緊急記者会見:大統領報道官によるウィットに富んだジョーク

 サラが日本への亡命を求めたGoolGoalゴルゴル公式アカウントからのYourTunesユアチューンズでの生配信をきっかけとして、Alphadealアルファディールの株価はさらに下落。

 現在はVividColorsヴィヴィッドカラーズとの騒動より前の七割下落し、合計で百四十兆円分が消失した。

 ライルショックと呼ばれ始めた、Alphadeal株の下落に呼応したアメリカ株全体の株安。ドルもさらに下落、現在一ドル六十円となっている。

 裏で大日本皇国と繋がっている国々から仕掛けられた経済戦争に、アメリカ一国だけでは太刀打ち出来ない。


 ライルを本国の指示通りにアメリカへと送り返してしまった駐日アメリカ大使は、外務省や内閣府などを駆けずり回るが、どこもまともに相手をしてくれず、途方に暮れている。

 正式な戦争状態ではない為、国外退去を言い渡されないだけマシ、という状態だ。


 本国からは、まだライルから詳しい状況確認が出来ていないので対応の方針を決められないと言われ、アメリカ大使は怒り狂った。すでにアメリカ大使がライルから直接詳細な聞き取りを行っており、すでに本国へ報告済みなのである。

 アメリカ大使はこれ以上は身動きが取れないと判断し、大使館で酒を浴びるように飲み、気絶するように寝てしまった。


 そんな中、現地時間の十七時。アメリカのホワイトハウスで大統領報道官による緊急記者会見が行われた。


「現在報道されております、我が国の企業であるAlphadealと、皇国企業のVividColorsとの関係悪化に関しましては、現在帰国途中でありますAlphadealの最高経営責任者へ直接聞き取りを行い、その後対応を決めたいと考えております。


 また、GoolGoal元代表のサラ・トランス氏に関しましては、皇国へトランス氏の身柄の引き渡し要求をしております。彼女の生配信での発言に対しては信憑性が低く、本当にAlphadealからVividColorsへのサーバ攻撃が行われたのかの事実関係も不明です。

 また、皇国への亡命を希望している以上、皇国の関与も否定し切れません。


 これらの理由から、彼女には我が国企業への重大な背任容疑が掛けられておりますので、皇国とは引き続き交渉を続けていきます」


 質疑応答で、アメリカ大手新聞の記者が大統領報道官へ質問を投げる。


「ホワイトハウスとしては、今後VividColorsに対してどのような態度で交渉されるのでしょうか。

 一般企業と同列には扱えない企業かと思われますが、その点を踏まえてお聞かせ下さい」


 ホワイトハウスではすでに、話し合う相手は一企業であるVividColorsではなく、日本政府であると認識をしている。いくら皇族が役員を務める企業であっても、一般企業であると考え、特別な対応をすべきでないという方針を決定しているのだ。


 これは王家を持たない国家としての考え方であり、皇家・王家を戴く国家ではあり得ない無礼な振る舞いとして捉えられるのだが、現時点でアメリカ政府はその事について深くは考えられていない。


 大統領報道官の一挙手一投足が明日のアメリカ株全体に影響を与える。彼女は冷静に、そして現状に余裕があり、十分対処可能であるとアピールする為にも笑みを浮かべて質問に答える。


「あくまで一般企業と同列として対応致します。VividColorsが今回のようにAlphadealと渡り合えるようになったのは、あくまで我が国のサービスを利用して収益を得たからであるという事を忘れてはなりません。

 彼らが得た収益は、アメリカ合衆国の知識と技術と資本によってもたらされたものです」


 ここまでは台本通りであった。

 しかし大統領報道官は、ホワイトハウスの決定をただ伝えるだけでなく、自分の特色を出すべきであると思いつき、ウィットに富んだアメリカンジョークを挟んで会見を和やかにすべきであると判断した。


「そういった意味では、YourTunesはアメリカ領土内と言っても過言ではありません。

 本来であればYourTunesへ投稿する動画や生配信も、英語で行って頂かなければならないのでは?」


 爽やかな笑みを浮かべてそう問い掛けてみせた大統領報道官。しかし、会見場はシーンと静まり返る。質問者である記者が大統領報道官へ表情を強張らせながら言葉を発する。


「本気で仰っているのですか? アメリカ株がこれだけ下がり、サラ・トランス氏の告発もあって、ライル・サンダース氏を批判する声が高まっているのにも関わらず、VividColorsに対して我が国のサービスを使うのであれば英語で話せと、今後そういった態度で交渉に当たるという事ですか?」


 大統領報道官は、その問いに対してイエスと回答した。ホワイトハウスは特別な対応をすべきでないと方針を決定している以上、強気で交渉に当たるべきだと彼女は考えている。

 ここで発言を取り消したり、言い訳したりするとアメリカ政府の態度がブレているように取られてしまう。

 彼女の今後のキャリアの為にも毅然とした態度を示すべきと考えたのがだ。

 次の瞬間、大統領報道官に対して怒声の波が押し寄せる。


「ライルショックで国民がどれだけの資産を失ったか理解しているのですか!?」


「アメリカの年金基金運用における損失についてはどうお考えですか!?」


「専門家がタイムズスクエアの地価は近いうちに半分以下になるだろうと予測していますが!?」


「為替差損でどれだけの企業が破綻するか把握されていますか!?」


「アメリカにどれだけ安藤あんどう子猫こねこがいるかご存知なのでしょうか!?」


 報道陣が挙手もせず、次々と大統領報道官へ質問や非難の声を投げかける。報道陣は皆眉間に皺を寄せて、明らかに怒りの感情が溢れ出している。

 事態の収拾が付かないと判断し、大統領報道官は一度会見を打ち切ろうかと考えた矢先の事。


「VividColors副社長が『なぎなみ動画』の生配信でこの記者会見について言及されています!!」


「YourTunesでも同時で生配信されているようです!!」


「YourTunesに繋がらなくなりました!」


「大丈夫、『なぎなみ動画』で見れますにゃ!!」


 この日、大統領報道官のキャリアは砕け散り、消えてなくなった。


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