内部事情
『伊吹教として活動を始めたのは
瑠奈が伊吹教へ入信したのは
さらに、どうやらここ最近は伊吹教としての活動に参加させてもらえていないと思われる内容を口にしている。
「どういう事でしょうか。彼女は伊吹教の中でも特異な存在という事ですか?」
マジックミラー越しに智紗世と瑠奈とやり取りを見守っている
「分かりかねますが、そのようにも聞き取れますね。
伊吹教内部でも彼女ほど、……ぶっ飛んだ思考の持ち主は少ないと思って大丈夫であれば良いのですが」
智枝と共に面談を見守っている、宮坂警備保障の
栗田も伊吹の事を尊敬し、敬愛しているが、それでも瑠奈ほどに伊吹の事を妄信している訳ではない。
「伊吹教として活動を始めたのは聖巫女と呼ばれる梅垣舞花という人物。そして今現在の代表者は大司教を名乗る阿藤清華という人物。
寺沢瑠奈は梅垣舞花と友人関係で、後から参加したと思われる阿藤清華の事を良く思っていない。
……もしかして伊吹教、乗っ取られてません?」
智枝の推測に対し、栗田が大きく頷く。
「なるほど、そう考えるとある程度見えてきますね。神々を始祖に持つ皇族であらせられる伊吹様を冠した団体に、キリスト教を思わす大司教を名乗る人物がいるのは違和感があります。
……語り手が若干信用出来ないですが」
少なくとも、瑠奈は伊吹教の指示を受けてVividColorsの内部へ潜入しようとしていた訳ではない事は分かった。
「
『伝えた』
智枝のスマートフォンから治の返事があってすぐ、智紗世が瑠奈へと質問を始めた。
『瑠奈さんは梅垣舞花さんと阿藤清華さんの連絡先をご存知ですか?』
『はい知っています聖巫女舞花はスマホの連絡先ですが阿藤さんのスマホの連絡先は知らないので活動拠点である教会の電話番号をお教えします』
「教会?」
智枝は怪訝な表情を浮かべる。伊吹を冠する冠した団体に大司教という役職、そして活動拠点を教会と呼んでいる事。
聖巫女という呼称についても含めると、あまりにちぐはぐである。
『親父殿が厨二病患者なのではないかと言っておられるが』
「厨二病……?」
伊吹は治を通して、智紗世と瑠奈のやり取りを観察している。智枝の疑問に対し、智枝のスマートフォンから伊吹の声が聞えて来る。
『十代前半の思春期の子供が発症する精神的な病のようなものだよ。
自分の事を世界で一番尊いと思い込んだり、実は皇族の生まれであると思い込んだり、いずれ世界一の金持ちになるだろうと妄想したりするんだ』
「えっと、ご主人様の場合は空想でも妄想でもなく事実では?」
『止めてくれ、背中が痒くなる』
智枝としてはおべっかを使ったつもりも冗談を言ったつもりないのだが、伊吹は居心地悪そうな反応を示した。
『とりあえず瑠奈は試用期間にて不適合と判断しクビにして、伊吹教も放置で問題ないと思うんだけど』
『親父殿、放置すべきではないと思うぞ』
智枝のスマートフォンから伊吹と治の声が出力されるが、智枝には口調は違えど同一人物の声に聞こえてくるので、判別がし辛い。
「ご主人様、私も放置は良くないと思います。今までなら放置で良かったのですが、すでにVividColorsとして伊吹教信者と接触してしまいました。
接触し、存在を把握している上で伊吹教が何か事を起こせば、他社や他国、マスコミ関係者へ丁度良い攻撃材料を提供してしまう事になります」
今やVividColorsは国策企業と言って良く、経営者が皇族という事もあり非常に注目されている。
VividColors自体は非上場だが、宮坂家の企業と協業している事業も数多くある為、宮坂グループの上場企業へ影響を与えてしまう可能性が非常に高い。
それだけでなく、智枝自身が訳の分からない団体のせいで、自らの主人の名に傷が付くのが我慢出来ないという事も大きい。
『じゃあ、聖巫女と大司教とに別々で話を聞くべきかな?』
「そうですね。ただし
外で直接会って、聖巫女と大司教の人となりを確かめる必要があります」
『じゃあ今回も僕が行く訳には行かないな。もちろん、智枝もお留守番するんだよね?』
「あ、そうでしたね……。
では、皇宮警察に相談した上で、智紗世に任せようと思います」
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