大喜利合宿一日目についての報告会
合宿と銘打ってはいるものの、マチルダは身体が十歳の少女なので、限定生配信による千人に向けての指導は十八時で終了した。
十八時の時点での得点上位二百名を二日目参加資格者と認定し、その他の八百人に関しては脱落者として扱う。
が、大喜利武者の人口を考えると、合宿参加者の千人に選ばれるだけでも十分な功績なので、それを称えて後日郵送で大喜利合宿一日目修了証書を贈る予定だ。
「へー、やっぱり残ってるか」
伊吹は上位二百名に残った大喜利武者の名簿の中に、安藤子猫顔寄せ公式大会東京場所で出会った少女の名があるのを見つけてほほ笑んだ。
「
このまま百人に残るんとちゃうかな?」
この春に晴れて高校生となった伊智花は、マチルダの覚えもめでたいようだ。
「東京場所で見掛けた時、泣いてたしなぁ。
ラジオに寄せてくれたコメントでも
伊吹の言葉を受けて、その場にいる者達が苦笑を浮かべる。
「そりゃいっくんとお近付きになれるんだって思ったら頑張るでしょうに」
「いやいや、もちろん僕に好意を持ってくれて、一緒に働きたい、あわよくばって思ってるんだろうという事は分かってるよ?
それをさ、思うだけじゃなくてしっかり行動してさ、前に進んでいるのがすごいと思うんだよね。
こんな事良いな、出来たら良いなで終わらないのが大事じゃない?」
「あー、まぁそこまで分かってるなら良いんだけど」
燈子が引き下がる。伊吹は決して鈍感な訳ではなく、世界中の女性から好意を寄せられている事を自覚しており、その上でどう行動すべきかをよく考えている。
しかし、その行動によって自身がどれだけ危険に晒されるかを理解出来ていない点が、周りの女性を不安にさせてしまう要因となっている。
「じゃあ正式に広報課に配属した
「いや、さすがに彼女をどうこうしようとは思わないな。
伊吹は妊娠している妻達の身を案じ、瑠奈を近付けさせないと明言した。
マチルダの厨二病治療後であっても、伊吹は瑠奈と直接会ってはいない。一社員である瑠奈に会う必要がない、という事もある。
「で、その伊智花ちゃんは今も二日目に向けて大喜利の特訓をしてるんでしょうか」
食後のお茶を楽しんでいる際に、智枝が伊智花の話題へと話を戻した。
治が気を利かせ、大食堂に設置されているディスプレイに伊智花が操作している端末と同じ画面を表示する。
「大喜利無限問答か、根を詰め過ぎだな」
大喜利無限問答とは、大喜利のお題が無限に出されるなぎなみ動画の配信用サービスの一つだ。事前に用意された数千のお題の中から、無作為に出題される。
複数人に出題する早押し対決や、写真で一言も用意されているのだが、大喜利武者の熟練度がまだそれほど高くないので、利用する配信者はそれほど多くない。
問題の良し悪しの判定は生配信を見ている視聴者によるので、配信主が本当に面白いかどうかを判断するのは難しいのだ。
「同時接続視聴者数が三千人か。大喜利界隈ではすでに有名人になってるからなぁ」
伊智花は自分のチャンネルを開設しており、「大喜利武者お市」と名乗っている。顔出しはしていないが、すでにチャンネル登録者が十万人を越えており、収益化申請をすればそれだけで生活をする事が可能な域に達している。
「この子は何で収益化申請しないんだろう」
伊吹は何故伊智花が収益化申請をしないのか、疑問に思った。動画投稿や生配信で収益を得るには、収益化をするという申請をなぎなみ動画へしなければならない。
どれだけ人気がある配信者であっても、申請をしなければ収益を受け取る事は出来ないのだ。
「その方が武士っぽいから」
「その方が目立つから」
「えーっと、なぎなみ動画の取り分を減らさない為?」
「愛故に」
「やり方が分からないとか」
「大喜利で生計を立てるのは不安定で危険だから」
「神聖な大喜利でお金儲けなど言語道断だと思ってるから」
「お金よりも大事なものがあるから」
「むしろお金を払うべきだと思ってるから」
「イブイブの笑い声だけで生きてけるから」
「……何か大喜利みたいになってんなぁ」
その後も何故なのかを予想し合ったのだが、結局伊智花が収益化申請をしない理由と思われる答えは出なかった。
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