第十五章:戦後いろいろ

終戦

 伊吹いぶきとデイヴィッドの会談が無事終わった事を確認した上で、日米首脳会談が行われた。

 首脳会談後の共同声明の場で、今回の世界情勢の混乱については、アメリカ側の対応が後手に遅れた為であると大統領が認め、今後は日本と足並みを揃えて両国の発展を望むと発言した。

 内閣総理大臣は資源の権益や価格などで、アメリカからかなりの部分の譲歩を引き出し、ほくほく顔で記者の質問に答えていた。


 大日本皇国の領土はとても広く、本島以外に旧帝政ロシア領や旧中華民国領などを抱えており、世界有数の資源大国である。

 アメリカ合衆国も本土に資源を蓄えており、輸出価格等で貿易摩擦がたびたび起こっていたのだが、当分落ち着く事になるだろう。

 ちなみに、伊吹の父親である伊織いおりの前世知識で、日本はレアメタルやレアアースを大量に保有している。



 伊吹は非公式の場でアメリカ大統領から謝罪を受け、もう終わった事であると笑って返した。

 そしてデイヴィッドの肩を抱き、これから彼とは良き友人として付き合っていくと話し、もうわだかまりはないとアピールした。

 このデイヴィッドにはこのまま東京へ遊びに来てもらうと話すと、大統領はその事を報道陣へ話しても良いかと尋ねて来たので、伊吹はイエスと答えた。

 すでに福乃からお友達へは事前情報が流されており、それぞれが早々に手仕舞いをしていた事が分かった為、いつAlphadealを含むアメリカ関連株の株価が戻っても問題ない。

 その後の取引については自己責任でとお達しを出しているとの事で、伊吹がAlphadeal株を売買して調整する必要はなくなった。



「ようこそ、デイヴィッド。歓迎するよ」


 そして現在、伊吹はハワイから羽田、そしてヘリで藍吹伊通あぶいどおり一丁目へと帰って来た。


「ありがとう、イブキ」


 伊吹とデイヴィッドは四歳差、それほど歳が離れていないので、徐々に打ち解ける事が出来た。

 二人が日本の政府専用機から揃って羽田空港へ降り立った場面が世界中で報道され、日米の緊張関係が解かれた事が伝えられている。

 藍吹伊通り一丁目へは、伊吹が招いた事もあり、デイヴィッドの執事や侍女、その他お付きの女性達含め十人の立ち入り許可を出している。

 が、全員をヘリに乗せる事は不可能なので、執事と侍女一人のみデイヴィッドと同乗し、その他は別経路で藍吹伊通り一丁目へと向かっている。

 ちなみに、二人の通訳は紫乃しのが務めている。日常会話程度であれば問題なく意思疎通が可能だ。


 ちなみにデイヴィッドの妻達は、内部統制の為にサンダース家に残っている。ライルの妻達の権力や財産を剝ぎ取っている最中だ。


「移動で疲れただろうから、この棟の下の客室でとりあえず休むと良いよ」


「あぁ、ありがとう。

 ……客室が用意されているんだね」


「もちろん。友達やゲストを招いた時に使ってもらえるよう、結構な部屋数を用意してあるよ」


 ライルはゲストではなかった、という伊吹の意図を、デイヴィッドは正確に理解している。


「良き友であり続けたいものだ」


「全くだ」


 デイヴィッドと伊吹が笑い合う。

 そこへ伊吹の帰還に気付いたマチルダが、しょうノ棟屋上まで迎えに来た。


「イブイブ! 無事やったんやな、良かった!!」


 マチルダが伊吹に駆け寄り、勢いを殺さず飛びつく。


「ただいま。お土産は後でな、先に友達を客室へ案内しないと」


「友達? あぁ、あのアホジジイの息子かいな。

 あ、紫乃ねぇ、通訳せんとってや」


 さすがのマチルダも父親の悪口を息子に聞かれるのは躊躇った。マチルダは伊吹の背中に隠れてデイヴィッドの様子を窺っている。


「So cute……」


「デイヴィッド?」


 マチルダを見つめながら、デイヴィッドがフラフラと歩み寄って来た為、伊吹が牽制の意味を込めて名前を呼んだ。

 それを受けてデイヴィッドは正気に戻り、顔を真っ赤にしてしまう。


「えーっと、美子よしこさん。客室へご案内して」


「分かりました。こちらへどうぞ」


 チラチラとマチルダを振り返りながら、デイヴィッドは美子の案内に着いて行った。


「マチルダ」


「うちはイブイブていう婚約者がおるから無理やで! 同じ白人やいうても心は大和撫子やからな!!」


 念の為、デイヴィッドがマチルダを気に入ったと言った時にマチルダはどうしたいかと確認しようとした伊吹に対し、全て先回りして答えるマチルダ。


「それにあれや、もううちは名実共に日本人やろ!」


 日米首脳会談が開催されるにあたり、交渉内容にマチルダ、メアリー、ジニー、キャリー、イリヤなど、VividColorsで働く女性達で希望する者の日本への帰化を認めさせる事を盛り込んだ。

 この世界では、国外へ人口が流出するのを嫌う為、なかなか国籍喪失の申請が受理されないのだが、伊吹がマチルダの為に対Alphadealアルファディール参謀本部に頼んだのだ。

 マチルダからその話を聞いたキャリーが、自分を含めて希望者を募り、伊吹へお願いして来た為に大勢の帰化が実現した。

 伊吹は、いずれは藍吹伊通り一丁目に従業員だけでなく家族も住めるようにしたいと考えているので、帰化をしたからといってアメリカへ行ったり、残して来た家族と会えなくなるなどの不都合はない。


「でもデイヴィッドの好みが十歳の少女か。あっちってそういうの、結構うるさい印象だったんだけど」


 友人の好みについてとやかく言うつもりがない伊吹だが、対象がマチルダだというのが何とも胸の中でもやもやするのを感じている。

 嫉妬ではなく、中身が元関西人元OL元腐女子だからだ。


「男の好みにはとやかく言わんやろ。ちいさあても子供産めるようになるまで自分の近くで囲っとけばええねんから。

 ……自分で言うててサブいぼ出てきたわ、ほら見て!」


「サブいぼって何?」


「え? あー、鳥肌?」


 美少女の真っ白な肌に鳥肌が立っているのを見せられる事で、伊吹は日本に帰った事を改めて実感するのだった。

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