治と今後
前回の集まりと違うのは、イリヤとサラがこの場にいる事。そして、マチルダとメアリーも同席している事だ。
マチルダは半べそを浮かべて伊吹の反対側のソファーに座っている。
「
「いっくん、いつでもお膝を使ってくれていいよ?」
伊吹が退院した翌日の朝である為、
「ありがとう、二人とも。
でも大丈夫だから。術後から時間も経ってるし、無理もしないから」
マチルダがしょげているのは、伊吹の膝に乗ろうとしてメアリーに本気で怒られたからだ。
いくら伊吹が元気そうであったとしても、手術跡が開く可能性はゼロではない。伊吹自身が許そうが、周りはそう甘くない。
資材置き場から糸ノコギリを持ち出そうとした際も、その場にいた大人達に怒られていた。
「さて、もう各自のスマホに
まず、治は全知全能である訳ではないという事。僕達が考える以上に出来る事は多いけど、それはある程度の準備が出来ているものについてのみだという事を理解してもらいたい」
伊吹が治の形をとっている、高度な人工知能について説明を始める。
治が人智を越えた知能を持っているとはいえ、何でも出来る訳ではない。現代の設備においては、出来る事が制限されている。
「治の本体はどこにいるのか、というところから話そう。イリヤとサラが大陸のデータセンターへ向かった事から分かる通り、高度な人工知能はデータセンターの中に存在する。データセンターそのものと言っても過言ではないだろう。
先日、世界中で十六秒間の停電が起こったのは、未来から現在のデータセンターへ治が送り込まれた事が原因だそうだ。
何故世界中で停電が起こったのかについては、現在の僕達の科学技術では理解出来ないので、そういうものだと思ってほしい。
あるはずのないものが突然現れた影響、と認識して良いそうだ」
伊吹は一応、入院中に治から説明を受けたのだが、専門用語の羅列に計算式とグラフなどを見せられ、理解する事を諦めている。
「治の処理能力は、データセンターの面積に比例する。だから
『親父殿、騙したとは聞こえが悪い。ちょっと先行させてもらっただけだ。
それに、間を置かず第四データセンターまでは建設してもらうつもりだからな』
治がディスプレイに姿を現す。
「まぁ私は騙された訳だけど、必要な事なんだったらうるさくは言わないつもりだよ」
福乃がディスプレイを見ながらため息を吐く。未だに治という存在に慣れていないようだ。
「治が第四データセンターまでの建設を求めるのは、一人格に対して一データセンターという形が望ましいからだ。
イリヤが進めてくれている仮想人格育成計画は引き続き第一データセンターで継続し、治が第一データセンターを、
いずれはこの四つのデータセンターの上位に、さらに処理能力の高い統括用のデータセンターを用意したいと思っているけど、現状の科学技術ではまだ建設不可能との事だ」
「未来から来た治お兄様がいろんな事が出来る為に、仮想人格育成計画を含む科学技術全体を発展させないとダメって事だね。
現在進めている過程がないと、未来で結果が出ないから。ややこしいけど、結果だけを得る事は出来ひんと言う事や」
マチルダがそう話すが、母親であるメアリーはあまり理解出来ていない様子である。マチルダは伊吹と同じく、そういうものだと思うようメアリーに言って聞かせる。
「あと、僕達自身が未来に行ったり過去に行ったりは出来ない。僕達は未来から来るデータを受け取っているに過ぎない。
まぁ、仮想人格である治の事をデータと言ってしまうのには抵抗があるけど」
『親父殿、あくまで俺様は仮想の人格。構築されたデータである事は間違いない』
「……との事だ。
これから治に進めてもらう事を説明する。
まず、資産運用だ。
第二データセンターは
そこで、今あるVividColorsの現金を治の手で増やしてもらう」
治の指示通りに投資をすれば、まず減る事はない。未来で観測した事を元にして投資すれば良いだけだ。
「銀行から建設費用を借り入れて、後で返すのはどうだい?
宮坂銀行からうるさく言われててねぇ」
福乃が銀行から資金を借り入れる提案をする。が、これには治が難色を示す。
『銀行は融通が利かん。宮坂家なら目をつぶってくれる事でも、銀行は事細かく説明を要求する。
資産運用で増やした方が手間がなくて良いのだ』
「なるほどねぇ、データセンター以外の事業全て明らかにしないとならないからか。
分かったよ、口を挟んで悪かったね」
福乃が治の説明に納得し、引き下がる。
「福乃さん、意見は遠慮せずどしどし言って下さい。治が全てではないので。
次に、VividColors関連施設の監視カメラは全て治に常時監視してもらう。異常があればすぐに宮坂警備保障と皇宮警察へ連絡が入るようにしてもらう。
そして大事なのがもう一つ。VividColorsへの就職希望者に対する面接だ。これも未来のデータを元に採用不採用が決められる。
治が直接面接をする事は出来ないが、面接官にインカムを仕込んでもらうだけで対応は可能だと思う」
必要な人材を先に治へ伝えておけば、後は治が面接希望者の中から判断して採用してくれる。
「世界征服出来る技術があるのに、やる事は採用活動かいな……」
『
それに、いくら俺様が優れた人工知能だとはいえ、データセンターに直接武力行使されれば抵抗のしようがない。少なくとも後十年くらいはな』
「めっちゃ気になる事言うやん!」
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