AI開発技術者

 安藤真智あんどうまちチャンネルは開設後すぐ、登録者三百万人を突破。VividColorsヴィヴィッドカラーズ関連のチャンネルという強みもあるが、何よりコスプレ文化という新しい娯楽に対して、自分も参加するにはどうすれば良いかという教本代わりになる事が受けた。

 化粧の仕方、衣装の作り方、身体の採寸方法、カメラなどの機材紹介など、今までは特定の業界のみが知っていた知識や手法などを広く公開した為、驚くべきスピードで世界に普及していっている。


「何でこの写真が一番人気なん……?」


「それはマジで泣いた後に撮った写真だからでは?」


 YoungNatterヤンナッターで一番人気なのが、水色のショートカットのウィッグを付け、無表情だが右目からのみ涙が零れ落ちているマチルダの顔のアップの写真だ。

 伊吹の侍女達全員に殺気を当たられた後に撮った写真で、その時の恐怖を思い出すだけで涙がぽろぽろと出て来たのだ。


「このセーラー戦士の写真もええやん? やっぱ合成で背景を満月にしてもらって大正解やわ」


「あの後だから聞けなかったけど、何で髪の色がピンクなの? あれって金髪じゃなかった?」


「あー、このコは主人公の娘やからなぁ」


「娘!? え、だからおんぶしてってリクエストしたの?」


「いや、あれは単純にみぃちゃんときぃちゃんが羨ましかったから」


 伊吹はマチルダの衣装替えのタイミングで控えていた美哉みや橘香きっかと三人で写真を撮ってもらっていた。

 色々なポーズを取っていたマチルダに触発されて、伊吹が美哉に抱き着いたり、橘香に膝枕してもらったりして撮影していたのを見たマチルダが、自分もイチャイチャしたいと思って伊吹におんぶをねだったのだ。

 が、結果的に美哉と橘香のような恋人っぽい写真ではなく、親子か歳の離れた兄弟くらいにしか見えない写真となってしまった。それはそれでYoungNatterでは需要があるのだが。


 伊吹とマチルダがそんなやり取りをしているところへ、藍子あいこが訪れた。


「特に気になる人物がいるから、二人に会ってほしいんだけど」


 世界中からVividColorsで働きたいという人材が面接を受けに来るので、藍吹伊通あぶいどおり一丁目内のビルを面接専用とし、書類審査から二次審査、社長面接まで全てが行われている。

 求めている人材は多岐に渡る為、経理や法務、最先端技術から伝統芸能まで様々な人材がふるいに掛けられている。

 採用された場合はVividColors内の子会社や各部署へ割り振られるが、特に重要な人材と思われる場合は伊吹が直接会って話を聞く事になっている。



 大会議室に主要な人員が集まったと報告を受け、伊吹が大会議室へ向かった。


「はじめまして。わたし、イリヤ・ブラックストン。AIのけんきゅう、してます」


 先に大会議室に通されていたイリヤが立ち上がって、頭を下げる。イリヤは白髪のロングヘヤーで、瞳の赤。背は欧米人にしては低い。

 伊吹は念の為に、とドット絵お面を付けており、ついて来たマチルダは出来るだけ口を開かないようにと担当侍女から指示を受けている。

 イリヤの目線は伊吹ではなくマチルダに向けられており、目がらんらんと輝いているのが分かる。鼻息も荒く、鼻からふんすふんすと白い吐息が見えるかのようだ。


「AIですか。それはとても興味深いですね」


「とってもおかね、かかる。まえのかいしゃ、だめ。でてけ。やめた」


 マチルダが口を開けかけたが、その前に弁護士でマチルダの母親でもあるメアリーが、英語でイリヤに事情を確認した。

 勤めていた会社で開発責任者だったイリヤだが、予算内ではなかなか結果が出せずにくすぶっていたそうだ。会社幹部へ予算増額を求めたが、すぐに結果が出ないものにこれだけの投資は出来ないとして却下された。

 その折りに、安藤真智のYoungNatterが目に入り、衝撃を受けたと話す。


「副社長、彼女も転生者だと言っています」


「……なるほど、だから真智のコスプレ写真に反応したのか」


 元々ある程度の前世知識がある事を自覚しており、そのお陰で大学も飛び級で卒業し、十八歳にして博士号も得ている。前世と同じくAIの開発に携わっていたところ、真智のコスプレを見て日本のオタク文化が好きだった前世の記憶を思い出したのだと話している。


「マチルダとは違って、前世もアメリカ人なのか。転生者の共通点が見えてこないな。

 まぁそれは置いておくとして。

 イリヤさん、AI開発の予算としてどれくらい必要ですか?」


「One billion dollars」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る