金髪美少女の一日
金髪美少女の一日は早い。
「まぁ愛するイブイブの為やししゃあないな」
最近は自分の思い描くオタク文化と副社長からの指示の乖離が多々あると愚痴をこぼした 。
まず、昨日投稿された
「やっぱ一番嬉しいのはフォロワーからの尊いとか可愛いとかの返信やね。
この活動やってて良かったなぁて思うわ」
そう話す笑顔はとても可憐で、その写真をこそ呟きとしてフォロワーへと届けるべきなのではないだろうかと思わせる。
「でもまぁ、うちの目に映ってんのはイブイブだけやから……」
今日は後進育成の日。マチルダは様々な新規事業に携わっているが、十歳という年齢の為、副社長よりその働きを制限されている。
副社長がマチルダの負担を減らすべく、クルクムで活動している
今はマチルダに余計な負担を与えてしまう事となるが、いずれはマチルダでないと出来ない活動を減らせるはずだと副社長は語っている。
「うちはええねんけどな、うちとイブイブとの未来の為なら身を粉にして働いても」
そうは言いながらも、集められたクリエイター達を前にして創作活動について熱弁する。
マチルダの語る創作愛を聞きながら、熱心にノートを取る受講者達。皆の目は真剣そのもので、一言も聞き逃さないぞという気概を感じる。
「人によって好みが違うのはしゃあない。それを前提として、腋毛があった方が良い派もない方が良い派もどっちも納得させるにはどうしたらええか。
そう! 腋が見える絵を描く時は影を濃くするんや。そしたら腋毛があった方が良い派は『これは腋毛』と認識し、ない方が良い派は『これは影』と認識する。
このように……」
マチルダは授業を終えた後、副社長室へと向かった。第一回目であった安藤乃絵流育成計画の感触について副社長へと報告する為だ。
「イブイブは少しでもやり過ぎると待ったを掛ける。オタク言うんはやり過ぎてナンボや。
やり過ぎずにオタク文化に携わるクリエイターを育てろて言われるんが辛いところやな」
少し影のある笑みを浮かべた後、ノックもなしに副社長室の扉を開けるマチルダ。
「イブイブぅー! うち頑張ったで、褒めて褒めてぇー!!」
「おう、お疲れ様。
ん? そのカメラは?」
伊吹がマチルダと共に入って来たカメラマンに問い掛ける。彼女はVCスタジオの設立初期からいるスタッフで、副社長室への出入りを咎められる事はない。
「プロフェッショナルごっこしてんねん。うちの働きを撮ってもらって、なな動に投稿したろ思って」
オフィスチェアに座っていた伊吹の膝へ、ゆっくりと乗るマチルダ。以前母親であるメアリーにきつく叱られて以降、伊吹に出来るだけ負担が掛からないよう気を付けているのだ。
だが、膝に乗る事自体を止めないところがマチルダらしい。
「いや、ダメだろ。
金髪美少女が関西弁であーだこーだ言ってる動画は面白いと思うけど、今のこの世界のレベルではまだ早過ぎるって」
「ええー! せっかくうちが頑張ってるんやで? 世界に公表したいやん!」
「いや、
「何で価値が下がんねん! うちはうちやんかいさ!!」
「だってうちって建てた瞬間から価値が下がるって言うじゃん。だから注文住宅を建てたり建て売りを買ったりするよりも賃貸の方がコスパが良いって話だし」
「うちはうちでも家のうちちゃうわ! 私って意味やぁ!!」
副社長とのじゃれ合いを終えて、マチルダは
「お帰りなさいませ、お嬢様」
母親はまだ本社内で勤務中だが、副社長がマチルダへと付けている侍女が出迎えてくれた。
「ただいまぁ!」
マチルダは侍女へと抱き着く。そして鼻をヒクヒクとさせる。
「ふふっ、今日はお嬢様のお好きな唐揚げですよ」
「やった! 唐揚げ大好き!! ばあや、いっつもありがとぉ!!」
年齢通りの無邪気な笑顔を見せるマチルダ。その両肩に世界のオタクの未来が背負われているとはとても思えない。
「はぁ、これでビールが飲めたらなぁ」
「まぁ、お嬢様。十年早いですよ?」
夕食前に帰宅した母親と、そして侍女達と共に夕食を終えた後、マチルダは与えられているノートパソコンを開き、カタカタとキーボードを叩く。
「マチルダ、あんまり根を詰めちゃダメよ?」
「うん、ママ」
母親の言葉に対し、生返事をするマチルダ。集中している為、声を掛けられても何を言われているか頭には入っていない。
「やっぱり英知×治やなく治×英知か?
いや、それよりドクロ仮面と森ビルと……、天井からデッカイ竹刀が落ちて来て……、生きてるって何だろう……、ここをこうこうこう……」
訳の分からない事をブツブツと呟く娘を無理やり立たせ、母親が脱衣所へと連れて行く。
「ほら、もうちょっと頑張って」
風呂上り、母親がうつらうつらしているマチルダの髪の毛を乾かし、手を引いてマチルダの部屋へ連れて行く。
「まったく、眠たくなる前に寝る準備してっていつも言ってるでしょ?」
「うーん、ままぁ……」
マチルダをベッドへ寝かせ、掛け布団を被せて母親が部屋を出て行く。
そう、金髪美少女は寝るのも早い。
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