儀式

 着替えていた小部屋から出て、火が焚かれている土間へと戻る。

 伊吹は少女達に手を取られ、火の前に敷かれたござの上へと座らされた。伊吹の周りを少女達が囲むように座る。

 武三が祝詞を読み上げながら木片を火へくべる。火の周りには鉄で出来たかめのようなものが複数置いてあり、中に石が詰められているのが見える。

 武三が時折、柄杓で水を汲んで熱せられた石へ掛ける。じゅっ、という音を立てて蒸気が上がり、室内の温度をさらに上げる。


 伊吹の周りに座る少女達は、伊吹の汗を拭いたり、濡れた手ぬぐいで頭を冷やしたり、柄杓で水を飲ませたりと甲斐甲斐しく世話をする。


「失礼致します」


 少女が伊吹の頭に柄杓で水を掛ける。別の少女がすぐさま手ぬぐいで頭を拭き、さらに別の少女が新しい手ぬぐいで伊吹の顔を拭く。

 伊吹は熱で火照った少女達の表情や、汗で濡れて透けている巫女装束が気になり、少女達の汗の匂いも相まって気分が高まってくる。室内の温度はサウナほどではないしにしても、長時間座っている伊吹の頭はぼーっとしており、正常な判断がつきにくくなる。

 首元の汗をぬぐっていた少女の手を取り、抱き寄せようとしたが、伊吹の視界の端で武三が大汗を掻きながら祝詞を上げているのに意識が向いて、昂っていた気分が急激に萎えた。



 火にあたり続けて一時間ほどして、武三が伊吹へ終わりを告げる。伊吹は少女達に手を引かれ、小部屋を抜けてさらに向こうにある風呂場へ連れて行かれた。

 少女達の手によりずぶ濡れになった白装束を剥がれ、同じく巫女装束を脱いだ少女達と共に風呂場へと入る。

 水風呂へ入れられて、また頭がぼーっとする伊吹。広い洗い場に寝かされて、伊吹の全身を少女達が隅々まで洗ったあと、丹念に揉みほぐしていく。良い香りがするマッサージオイルが全身にまぶされ、指の一本一本まで丁寧に指圧される。

 再び全身に血が巡り、伊吹の気が昂ぶり始める。


 浴室内で四人の少女が気絶した。



 入浴が終わった後、新しい白装束を着せられた伊吹は皇宮内の別の建物へ連れて行かれた。気絶した少女を省いた六人の少女が付き添い、広間へ案内される。

 伊吹が用意された座布団に座ると、侍女服を着たおば……、淑女達がお膳を運んで部屋へ入って来た。

 六人の少女の前には配膳されるも、伊吹の前には配膳されない。伊吹が戸惑っていると、一人の少女が自分のお膳を持って伊吹の対面に座り、箸で魚を取って伊吹の口元へ運ぶ。

 伊吹は智枝を窺うが、小さく頷くのみで何も言ってこない。

 伊吹は仕方なく口を開けて少女の箸を受け入れ、もぐもぐと咀嚼する。すると、その少女が伊吹に使ったお箸を使い、箸で魚を取って自分の口に入れた。そして伊吹の目を見つめながら、もぐもぐと咀嚼する。こくりと嚥下すると伊吹へ一礼して、お膳を持って元いた場所へと戻って行った。

 また別の少女がお膳を持って伊吹の前に座り、ご飯を取って伊吹の口元へ運ぶ。咀嚼する伊吹を見つめながら、少女はご飯を口にし、同じく咀嚼する。そして嚥下すると、一礼して元いた場所に戻っていく。

 これが、少女達六人分のお膳の上の全ての食べ物がなくなるまで、何度も繰り返された。


 夕食後、伊吹は少女の膝枕で歯磨きをされている。あーと口を開け、丁寧にごしごしと磨かれる。伊吹はもはや何も抵抗せず、疑問も口にしない。

 伊吹は少女が差し出した柄杓で水を口に含み、口をすすいだあと、別の少女が用意した受け皿へ吐き出す。部屋の外で待機していた侍女へ受け皿が渡され、伊吹は少し安心した。


 寝るにはまだ早い時間帯。少女が香炉を用意をし、広間内に甘く濃厚な香りが広がっていく。

 伊吹は風呂場で全身に塗られたオイルの香りに似ている事に気付き、また気分が高まってくる。が、すでに四人も気絶させてしまった事も同時に思い出す。


 結婚式の前夜に自分は何をやっているんだ。

 怒られないが、これがこの世界での結婚式前の儀式として一般的なのか。

 この少女達は同意の上なのか。

 いや、同意があったとして、それは法的に大丈夫なのか。


 そんな雑念を抱いていると、智枝が伊吹に抱き着き、キスをねだって来た。


「どうした?」


「そう深くお考えになられず、ただこの香りを、この時を、感じるようにして下さい」


 その言葉がきっかけだったかのように、少女達が伊吹の手や身体に自らの身体を押し付けて来る。

 智枝が再び部屋の隅に控えると、伊吹は全身少女まみれになる。お香の香りか、少女達の体臭か。状況も相まって、伊吹の心がじょじょに霞がかっていく。


「皆さん、伊吹様はまだまだお力を残されています。さぁ、子種を授けて頂きなさい」


 その晩、七人が伊吹の力によって気絶させられた。

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