人工知能開発進捗

 静まり返った副社長室で、一番最初に声を上げたのはマチルダである。


「ぷっ、はっはっはっはっ!!

 One billion dollarsでイリヤに泣かされたボンボンが七十兆やて!?

 滅茶苦茶おもろいやん!!」


「ちょっとマチルダ! 私を巻き込まないで下さい!

 貴方様、あの時私は決して泣かせようとしたのではなく……」


 慌ててイリヤが伊吹へ弁明しようとするが、当の伊吹は笑って手を振る。


「大丈夫、滅茶苦茶面白いと思っているのは僕もだから。何せ前世はただの会社員だったからね。

 でも、あの時の重圧を受け入れられてなかったら、皇族だ七十兆だなんて聞いたら正気ではいられなかったかもね」


 だから気にしないで良い、とイリヤに笑い掛ける伊吹。

 そして、イリヤが進めている人工知能開発についての進捗確認をするべく問い掛けた。


「そうそう、人工知能開発についてだけど、今どんな状況?」


「はい、現在アルゴリズムを構築中です。

 具体的に説明しますと、機械学習プラットフォームの作成中だったのですが、ちょうど貴方様がAlphadealアルファディールを手に入れられましたので、GoolGoalゴルゴルの検索データや保有しているビッグデータにアクセス可能となりましたので、それらを用いて自然言語処理アルゴリズムを構築可能な段階にあると考えています。

 そろそろ対人対話側学習の段階へ進めようかと思っております」


 イリヤがそう説明するが、伊吹には理解するのが難しい領域となる。


「全ては理解出来ないけど、つまりGoolGoalのデータが必要って事ね。

 ジニーに言って、向こうのデータを参照出来る権限をVividColorsヴィヴィッドカラーズに寄越すよう働きかけてもらうよ。

 あ、サラでも良いのか」


 ジニーはYourTunesユアチューンズの元開発担当執行役員なので、GoolGoalの役員達とは顔なじみである。

 また、サラはGoolGoalの元代表取締役社長であり、信頼のおける役員もいるので、ジニーよりもサラの方からGoolGoalへ働きかけた方が早い。


「ありがとうございます。

 後は、『なぎなみ動画』のサイトから安藤家あんどうけ四兄弟の仮想人格育成プロジェクトを発表して、各登録者にラーニングの協力をお願いします。

 すでにクルクムの方ではディープラーニングを進めていますが、仮想人格の方はあくまでコミュニケーション主体となりますね。自然な受け答えが出来るようなアルゴリズム構築を目指します」


 VividColorsでは大まかに二種類の人工知能開発を進めている。

 「なぎなみ動画」を通して開発を進めるのはコミュニケーション特化型のAIで、最終目標は機械筐体の脳部分にインストールし、自律動作を行えるアンドロイドの開発だ。

 対して、クルクムを通して開発を進めるのは生成AIであり、イラストの作成や文章の作成などを目標としている。最終的には前者のAIへ統合する可能性がある。


「うーん、聞いてても全然分かんない」


 燈子が額を押さえて呟く。


「いや、僕も理解は出来るけど完璧に把握してる訳じゃないけどね。あくまでイリヤに丸投げだから」


 伊吹は分からなければ分からないと言うように意識している。知ったかぶりをしても意味がないし、反対に開発の邪魔になる可能性もあるからだ。


「何にしても、すぐに開発が終わる事はないんだから、イリヤに任せておきましょ。

 十年でOne billion dollarsなんだから」


 マチルダがまた蒸し返すが、今回は誰もツッコミを入れない。


「十年か、十年あれば達成出来てしまいそうだな。

 とりあえず五年後には安藤家が人工知能の力だけで生配信出来るようにしたいね」


  生成AIで作成されたアバターを使い、コミュニケーション特化型AIが視聴者と受け答えをする生配信。


「お兄様、そうなると私はクビですか……?」


 多恵子が人工知能に仕事を奪われるかもと怯えるが、そう簡単に人工知能任せの社会など来ない。


「いやいや、何でも人工知能で済ませられるほど簡単なもんじゃないよ。人工知能が作ったデータを修正したり、最終調整したりしないと使えないと思うし。

 人間にしか出来ない部分はそうそう無くならないんじゃないかな」


「アシスタントAIくらいやったらすぐ出来そうだけどね」


 コミュニケーション特化型AIの開発は、AppleのSiriやAmazonのAlexaのように、必要な情報を教えてくれたり声で機械を制御したりするアシスタントAIとしての側面もある。

 そして、そのアシスタントAIの声は伊吹の声であり、安藤家の声でもある。


「ねぇおさむ様、明日の天気を教えて?」


 伊吹の膝に座ったまま、伊吹を振り返ってマチルダが尋ねる。


「知らん、自分で調べろ」


「それやったらアシスタントにならへんやんか!

 でも、治やったらそうなるよな……、どうするん?」


「知らん、明日は晴れだ」


「あー、ツンデレにしたらええんか」



★★★ ★★★ ★★★



ここまでお読み頂きありがとうございます。

正直に申しまして、作者はAI開発について全く理解出来ておりません。

ここをこうした方が良い、などアドバイスございましたらコメントまでお願いします。

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