GoolGoalの役割
デイヴィッドの声の収録が長引いている。マチルダへの恋心が砕け散り、すっかりやる気をなくしてしまった為、何度も休憩を挟んだ。
その都度デイヴィッドの侍女や執事があの手この手で宥め励まして、
アメリカ人男性特有のものか、と思っている伊吹に、控えていた
「特に女性に対する恋心を我慢したり、失恋したりという経験をする事はないと思いますから、余計にお辛いでしょうね」
自分の前に現れる女性は、男性にとっては家族以外はほぼ自由に出来ると言っても過言ではない。
伊吹としては、男性が少ない世界だからといって、目の前に現れた男性に無条件で女性が好意を寄せるかどうかは疑問に感じている。
伊吹もデイヴィッドもまだ若く、それなりに財力もあるので魅力的に感じるかも知れないが、ライルのような、ただ権力の器として扱われていたような人物に求められてもなぁと、伊吹は感じている。
自分が望めば、全ての女を自由に出来る。なんていう痛い勘違いをしないよう、伊吹は気を付けようと改めて思った。
デイヴィッドが収録ブースを出て、録音スタジオのソファーに沈み込むように座る。
「
伊吹はずっとデイヴィッドの収録に立ち会っていた美羽に問い掛ける。美羽はふるふると首を横に振った。
「リズムが上手く取れないし、声もお腹から出せない。多分気恥ずかしさもあるだろうからある程度慣れるとは思うけど、お兄ちゃんほど上手くは歌えないと思うよ」
美羽はマチルダと話すようになってから、キャラが少し変わった。伊吹の事をお兄様と呼んでいたのだが、それでは
敬語ではなく、少しツンが入ったタメ口で話すようマチルダに助言され、美羽は慣れないながらも親しみを込めて伊吹へ話すようにしている。
「うーん、やっぱ難しいか」
そんな気も知らず、未だに美羽にも多恵子にも手を出していない伊吹。前世を童貞のまま終えた男の悲しい性が邪魔している。
「でも、デイヴィッドさんが英語で歌った曲の方が流行ったらどうするの?
お兄ちゃんのCDより売れるかもよ?」
「それならそれで良いんだよ。僕の歌が売れるんじゃなくて、ビートルズの歌が広く知られる事の方が重要なんだから。
ビートルズの曲を聞いたアーティストが、どんな新しい曲を完成させるか。それが一番大事なんだよ」
伊吹の説明を聞いても、美羽は納得出来ないと言うように、唇を尖らせている。
そんな美羽の頭をぽんぽんと撫でて、伊吹が笑う。
「本来は英語の歌だし、英語の方がより多くの人達に親しまれるのは間違いないんだよなぁ」
「じゃあお兄ちゃんが英語で原曲を歌えばいいじゃん」
「それも手ではある。けど、せっかくネイティブのデイヴィッドがいるんだからって思ったんだけど、難しいなら仕方ないかな」
丸一日かけて全ての収録を終え、デイヴィッドが解放された。デイヴィッドを労う為、伊吹は
「声をデータベース化するのに時間が掛かるんだ。実際に
「自分の声でアバターが喋ると思うと変な気持ちだけど、ちょっと楽しみではあるね」
伊吹は紅茶、デイヴィッドはウイスキーを飲みながら談笑している。
「デイヴィッドは
「いや、だいたいしか把握していないんだ。ただ、父が撤退すると言って脅しに使ったGoolGoalの検索事業が、日本でどれだけ収益を上げているかは聞いた。
もし父がしっかりと事業内容や収益性などを把握していたら、脅しになんて使わなかったはずだ」
GoolGoalの日本における売り上げは五兆円ほどで、検索事業だけでも四兆円に届く。
ただし、Alphadealが
「デイヴィッドには正直に言うけど、GoolGoalの日本及び親日国での売り上げは今後、あまり期待出来ないと思う。
だから『アマテラス』へ検索アルゴリズムを移管させた方が、結果的に収益性が保たれると思う。
その上でGoolGoalには、VividColorsの事業のアメリカでの法人営業やサポートなどを手伝ってほしいと思ってるんだ」
VividColors最大の弱点は、営業力がない事。そしてサポート体制が整っていない事。
副社長や
GoolGoalは自社のサービスの営業を、外部委託して営業専門の会社に任せているものの方が多いが、外部委託の会社へ説明し、営業を任せるノウハウを持っている。
そのノウハウを活かして、VividColorsのサービスを外部の営業専門の会社へ説明し、どんどん契約を取って来てほしい、というのが伊吹からのGoolGoalへの依頼となる。
デイヴィッドが執事に目をやると、大きく頷いてみせた。
「すぐに指示を出そう」
「そう言ってもらえて助かるよ。こちらも詳細に説明出来るよう、準備を進めておくよ。
それと、
これについても、すぐにデイヴィッドが承諾した。
「それと、これは仕事とは直接関係ない話ではあるんだけど、アメリカでの賢者の扱いについて教えてほしい」
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