投稿動画:THE JAPANESE COURTESY ~日本の礼儀~ part.3

≪入浴マナー≫


 また別の白人女性が二人、宿泊しているホテルから出て、観光へ向かおうとしている。


『えーっと、藍吹伊通あぶいどおり一丁目はどちらかしら』


『タクシーに乗ったら連れてってくれるんじゃない?』


 そこへまた真智と母親が現れた。


『ねぇ、そこの二人。もしかしてこれから出掛けるつもりかしら?』


『『マチちゃん!?』』


 真智の登場、そして真智から声を掛けられた事により、身振り手振りで興奮している事を表す二人。


『わわわ私達、今から藍吹伊通りに行こうと思っていたところで!』


『ももももしかしたら、副社長に会えるかもって!』


 そんな二人を真智と母親は無表情で見つめ、そしてため息を吐く。


『貴女達、自分がどれだけ臭いか自覚していないのかしら?』


『『臭い!?』』


 二人はクンクンと自らの腕や服を匂うが、全く分からないようで困惑している。


『昨日ニンニクを食べたわね? それと、髪の毛もシャンプーで洗っていないんじゃないかしら?

 お酒を飲んでそのまま寝て、朝にちゃちゃっとシャワーを浴びただけで石鹸で洗っていないでしょう』


 真智の指摘通りだったようで、二人はこくこくと頷いている。


『今、二人は着替えを持っているかしら?』


『いや、持ってないわ』


『五月だし汗もかかないだろうから』


『五月とはいえ、日差しがあったりすると汗をかくでしょう。

 太平洋高気圧のせいで日本は湿気がすごいの。蒸し蒸しする分、熱が籠って体感温度が高くなるのよ』


 真智は二人が出て来たホテルを見上げる。そこは宮坂ホテル東京第一というホテルで、本物の温泉水で入浴出来る事で非常に人気が高い。


『今から貴女達に、出掛ける前の準備を教えてあげるわ。ついて来なさい』


 真智と母親は、すたすたとホテルの中へと入って行った。何が始まるのかと困惑した表情で、二人がその後に続く。


『これはこれは、真智様。お帰りなさいませ』


 ホテルの受付にいた女性が、真智へと声を掛ける。


『お世話になります。四人で大浴場を使わせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?』


『もちろんでございます。ご案内致します』


 受付にいた女性自ら、真智達の案内を買って出る。


『この二人は宿泊客なのですが、一度部屋に着替えを取りに戻らないといけないのです』


『そうですか、分かりました。お二人は七七四号室にお泊りでしたね。では参りましょう』


 受付の女性が七七四号室の鍵を手に取り、四人を案内する。



 二人が着替えを取りに戻った後、大浴場へと到着した。このホテルの大浴場は、暖簾をくぐる前に靴を脱いでロッカーに預ける形式を取っている。


『お靴をお預かり致します』


『いえ、二人に教えておかなければならないので、自分達でします』


『かしこまりました』


真智が受付の女性の申し出に遠慮した後、二人へ声を掛ける。


『ここは靴を入れるロッカーがあるけど、ない場合もあるわ。その時は脱いだ靴はしっかりと揃えるのよ?』


 真智は靴を脱いで、ロッカーに入れて鍵を掛けた。二人はその様子を見て、同じように靴を預け、鍵を掛ける。


『ごゆっくりお寛ぎ下さいませ』


『ありがとうございます』


 四人を見送る受付の女性に、真智が礼を言って暖簾をくぐった。


『今日はたまたま他のお客さんがいないけど、混雑している時は出来るだけ他の人の迷惑にならないようにするのよ。

 この籠に持ってきた荷物と脱いだ服を畳んで入れなさい。さっきの下駄箱の鍵もここに入れるのよ』


 真智は手早く服を脱いで行き、持っていたバスタオルを巻いて裸体を隠した。真智の母親も同じくバスタオルを巻いた。


『今回は特別な許可を得てバスタオルを巻いたまま入浴します。実際に入浴する際はタオルを巻いたまま浴槽に浸かるのはマナー違反です。ご注意下さい』


 真智がカメラ目線で視聴者に向けて注意喚起している間に、二人もバスタオル姿になった。


『入浴の際は大量に汗をかくの。脱衣所に無料で飲めるお水を用意してくれている場合があるから、ありがたく頂くと良いわ。

 もしなければ、自分で自動販売機で買うようにね』


 真智がウォーターサーバーから水を汲んで、母親と二人へ渡した。



『じゃあ、大浴場に行くわよ』


 真智は手に日本手ぬぐいを持って大浴場へ入って行く。

 大浴場は室内に六つの大きな浴槽、外に二つの露天風呂があり、それぞれジェットバスや電気風呂、温度の高い浴槽や低めの浴槽、薬草湯に水風呂がある。

 露天風呂の周りには個人用の樽風呂が複数あり、打たせ湯もある。さらにはサウナ室もあり、非常に設備が充実している。


『わぁ! すごいわ、どれから入るか迷うわ』


『あの緑色のお湯は何かしら?』


 はしゃぐ二人を真智が諫める。


『まずは掛け湯と言って、お湯を身体に掛けて汗やほこりを落とすのよ』


 そう言って、真智が二人をしゃがませて、頭からお湯を掛ける。


『人によってはこれだけでお湯に浸かる場合もあるけど、二人は昨日お風呂に浸かっていないでしょう?

 先に身体をしっかり洗ってからにしましょう。お風呂は皆で楽しむものだから、人を不快にするような事がないようにね』


 真智が二人を洗い場に座らせて、バスタオルを取った。頭からシャワーを掛ける。そしてシャンプーで頭を洗ってやり、丁寧に流した後、リンスを馴染ませてまたシャワーで流す。

 日本手ぬぐいに石鹸を泡立てて背中を洗ってやった後、それぞれに手渡す。


『しっかり洗いなさい。洗い残しがあると私が判断したら、もう一度全身洗い直させるわよ』


『『イエス、マム!!』』


『あと、この手ぬぐいは大浴場から出る時に身体に付いている水滴を拭き取るのに使うから、石鹼が残らないように濯ぎ洗いするのよ』


『『イエス、マム!!』』



『『『『あ゛あ゛ぁ~~~』』』』


 無事全身が綺麗になった四人が、露天風呂に浸かっている。天気は快晴で、非常に気持ち良さそうに見える。

 お湯が日光を反射して、四人の裸は見えないようになっている。

 

『入浴はだいたい十五分くらいがちょうど良いとされているわ。ただし、普段から入浴していない貴女達の場合、汗腺に汚れが詰まっている事が多いの。

 その詰まった汚れが体臭の原因よ。遺伝的な可能性もあるけど、自分でどうにか出来る原因については対処するべきだと思うわ。

 だから、二人はサウナで汗を流してきなさい』


 真智の言葉に素直に従い、二人がサウナへと向かった。

 また真智がカメラ目線になり、視聴者へと語り掛ける。


『サウナは百度に近い室温になるから、無理はし過ぎないように。

 私は子供だから入らないけど、慣れた人ならサウナに十分入り、その後水風呂に二分浸かるというのを一セットにして、何度も繰り返してサウナに入る楽しみ方もあるそうよ。

 サウナはサウナでマナーがあるだろうから、実際にサウナに入る際、その場にいる日本人に聞いてみてはいかがかしら』

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