金持ちのボンボン
そして、日本政府から受け取ったAlphadealの株などを含めて、伊吹がAlphadealの発行済み株式のうち三十四パーセントを保有する筆頭株主になった事も、合わせて公表した。
この会見後すぐにAlphadeal株が反応し、急騰を続けている。そう遠くないうちに、
なお、Alphadeal株が元の水準に戻った場合、世界長者番付でトップ二十に入る総資産額となる。
すでに
「はぁ、伊吹親王として会見しちゃったから、今後も顔出し生配信は出来ないなぁ」
「ご主人様は今までも顔出しはされて来なかったはずですが」
帰りの車中。零した独り言に対して智枝が尋ねて来たので、伊吹が答える。
「ゆくゆくは顔出しで活動しようと思ってたんだよ。警備も厳重だし、そうそう不都合はないだろうって思ってたんだけど、まさか自分が皇族で、ましてや外交を任されるなんて思ってなかったからさぁ」
伊吹が本社ビル内にジムや食堂やサウナなどを作ったのは、配信用の撮影が出来ると思ったからだ。
ものを食べる時はお面を外さねばならず、画面上でも伝わりにくい。ジムで運動している時もお面は邪魔になるし、サウナもそうだ。
「ご主人様のお姿は配信画面上ではアバター表示させる事が可能なので、特に問題ないのではないでしょうか」
それはそうなんだけど、ちょっと思ってたんと違うんだよなぁ、などと伊吹が思っている間に、
「おー、金持ちのボンボンのお帰りやーん」
「どんなテンションだよ」
伊吹が
その他に、
京香が人数分のお茶を用意する。
「で、何の集まり? 転生者とそうでない人と、絵が得意な人と……」
「全員イブイブの女の集まりや、だよ?」
「そんな事ない、だよ?」
伊吹がマチルダの変な口調を真似してからかうと、マチルダがポカポカと伊吹の胸を叩いた。
その様子を羨ましそうに眺める多恵子。イリヤはすでに伊吹の隣を確保している。その反対隣は燈子だ。
伊吹の胸を叩いた後、当然のようにその膝に座るマチルダ。そして伊吹がノートパソコンを見えるように膝に抱える。
「クルクムに投稿されてるイラストとか漫画とかを見て、前世の神作家の絵柄に近い人を探してるの。
んで、その人にうちらが書いたラフを元に神漫画を描いてもらう」
「……なるほど」
マチルダは元同人作家として。燈子と多恵子はイラストレーターとして。キャリーは元日本人として。イリヤは日本文化好きの元アメリカ人として。
皆でわいわい言いながら、前世の神漫画達をこの世に召喚しようとしているのだ。
「週刊誌で連載したら大変だろうから、クルクム内で不定期で連載してもらった良いよね。ある程度の投稿量になったら紙媒体で出版したらええし」
この世界でも漫画はあるものの、週刊連載している漫画はなし、週刊の漫画雑誌もない。
「週刊連載なんてしたら作家が潰れてしまうもの。身体を壊さないよう、健康に気を遣って仕事をしてもらわないと」
昼の仕事をしながら、印刷所の締め切りギリギリまで徹夜して同人誌の原稿を描いていたマチルダの言葉は重い。
「で、この世界に受け入れられたら『なぎなみ動画』でアニメ化するの。もしテレビ局が放映権が欲しいって言ったら売ってあげても良いと思う。
でも、あくまで製作委員会は作らず、VividColors主導にしたい。勝手に物語を歪める事は絶対に認めない。
まぁ、『なぎなみ動画』で見れるものをわざわざ地上波で見る人がいるかどうか分からないけど」
何にしても、まずは漫画を描けるクリエイターを探さなくてはならない。
「でも手塚治虫や藤子不二雄の漫画を一話から全部再現するってまず不可能に近いぞ。
それに、男女比一対一の世界の物語だとどこまで受け入れられるか分からんし」
「完全再現は無理よ。けど可能な限り再現する。男女比の事も含めてな。
だからこうやって転生者で集まって、前世の話をしながら漫画の内容を思い出すんよ。
諦めたらそこで試合終了ですよ」
キメ顔でそう言ったマチルダの顎をペチペチする伊吹。
「うちらがラフを用意して、金で雇った作画担当のクリエイターに清書させる。
これぞまさに金持ちのボンボンの道楽やな」
「ボンボンっていうか、僕自身が金持ちだから。多分お父様より総資産多いぞ?」
「えー、ホンマに? ナンボ持ってんの?」
「ざっと七十兆円くらい」
伊吹の言葉を受けて、騒がしかった副社長室が静まり返った。
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