第八章:安藤真智デビュー

白人美少女

 伊吹いぶきはジニーとキャリーを藍吹伊通あぶいどおり内にある来客用マンションへ泊まるよう侍女に手配を指示し、今日のところは帰らせた。

 ちなみに、解雇したジニーにキャリーが着いて訪日した事で、キャリーもYourTunesユアチューンズから解雇が言い渡されている。

 オフィスへと場所を移してお茶を飲んでいると、オフィスのドアがノックされる。メアリーだ。


「お待たせ致しました。ワタクシの娘のマチルダです」


「……いないよ?」


 メアリーが娘を連れて来たようだが、オフィスへ入って来たのはメアリー一人だ。メアリーが慌ててドアを開けようとすると、小学校高学年ほどの白人美少女が入って来た。


「邪魔すんで~」


「っ!?

 邪魔すんにゃったら帰って~」


「あいよ~、って何でやねぇん!!」


 伊吹は思った。待ちに待った転生者が、寄りによってコテコテの関西人かよ、と。



「マチルダがアメリカにいた時は普通の子だったんです。三年前、ワタクシの仕事で日本へ越して来た頃から様子がおかしくなりまして……」


「ママ、おかしないてや。元に戻っただけやん」


 メアリーが十八歳の頃に生んだマチルダは、後天的に前世の記憶を思い出したタイプのようだ。

 マチルダはメアリーと同じく肌は白く、髪の色が赤茶色で瞳の色はオレンジ。髪型はボブのストレートで顎のラインに揃えられている。


「で、前世では何をしてたとか覚えてる?」


「普通のOLやで、コミケ前に徹夜して原稿描いてた一般的なOL」


 それを一般的と言うのかどうかは別として、伊吹は彼女にオタク文化の推進を任せられるな、と思いかけて、留まる。


「マチルダさんは今いくつ?」


「それは精神年齢の話? それとも実年齢?」


「十歳です」


 女に歳を聞くやなんてどうのこうの、と喋り続ける娘の口を塞ぎ、メアリーが答える。


「今は日本の小学校に通わせてるんですか?」


「いえ、ホームスクーリングでアメリカの学習内容を受けさせています」


 メアリーは家で出来る範囲の仕事は家で行い、必要であればYourTunesの日本支社へ顔を出していたようだ。その間マチルダは一人で留守番をしている。

 メアリーとしては十歳の子を一人にするのは不安であったが、日本の治安が良いのと、マチルダの精神年齢が高いので問題ないようだ。

 雇ったシッターがマチルダの事を不気味だと訴えた為、人を雇うのは止めてしまった。


「ばたばたしていたのでメアリーさんの家の話をしていませんでしたね。

 この周辺は全て僕の土地ですので、好きな家をお貸ししますよ。マチルダさんと一緒に暮らす分には不自由ないと思います」


「えー、うちお兄さんと一緒に暮らしたいねんけど」


 マチルダはささっと伊吹の膝の上に乗って抱き着く。マチルダが伊吹の顔を両手で持って、ええやろ? と小首を傾げて尋ねる。

 美哉みや橘香きっかがどう対応すべきか迷っているのを見て、伊吹が宥める。


「子供のやる事だし気にしなくて良いよ」


「ホンマに子供やと思ってる? 身体は子供やけど心は大人や、この青い果実を囓りたい思わん?」


 思ってもみなかった誘惑を受け、苦笑いを浮かべる伊吹。


「あいにく僕には奥さんに内定している素敵なレディが八人いてね、熟す前の果物を慌てて口にするほど飢えてないんだ」


 そう伊吹が答えても、マチルダは伊吹から離れずに口を耳元へ近付けて囁く。


「この世界は女にとって地獄や。同郷のよしみやと思ってうちの事引き取ってくれん? 九番目でええから」


 女にとって地獄の世界。マチルダのようにほぼ完全な前世の記憶を持っている女性にとっては、非常に生きづらい世界である事は間違いない。

 同郷のよしみと言われるとなおさら、伊吹は何とかしてやりたいという気持ちが湧いてくるが、前世からの常識が伊吹を引き留める。


「でもまだ十歳でしょ。僕以外に好きな……」


「恐らくお兄さん以外の男と出会う事なくこの人生を終えるやろうなぁ。ママみたいに人工授精の順番が来て、うた事もない男のザーメンを受け入れて、孕んで、生んで、育てて。

 ママはええ、この世界の常識しか知らん。うちも感謝しとるで? 働きながらちゃんと娘の世話もするスーパーウーマンやと思うわ。

 けどうちは無理や。思い出してもた。喪女で腐女子やったとはいえ、基本的人権が尊重されてた。この世界はどうや? レアな男とそれに群がる一部の女しか勝てん世界やと思わんか?」


 伊吹は言い返せない。前世が男で今世も男。この世界において男は生まれながらの勝ち組。そして伊吹はさらに世界を相手に勝ち戦を仕掛けている。

 十歳の女の子一人くらい、養ってあげても良いのではないだろうか、伊吹はそう思い始める。


「それにうち、お兄さんみたいなイケメンと釣り合うくらいべっぴんさんやろ? 顔が良くてもこの世界では意味ないけど、お兄さんならこの価値理解してくれるんとちゃう?」


「……分かった。ただし、僕の仕事を手伝ってほしい。働かざる者食うべからず、って言うだろ?」


 マチルダはニヤっと笑い、伊吹の唇にキスを、しようとして前歯をぶつけた。


「ごめん! 前世でもした事なかったからやり方分からんねん」


「あぁ、いいよ。でもメアリーさんがとんでもない顔してるからフォローしといてね」


「任しとき! あ、でも胸の将来性はなさそうやから、そこだけ堪忍してな」



★★★ ★★★ ★★★



さくしゃ は べんり な キャラ を てにいれた !

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