投稿動画:THE JAPANESE COURTESY ~日本の礼儀~ part.2
≪食事マナー≫
交通ルール編とは別の白人女性が二人、ラーメン屋のテーブル席で注文したものが来るのを待っている。
『副社長が好きだって言っていたから来たけど、日本人って何て下品な食べ方をするのかしら』
『食欲無くなって来たわ……』
二人は他の日本人客がラーメンをすすって食べているのを見て、不快そうな表情を浮かべている。
『器を持って食べてるし、麺もスープも音を立てて啜るし、日本人ってマナーが悪い人達が多いのね』
『これが副社長の住んでいる国なのね、何だかがっかりだわ』
そんな二人のテーブルに、母親と手を繋いだ真智がやって来た。
『ねぇ貴女達。日本人のマナーが悪いって言ったかしら?』
『『マチちゃん!?』』
思わぬ真智の登場に驚き、立ち上がりそうになった二人を真智の母親が手で制する。
『静かに。ここは食事を楽しむ場所』
真智の母親が無表情で二人に注意する。
『すすすすみません!』
『どどどどうぞ、座って下さい!』
二人は真智とその母親を同じテーブルに座るよう勧めた。真智は席に座り、母親はテーブルを通り過ぎて行った。
そんな母親には気にせずに、真智が二人へ無表情で語り掛ける。
『貴女達、日本に観光に来るにあたって、事前に日本のマナーや習慣を調べなかったのかしら?』
二人が困惑したような表情を浮かべる。国によってマナーや習慣が変わる事など、想像もしていなかったのだろう。
『日本では、麺やスープを啜って食べる習慣があるの。貴女達もラーメンが来たら試してみると良いわ。
スープの香りが鼻から抜けて、よりおいしく感じるはずよ』
『えっと、私達にも音を立てて食べてみろっていう事?』
『その通りよ。国が違えばマナーや習慣が変わるのは当たり前よ。郷に入っては郷に従えという日本のことわざがあるわ。人の家や土地を訪れたなら、その人や場所に根付いているマナーや習慣に従いましょうという意味よ。
あと、器を持つのが下品と言っていたけど、お茶椀は持って食べるのが日本においてはマナーなの。
食事中は肘をつかない、大きな声で話さない、ガチャガチャと音を立てない。
それと、日本においてはお水が無料なのよ。お店の人が出してくれる場合と、このお店のように自分で取りに行く場合があるわ』
ちょうど真智の母親が、お冷が入ったコップを四つ抱えて戻って来た。真智と二人の前にコップを置いて、母親も席に座る。
『お店によってはお水と一緒におしぼりという、手を拭く為の濡れたハンカチのようなものを渡してくれる事があるわ。これも無料よ。
あと、テーブルへ食事を運んでくれる店員にチップを払う必要もないわ。
そして、手を挙げるなり声を掛けるなりしないと、店員は注文を聞きに来てくれないから気を付けなさい』
『あー、だから誰も私達に声を掛けてくれなかったのね……』
『アメリカじゃあテーブルごとに注文を聞く担当が決まっていて、その人に注文を伝えないといけないものね』
真智は二人の注文が決まっているのを確認した後、手を挙げて店員を呼び、注文を伝えた。
『食事する店によって違うけれど、ラーメン屋さんでは食べたらすぐに出るのがマナーよ。
人気のお店なら食事時は外に列が出来るのよ。食べたらすぐに出て、待機している人が少しでも早く食べられるようにするのよ』
『そんな事考えた事もなかったわ……』
「自分の後から来る人の為に、早く店を出るのね。何だか素敵な考え方だわ』
『それと、食べる時はそのサングラスと帽子を取りなさい。作ってくれた人に対する礼儀よ。
日本人は食べる前に手を合わせて感謝を述べるの。お金を払うのだから当然のサービスであるという考えの他に、作ってくれてありがとうという気持ちを表すの。
お店はお店で、食べ終わってお金を払うお客さんに食べに来てくれてありがとうという気持ちを表すわ』
真智が日本での食事の習慣やマナーを教えているうちに、四人の注文したラーメンがテーブルへと届けられた。
母親が四人分の割り箸を取り、それぞれに配る。
『『いただきます』』
真智と母親が手を合わせていただきますと言ったのを見て、二人も真似して手を合わせた。
『『イタダキマス』』
『ほら、この大きなスプーンでスープを啜ってみなさい。誰も咎めないから』
そう言って、真智がレンゲでドロドロとしたスープを掬い、ふーふーと息を吹き掛けた後、ずずずっと啜った。
そして真智は、テーブルに置いてある辛子味噌とラーメンダシと胡椒を追加でスープに入れて好みの味へと変化させる。
それを眺めつつ、二人はレンゲで掬い、恐る恐るスープを啜った。
『『おいしいっ!!』』
『『しーっ』』
『『ごめんなさいっ』』
声を上げた二人を窘めた真智と母親は、箸で麺を掴み、ズルズルと吸い上げた。
二人が割り箸が上手く扱えないのを見て、真智が店員に二人分のフォークを用意してほしいと頼んだ。
『スープを啜る音は大丈夫だけど、口に入れたものを噛む時は唇を閉じるようにね。
私、くちゃくちゃと音を立てて食べる人の事大っ嫌いだから』
マナー以前の問題である、人を不快にさせないようにする事も二人へ伝える真智。
『あの、真智ちゃんが入れたこの壺の中身は何なの? こっちが胡椒なのは分かるんだけど』
『私も中身はあまり詳しくないけれど、お味噌と唐辛子とニンニクが入っていると思うわ。入れ過ぎると辛くなるから注意するのよ。こっちの液体はスープの味を濃くする為の出汁よ。
あと、スープを一口も飲んでいないのに味を変えるのはマナー違反だと私は思うの。まずはお店が出してくれた味を確かめてから、自分好みの味にするのよ。
まぁ、お店はそんなの気にしないって思ってるかも知れないけどね』
二人の質問に答えつつ、真智は母親と半分ずつ食べるべく頼んだチャーハンをレンゲで掬い、ドロドロのラーメンスープにくぐらせてから口へと運んだ。
『おいしっ。
これは本当はマナー違反だけど、おいしいから良いのよ。この線引きはもっと日本を理解出来るようになれば少しずつ分かってくるわ』
『マナー違反だけど、おいしいから良い……?』
『奥が深いのね……』
二人は少しずつ辛子味噌を入れたり、ラーメンダレを入れたりして味の変化を楽しみながら、そのこってりとしたラーメンを楽しんだ。
他の食事客は四人のやり取りを、暖かい目で見守っていた。
『『ごちそうさまでした』』
『『ゴチソウサマデシタ』』
母親がさっと立ち上がり、レシートを持ってレジへと支払いに向かった。慌てる二人を真智が宥めて、先に外へ連れ出す。
『レジで一人の支払いがいくら分で、なんてやり取りしてたらお店にも他のお客さんにも迷惑でしょう?
こういうのは食べ終わってからするか、店を出てからするのよ』
『『なるほど……』』
『それより貴女達、結構辛子味噌入れてたわね。明日の朝、トイレで叫ばないように気を付けなさい?』
お店から出て来た母親の腕を取り、真智は微笑みを残して背中を向ける。
『マァーチ、カムバーック! お金まだ払っていないわっ!』
真智は振り返らず、手をひらひらとさせて去って行くのだった。
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