パレード
宮内省病院を退院し、皇宮にて記者会見を終え、そして
「ご主人様、こちらを」
「え、何で?」
「ゲートを抜けた後、皆に元気なお姿をお見せ頂きたく」
「それなら素顔の方が良くないか?」
「なぎなみ動画で全世界生配信致しますので」
「あー……」
伊吹親王殿下が退院会見を行った後、副社長が藍吹伊通り一丁目にて顔見せを行う。ただしドット絵のお面を着けて。
前者と後者が同一人物である事は周知の事実であるが、暗黙の了解にてその事を指摘しない雰囲気が作り上げられている。
「従業員の皆が、お見舞いに行くのを我慢していたのです。お姿をお見せ頂ければ、皆が喜びます。
ついでに、ご主人様の元気なお姿を全世界へ公開する事で、
結果として、ご主人様の懐も……」
「みなまで言うな。
しかし、この車ではなくオープンカーの方が良くないか?
もしくは人力車とか。
しかも会見した時と同じ服装だけど」
伊吹は言われた通りにドット絵のお面を着けるが、どうせやるならちゃんとしたいと訴える。
『親父殿、オープンカーの手配は済ませてある。ゲートを抜けた先に待たせてあるので、乗り換えてくれ。
後部座席の真ん中に親父殿、右側に
「手配はありがたいが、僕がお面なのに二人は素顔か?
それで世間が納得して受け入れてくれるなら別に良いんだけどさ」
「今さら私達が顔を隠しても、ねぇ?」
「そうよ、今さらだわ」
ゲートを抜けて、公用車のドアが開けられて藍子と燈子が先に降りる。すでに道の両脇には
伊吹が公用車から降りた事で、黄色い歓声が上がる。
「キャーーー!!」
「で、副社長ぉーーー!!」
「じ、副社長ぉーーー!!」
殿下でもなく
侍女達に案内され、オープンカーへと乗り込む伊吹達。後部座席は観衆から見えやすいように、座る位置が高くなるよう改造されている。
治の指示通りに伊吹達が座り、足元に智枝と
そして、ゆっくりとオープンカーが動き出す。オープンカーの周りには皇宮警察の警察官が同じ速度で歩き、周りを警戒している。
「まるで凱旋パレードだな。パレードの名目は何になってるんだ?」
歩道やビルの窓、右や左や上や後ろなど、あらゆる方向からおめでとうと声を掛けられるが、皆が退院とは口にしない。
「藍吹伊通り一丁目のお披露目です。外部に対して正式に公開した事がありませんでしたので」
藍吹伊通り一丁目が伊吹親王殿下の私有地扱いであり、かつVividColorsの本拠地である事は以前から知られていた。
が、一部の関係者しか内部へ入れず、中の様子も月明かりの使者のミュージックビデオや「ヤバすぎ!」の映像作品を通しての公開に留まっていた。
なぎなみ動画の視聴者から内部の映像を公開してほしい、見学させてほしいという声が上がっていたので、今回の顔見せへと繋がった。
さすがに観光目的の人間を招き入れる準備は出来ていないが、映像を映すだけであれば問題ないと判断された。
『監視カメラの映像は全て確認している。不自然な動きを見せたらすぐに知らせるから、親父殿は安心して手を振っておれば良い』
「心強いね」
治はその他に、なぎなみ動画にて生配信されているこの映像に対し、四兄弟が出演して実況や解説などを行っている。
視聴者はコメント内にてVividColorsの技術力の高さに驚きの声を上げている。
「その車、待つのだーーー!!」
伊吹達が乗ったオープンカーの前に、六人の人影が飛び出て、進行方向を塞ぐ形で伊吹達に相対した。
「ここは通さないんだぜ!!」
「大人しくボク達の言う事を聞くのだよ!!」
「言う事を聞けば、私達は何もしないのよ」
「やれやれ……、抵抗はしないでくれよ?」
「しぃ……、私達もこんな事はしたくないんだよ!!」
「副社長の身柄は、我ら
レースがふんだんに使われた暗色系コスチュームを纏った
周りの観衆達は六人に対して拍手を送っている。
生配信中の四兄弟は、演出なので警察への通報はしないで下さいと繰り返し視聴者へと呼び掛けている。
「悪の組織が来たという事は……」
『その通りだ、親父殿』
「そこまでよ! BrilliantYears!!」
レースがふんだんに使われた原色系コスチュームを纏った六人が路地裏、観衆の後ろから現れて、オープンカーとBrilliantYearsの六人との間に立ち塞がった。
「私達がいる限り、副社長は渡さないわ!!」
「もちろん社長も専務も渡さないんだよー」
「全く、何であたしまでこんな事をせにゃらなん……」
「藍吹伊通り一丁目の平和は私達が守ります!!」
「貴女達の好きにはさせないわ!!」
「私達VividColorsがお相手致しますわよ!!」
観衆がVividColorsの六人に向けて拍手と歓声を送っている。
「いつまで続くの? これ」
『あと二分四十秒で終わるからもうちょっと待っていてくれ』
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