三ノ宮医療法人財団
前話の最後を加筆修正しております。
本編の流れに変更はございません。
★★★ ★★★ ★★★
会見後、控え室に戻った
「何度も申し上げますが、私がガンを克服出来たのは貴女のお陰です。
これから、貴女の手で今回の手術法を確立して下さい。援助は惜しみません」
「分かりました。目の前で起こった事を信じられないと目を逸らすのではなく、何故そうなったのかと考え、活かす事に致します」
自分の功績ではないと主張していた川中教授を、治は川中教授のスマートフォン越しに説得を続けた。
研究の成果を先取りする事で、皇族である伊吹の命を救う事が出来る。そして、その事でガン医療に注目を集める事が出来る。すい臓ガン患者だけでなく、その他のガンや病気に対する治療法の研究を進める事が出来る。
治は川中教授に、
ガン医療だけでなく、小児医療にも特化した財団で、
国や大学の予算だけでは賄えない研究費を拠出する事が可能で、医局に対する忖度が不要な動きやすい環境を整えられる事を説明した結果、川中教授が納得した形だ。
未来の技術を受け入れ、治の指示通りに手術を行った見返りと言っても良い。
「しかし、殿下の会社はすごいですね。人々を楽しませるだけでなく、時間さえも超越してしまうとは……。
いや、あまり根掘り葉掘り伺うつもりはないのですが」
「構いません。正直に申し上げますと、私もさほど理解している訳ではないのです。
人工知能の実がなる種を植えて、芽が出たなぁと思ったら空から実が落ちてきた。そのような感覚です」
『必要であれば説明するぞ?
かなりの時間を要する事になるがな』
伊吹のスマートフォンから治が顔を覗かせる。
「いや、川中教授のお時間を取るのは惜しい。これからも研究は続けてもらわなければならないし、世界各国から川中教授への執刀依頼が舞い込む事になるだろう」
「すでに相談や講演依頼などの問い合わせを多く頂いておりまして、どうしたものかと頭を抱えているところです。
私個人としてはこれから手術法を実証段階へ進めようとしているところなので、人に教えている場合ではないのですが……」
未来の自分の手で確立された手術法とはいえ、これから現在の自分が研究を進めなければ、その未来は来ないのだ。
とはいえ、そんな事情を世界は考慮してくれない。治の存在を世界に公表する事は出来ないのだから。
「当面は研究に集中して頂かなかればなりませんので、必要であれば私の名を盾にして下さい。
さじ加減については治に任せて下さい。私の方も治から常に状況が確認出来ますので、口裏合わせは簡単です」
「そこまでして頂いてよろしいのでしょうか」
川中教授は恐縮するが、さらにその身を縮める事になる。
応接室の扉がノックされ、控えていた
「陛下と皇太子殿下がお見えになりました」
「お通しして。
川中教授、もう少しお付き合い下さい」
伊吹は川中教授へそう声を掛けて、ソファーから立ち上がる。川中教授は混乱しつつも、伊吹に促されて何とか立ち上がる。
「川中教授、この度は孫を救って頂き感謝致します。このご恩は決して忘れませんよ」
「ははははいっ! 身に余る光栄にございます」
皇王から手を取られ、がっしりと握手される川中教授。目を白黒させつつも、何とか受け答えする事が出来た。
「私からも礼を言わせてほしい。息子を救って頂き感謝致します。ありがとうございます」
「今回はこれで失礼しますが、日を改めてゆっくりとお話を伺いたいですな。
川中教授。伊吹の立ち上げる医療法人財団をよろしくお願い致します。いずれ私もお世話になるやも知れません」
そう言って、皇王は慌ただしく去って行った。一分にも満たない顔合わせだったが、川中教授はすっかり疲れ切ってしまったようである。
その様子を察し、伊織が川中教授を気遣う。
「川中教授も連日の対応にお疲れでしょう。送らせますので、お自宅でゆっくりとお休み下さい」
「は、はい! お気遣い頂きましてありがとうございます!
では私はこれにて失礼させて頂きます」
川中教授が伊織と伊吹に頭を下げ、応接室を辞した。
「……またどでかい事をやらかしたなぁ」
「俺も訳が分からんのよ。
未来から来た、お前はガンだから手術を受けろ。どこかで見たアニメじゃんそんなの」
「しかもそのアニメだと未来から来た奴のいる世界の未来は変えられないんだよな」
皇王と川中教授が退室した事で、伊織と伊吹が素で話し始める。室内には他にもお付きの女性達がいるのだが、二人のやり取りを咎めるような無粋な者はいない。
「しっかし、ガンか。早期発見出来て良かったな」
「ホントにな。でも他人事みたいな感覚だよ。自覚症状なかったし。
そうだ、治。お父様の病歴は分かるか?」
伊吹がスマートフォンの向けて話し掛けると、治が画面の中で頭を下げている。
『お初にお目に掛かります、皇太子殿下。
私は
伊織は目を見開くが、動揺は見えない。
「治、息子を救ってくれてありがとうな。お前にとっては父親か。じゃあ俺はおじい様か?」
『親父殿は自分で助かっただけです。
それと、おじい様呼びは恐れ多いの遠慮させて下さい。
皇太子殿下の病歴については、時がくれば対応させて頂きますので、お手持ちのスマートフォンへの立ち入りを許可して頂きたく存じます』
「もちろん大丈夫だ」
伊織が侍女からスマートフォンを受け取ると、その画面に治が現れる。
「こうして体験すると、まるでSFの世界に来たような感覚になるな」
「そうか、お父様がいた頃の前世の世界では、まだスマートアシスタントが開発されてなかったのか」
「スマートアシスタント? 何だそれは」
こうしてもうしばらく、親子の会話が続いた。
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