ニュース速報:サラ・トランス氏、皇国への亡命を希望

『はい、二十三時になりました。料理のお姉さん、リョウコでぇす!

 皆さんは今日もこんな遅い時間になるまでバタバタしていましたか? やっと一人になってホッと一息吐けましたか?

 今回はそんないつもいつも忙しいお母さんでも、手抜きで簡単に美味しい夕食をパパパッと用意出来るような作り方を紹介したいなと思います。

 パスタの乾麺と鶏のモモ肉一枚、後はニンニクと鷹の爪と刻みネギ。これだけで夕食になっちゃいます。

 材料は一人前ですから、家族分用意する時は掛け算して下さい。

 調味料等は画面に出てる字幕をスマホで撮っといて下さいね』


「うわ何これ、めちゃくちゃ美味しそうだな」


 対Alphadealアルファディール参謀本部が設置されている、きょくノ塔八階、大会議室。

 伊吹いぶきは複数並んだパソコンのモニターと、大型のテレビで映されている国営放送を眺めていた。

 伊吹の呟きに反応した侍女が、テレビ画面をスマートフォンで撮影している。


『さて、まず皆さん。お仕事から帰って来たら何をします?

 手洗い、うがい、着替え。そうですね、その後です。

 お酒、飲みますよね? ね?


 という事で今日も夕食を作る前にまず一日働いた自分を労いましょう!

 はい、乾杯!』


「これ本当に国営放送なの?」


「割と人気あるよ? リョウコの早くて安くて美味い料理教室。

 うちの大学でも一人暮らししてる学生はお世話になってるもん」


 つい先日まで一人暮らししていた燈子とうこが伊吹へそう答える。

 テレビ画面で美味しそうにビールを飲み干すリョウコを見て、伊吹は少しだけ酒が飲みたくなった。

 そんなリョウコの頭の上に、ピンコンピンコンと音を鳴らしながら「ニュース速報」の字幕が点滅する。


「来た来た」


 テレビ画面の隣。パソコンのモニターでは、YourTunesユアチューンズで生配信しているGoolGoalゴルゴル公式アカウントが表示されており、サラが泣きながら「拡散希望」の文字が入ったメモ用紙を抱えて、全てはライル・サンダースに言われてやった事だという告白をしている。


 もちろん嘘である。


 サラは自分が気に入らないからと独断でVividColorsヴィヴィッドカラーズに嫌がらせをするよう指示したし、VividColorsの本社応接室で怒鳴り散らしもした。

 そしてサラは応接室を一人で出て行ったが、警備の関係で一人ではエレベーターすら乗れない。


 事前に伊吹から指示を受けていた警備担当者が、応接室でのやり取りを知らないような顔をして、サラを連れてエレベーターで降り、車に乗せて藍吹伊通あぶいどおり一丁目の外へ連れ出した。

 そして適当な場所で車を停めて、サラを手早く拘束。外から見えないよう後部座席に転がして、荷物も含めて上から毛布を被せて隠した。

 そして素知らぬ顔をして藍吹伊通り一丁目へと戻り、しょうノ塔のラブホテル風個室へ放り込んだのだ。


 その後、サラは拘束されたまま侍女の手によって隅々までキレイに丸洗いされ、伊吹の手と口と腰により、発狂して精神がぐちゃぐちゃになるまで嬲り回された。


 サラは前世アメリカ人であり、それなりに男性経験もあったと後に話しているが、この世界では全くの処女であった。

 伊吹が自分の身体に触れて来ても、そんな事で屈する訳がないだろうと思っていたサラであるが、この世界にはないはずの避妊具を付けた伊吹に貫かれた時点で目の前が真っ白になり、地獄と天国を体験した。


 精神は前世のものであっても、肉体はこの世界のものなのだ。この世界の人間の身体は、男性が激減した事をきっかけに独自の変貌を遂げている。

 男性はすぐに射精し、女性はすぐに満足する身体になっており、過度の刺激に耐えられる構造ではなくなってしまっている。


 もう止めて、許して、何でもすると繰り返すサラに、容赦なく何度も何度も突き立てる伊吹。気絶しても終わらず、意識が戻ってはまた飛ばし、声が掠れ、叫ぶ事すら出来なくなっても繰り返される。

 暴力的に繰り返し打ち付けられる腰と、耳元で拙いながらも英語で優しく甘い言葉を囁く。サラは肉体的にも精神的にも伊吹に屈したのだ。


 ちなみに、避妊具はマチルダが考案し、宮坂みやさか製薬に作らせたものだ。美哉みや橘香きっかにせがんで伊吹との夜の話を聞いたマチルダが、拷問に使えるだろうと思い付いたのだ。

 拷問として使えるが、妊娠させるのは不本意である。ならば避妊具があれば良い、という事だ。

 しかし伊吹達の前世世界ほどの研究の積み重ねがある訳ではない為、出来上がった避妊具には厚みがある。伊吹はより長い時間、サラを苦しめる事が出来た。


『あぁ、あぁ……。ありがとう、ありがとうございます……』


 無事サラが保護された、ように見える。警察は元々近くで待機していたし、藍吹伊通り一丁目から連れ出したのも警察車両だ。


 アメリカ大使がライルに事情を確認した上で、どう行動するかを観察していた対Alphadeal参謀本部は、大使から一度ライルを本国へ帰したいという要請が来た後、この作戦を実行に移した。

 伊吹に対する正式な謝罪がないままの帰国など、外交上あり得ない行いである。

 ライル個人への攻撃は決定していたが、これでアメリカへ経済戦争を仕掛ける事も決定した。

 大日本皇国陣営はイギリス、スペイン、スウェーデン、サウジアラビアなど、王室が存在している国々。皇族の名誉に関わる為、各国は喜んで協力を引き受けた。

 もちろん、理由はそれだけでないが。


 ライルの自家用機が離陸準備に入り、もう引き返せない状態になったのを確認した後、サラに生配信を開始させた。

 サラの手でGoolGoal公式アカウントのパスワードを変更させてあるので、生配信が止められるとすればYourTunesの運営のみだったのだが、配信を邪魔される事はなかった。

 もちろん、生配信を強制的に終了させられても、サラに作らせた「なぎなみ動画」から生配信を続ける予定であった。


 そして時刻はもうすぐ二十三時半。ニューヨーク証券取引所が開かれる時間だ。

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