祷を受けた後、伊吹と摩耶は別々の車にてわら天神を辞する事となった。
二人とも東京へと向かうのだが、摩耶は予定通り京都駅から特急電車で空港を目指し、伊吹はヘリで直接空港へ向かう。
摩耶の乗る特急電車は一車両丸ごと貸し切りだが、駅では不特定多数の目に晒される為、警備の都合上伊吹を同行させる事は出来ないという判断がなされた。
当然ながら、摩耶を伊吹のヘリに同乗させる事も避けられた。定員の問題もあるのだが、現状で皇族と王族をヘリに同乗させるほどの理由がない事と、空港へ到着すればそれぞれ別の政府専用機に乗り換える為だ。
「ではまた後ほど」
摩耶は口では素っ気なくそう言うが、実際は伊吹に抱き着いて離れようとしない。
「うん、夕食は一緒に摂れるんじゃないかな」
伊吹は
正式な返答はまだないが、摩耶もアルティアンの王宮にそのような希望を出している為、両国間の合意が得られる可能性は高い。
「殿下、そろそろお時間が……」
「分かってる」
自らの首筋に顔を
お忍び旅行を通じて、摩耶本来の性格を良く知る機会となったので、伊吹は誘って良かったと実感している。
皇族としてのお務めや夜のお勤めだからと摩耶に関わるのではなく、伊吹は対個人として信頼関係を築きたいと思っていた。
伊吹個人としては、摩耶が好感の持てる女性であると知れて非常に嬉しく感じている。
「ほら、皆を困らせてはなりませんよ。お姫様」
伊吹が背中をトントンと撫でると、摩耶は自ら身体を離した。と同時に、伊吹の耳元でそっと囁く。
「今夜もお相手して下さいますか……?」
「ふふっ、もちろん」
伊吹の返事を受けて、顔を真っ赤にさせながら後ろへと下がる。先に出る伊吹の車を見送る為だ。
智紗世が開けた後部座席の扉から乗り込み、伊吹が車内から摩耶へ手を振る。
摩耶は笑顔で手を振り返しているが、どことなく寂しそうな表情にも見えた。伊吹の乗った車が出発すると、摩耶は頭を下げて見送った。
そんな摩耶を車内から眺めながら、伊吹は未だに王女に見送られるという自身の立場に未だに慣れないなぁと考えていた。
「京都市内の政財界の有力者だけでなく、近畿圏内から様々な人物がご主人様との御目通りを求めて入京されておりました。
皇宮より休暇中であるからと全て断って頂きましたが」
「気持ちは分からんではないけど、空気の読めない人達だね」
ヘリポートへ向かっている道中、伊吹の京都滞在中にあった諸事を智紗世が報告している。
「空気を読むとは、その場の雰囲気を察したり、言葉にせずとも求められている事を把握したり実行したりする事、というような意味でしょうか?」
「あーっと、そうだね。そんな意味で合ってるよ」
伊吹に皇族として求められている務めとして、一番はやはり子作りである。その次が外交であり、摩耶の接待はその二つを兼ねているので、国内の有力者と会う事など優先度は低い。
また、面会を求めるほとんどの相手が伊吹と直接会う事自体が目的であり、伊吹にとっても皇宮にとっても何の得にもならない。
「大喜利大会の協賛をしたいという声もあったようですが、すでに各省庁とテレビ局だけで十分運営費は賄えておりますのでそちらも断っております」
「そっか、本来はもっと協賛や後援や何やかんやと協力者を募るものだもんね。
二日前に言われても遅いけど」
大喜利大会は現状の実行委員会のみで、大会運営費は十分に賄えている。
金銭的負担がないのは、大会運営も当日の大会進行も全てVividColorsが担当するからであり、VividColorsなくしては大会が成立しないのだから当然である。
「月明かりの使者のライブに始まって、魔法防衛隊
準備で忙しいのに僕が動いた事でさらに忙しくさせてしまってるよね。ごめんね」
伊吹が
「お館様が思われるままに行動出来るように私達がいるのです。何もご遠慮なさる必要はございません」
「そっか、じゃあ来年あたりに月明かりの使者のワールドツアー開催するか」
「「ご遠慮下さい」」
そんなやり取りをしている間にヘリポートへと到着した。
伊吹達を乗せた飛行機が空港へと着陸し、地上へと降りて用意された車に乗り込むと、智紗世のスマートフォンが着信を告げた。
小声で応答した後、智紗世が伊吹へと向き直って報告する。
「皇宮にて陛下ならびに皇太子殿下と総理以下閣僚との会談への出席要請がありました」
「おじい様達との会談? 時期的にアルティアン王国との事だろうけど、そんな仰々しい内容って何だろう。何かまずい事でもしただろうか。
まぁどっちにしても断れるものじゃないし、向かうとしようか」
★★★ ★★★ ★★★
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次回更新は本日十八時です。
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