大司教
『破門した者とはいえ、私どもの元同輩がとんだご迷惑をお掛けしてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした』
智紗世がいるのはイサオアールとのごたごたの際に世話になった弁護士事務所だ。
しかし、伊吹教との面談において、智紗世の付き添いをする事は可能であるとの事だったので、智紗世と皇宮警察の警察官二人とが大司教を名乗る
弁護士は立会人という形になるので、相対している二組の隣に座って見守っている。
阿藤清華は二十代前半に見え、服装も大人しそうな雰囲気である。ケッコン指輪をしており、首にはケッコン指輪を通したネックレスを着けている。
『いえ、謝罪をして頂きたい訳ではないのです。
貴女方の団体からの指示を受けて、
しかし、寺沢さんは破門されていたのですね』
皇宮警察からは、伊吹教の存在が認められたと受け取られないよう、智紗世の口から伊吹教という呼称を使わないよう助言を受けている。
一方、伊吹教の存在を否定したり、批判したりするのは智紗世の身の危険に及ぶ可能性があるので控えるようにとも言われている。
『はい、言動があまりにも突飛でして……。
自分は生まれ変わるたびに伊吹様と結ばれていると主張したり、現行法では第一夫人になれないから法を改正すべきだと主張したり、あの神社の御神木は何回か前の自分が植えたのだと言ってみたり……。
聖巫女だ何だと騒ぎを起こしたので、伊吹教から追放する事に致しました』
「瑠奈さんはそんな事言ってなかったような……」
確かに言動はおかしく、生まれ変わりの話も出てはいたが、自分こそが第一夫人であるべきなどとは言っていなかった。
第一、自分が第一夫人であるはずだと思う女性が、現在第一夫人が社長を務めるVividColorsへ入社試験を受けに来るだろうか。それも正攻法で採用を勝ち取り、初めの内は研修も大人しく受けていたのだ。
「智紗世、阿藤さんに役職は大司教なのかと、
『寺沢さんは阿藤さんの事を大司教と呼ばれていましたが、あれは?』
『あぁ、確かに代表者として伊吹教を支えてはおりますが、自ら大司教などと名乗った事はありません』
『それでは、天巫女名も……』
『はい、そんなものはありません。名乗っていたのは寺沢瑠奈と特に仲の良い人達だけです。
寺沢さんはVividColorsに採用されたと触れ回っておりましたが、仲の良い人達以外は誰も信じておりませんでした。
まさか本当に採用されているとは……』
『ちなみに、聖巫女と呼ばれていた人はいますか?』
『寺沢さんが
ですが、梅垣さんはすごく迷惑そうにされていました。あまり注目を浴びるのを好まない大人しい性格で、伊吹教の活動に初期から参加されていますが、皆を導くような役割を買って出るような方ではないのです』
瑠奈は伊吹教の活動を始めたのは梅垣舞花だと話していたが、清華は初期から参加していたと表現しており、食い違いが発生している。
「智紗世ちゃん、教団の活動資金の
何かあればすぐに連絡をくれ、飛んで行くから。と常から言っている
『先日、
『私の提案ではありませんが、賛同はしました。私はあの場にはおりませんでしたが』
『私はてっきり東京在住の人達、もしくは関東圏内の人達が集まって活動をされていたのだと思っていましたが、中部地方にも参加者がおられるんですか?』
『いない事もないのですが、該当の者達は新幹線に乗って現地へ向かったのです』
『……わざわざ参加出来ない名古屋場所の会場付近で、ビニール傘を配ったと?』
『そうです。共に伊吹様の元へ集まる者同士、助け合いたいと思っての行動なのです。
事前に現地へ行っても良いかと確認を受けていましたので、とても良い考えだと答えました。ですが、誰も強制せず、自らの意思で行動するようにと伝えております』
『交通費は自腹で出されたのでしょうか?』
『恐らくそうでしょう。伊吹教として寄付を募ったり、何かをして収益を受け取るような事は一切しておりませんので』
「活動資金がないのはおかしいねぇ」
福乃が言う通り、瑠奈からの聞き取りで教会と呼ばれる活動拠点があるはずなのだが、活動資金の拠出元がないとなると、どうやってその場所を確保しているのかという疑問が発生する。
『寺沢さんが教会と呼んでいた、集会場所はどうやって用意されたんですか?』
智紗世の質問を受けて、清華が何でもないという風に答える。
『あぁ、あちらは資産家の女性が借りてくれているんです。ここを教団の拠点にしましょうと、快く提供して下さいました』
「阿藤清華を矢面に立たせて、裏で動いてる人物がいるって事かな?」
伊吹の呟きに対し、智枝が頷いた。
「その可能性が出て来ましたね。次は聖巫女こと、梅垣舞花さんからお話をお伺いする事としましょう」
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