第十四章:連合国 VS アメリカ

緊急生配信:本当の事をお話します

 GoolGoalゴルゴル公式アカウントから生配信が始まった。

 暗い場所で撮影していると思われる画面。中央に金髪の女性が座っている。涙で化粧が落ちているのが分かる。ぼさぼさの髪の毛が靡いているので、彼女がいるのが外である事が窺える。

 

 英語で書かかれた「Spread the word」の文字と、拙い日本語で書かれた「拡散希望」のメモ用紙を両手で持ったその女性が、英語で話し始める。


『皆さん、私はGoolGoal元代表取締役社長、サラ・トランスです。

 数日前にAlphadealアルファディール最高経営責任者、ライル・サンダース氏から解任を言い渡されました。


 皆さんがすでにご存じの通り、私はVividColorsヴィヴィッドカラーズとの話し合いの為にアメリカから日本へやって来ました。

 私がサンダース氏からの指示を受け、YourTunesユアチューンズがVividColorsへ支払うべき収益の振り込み予約をキャンセルした事で、両社の関係は悪化し始めました。


 きっかけは私が彼の前で安藤家あんどうけの四兄弟チャンネルを見て、素晴らしい配信が始まったと彼に伝えた事です。私よりもその男が良いのかと、サンダース氏は怒り出しました。

 サンダース氏は自分よりも活躍している若い東洋人など許せないと怒りを露わにし、私にVividColorsへ嫌がらせをするよう指示したのです。


 私はサンダース氏の妻の一人ですが、入籍はしていません。寝室へ呼ばれる事もなく、手に触れられる事すらありませんでした。

 私は彼の気を引き、子供を授かる機会を得たかった。その一心で、私は彼の指示に従いました。

 相手が誰であるか、相手がどのような不利益を被るかなど考える事もなく、ただただ言われた通りにしたのです。

 その結果が今です。私は全てを失いました。


 サンダース氏がVividColorsの経営者と直接会って話をし、Alphadealの名のもとにちょっと脅してやれば簡単に買収に応じるだろうと、私に日本へ着いて来るよう言ったのです。

 そんな事はあり得ない、しっかりと謝罪して友好的な関係を築くべきであると訴えましたが、サンダース氏は聞く耳を持ちませんでした。

 彼は私にVividColorsが到底飲めないような交渉をさせ、結果、決裂しました。当然です。Alphadealの要求はあまりにも不当なものでした。

 私はサンダース氏の指示通り、アカウントを停止させる、買収の提案を受けなければ日本から検索事業を撤退させると脅しました。VividColorsが受け入れなかった為、サンダース氏からお前は無能であるとAlphadealのグループ全体からの追放を宣告されました。


 私はVividColorsの名誉を守る為に、然るべき場所で証言致します。ですから、私を保護して下さい!

 私はもうアメリカへは帰国出来ません。帰国すれば国や国民からどのような扱いを受けるか分かりません。サンダース氏が手を回し、必ず私の命を狙うでしょう。それが怖くて怖くて堪らないのです。

 大日本皇国への亡命を希望します。お願いです、私を助けて下さい!


 VividColorsの社長、副社長、この配信を見ておられましたら私を助けて下さい!

 今から私が現在いる場所を申し上げます。誰か人を寄越して下さい、お願いです』


 サラが東京の大きな公園の名前を口にする。


『日本の皆さん、不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。

 日本の皆さんがVividColorsの動画や配信、その他の活動を愛しておられるのを知りながら、サンダース氏の指示により思いつく限りの罵倒をしました。

 ですが、それらは私の本心ではなく、サンダース氏に言うように強要されたものだったのです。


 ……いえ、言ってしまったのは私です。いくら指示を受けたとはいえ、言うべきではありませんでした。

 サンダース氏の指示を無視し、何とか私なりの誠意ある対応を見せる事も出来たかも知れません。


 私は暴君のようなサンダース氏が怖かった。恐怖で支配されていました。

 多くの女性が夢見る妻という立場ですが、私はあまり幸せだと感じた事はありません。

 他の女性に比べると使えるお金は多く、普通では味わえない経験や贅沢をさせてもらったのは確かです。

 が、彼は私を妻としながらも、女性としては見てくれませんでした。

 それがとても寂しく、空しかった。だからこそ余計に仕事へ打ち込み、GoolGoalを大きな企業へと成長させたのですが、結果的に全てが報われず、私は途方に暮れています。


 どうか、どうか日本の皆さん。私を助けて下さい。許してなどとは言えませんが、贖罪の機会を下さい。

 私はVividColorsの為に必要な事を話し、証言するつもりです。どうか、どうか……』


 遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。サラの顔が僅かに赤く照らされ、彼女の元に警察が向かっているであろう事が窺える。


『あぁ、あぁ……。ありがとう、ありがとうございます……』


 サラが全身を震わせ、両手で顔を覆う。サラの名を呼ぶ声が聞こえ、安心してへたり込む彼女の両脇を支える警察官の姿が映し出される。

 サラはフラフラで、自らの足で立てないほど衰弱している事が見て取れる。


 警察官の手によってカメラが覆われて、そして生配信が終了した。


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