問題に隠された意図

 翌日、伊吹いぶきYourTunesユアチューンズの幹部と面会を行う事になった。

 VividColorsヴィヴィッドカラーズの大会議室に藍子あいこ柴乃しの、弁護士のメアリー、さらにはVCスタジオの乃絵流のえること河本こうもと、VCうたかたラボから岡野おかの親子が集まっている。

 美哉みや橘香きっかは伊吹の後ろで控えている。

 伊吹は念の為に、とドット絵お面をつけて一番上座の席に座っている。


「はじめまして、わたし、ヴァージニア・ポルツ、です。ジニーとよんで、ください」


「よろしく、子猫ちゃん」


「ミ、ミュゥ……」


 ジニーは白い肌に肩まで伸ばされた金髪、瞳の色は青。そして現在顔を真っ赤に染めている。

 ジニーは開発担当の責任者を連れて来日したが、宮坂警備保障が難色を示した為ビルに入る事を許されなかった。


「良ければ英語で話してもらって大丈夫ですよ、うちには優秀な弁護士がおりますから」


「わたしのまえのひと、ですね。うらやましい」


 メアリーの立場を羨ましがり、自分も伊吹の元で働きたいとアピールした上で、会談が始まった。


 ジニーは開発を主導する担当執行役員であり、ビルに入れなかった開発担当責任者が実際の開発を指揮している。

 二人共、元々YourTunesには他社からヘッドハンティングを受けて入社した経緯があり、VividColorsが頭角を表した以降、GoolGoalゴルゴルからの無理難題には呆れていたとの事。

 また、ジニーと開発担当責任者は信長と光秀のやり取りは録画だったが、今回の副社長に対する安藤家の質問はリアルタイムだと見抜いていた。

 短期間で技術を飛躍的に向上させている事を評価し、なおの事これからのVividColorsの前途が明るいものであると確信していると話す。

 そして、新しい動画共有サービスを立ち上げるのであれば是非とも参加したいと申し出た。


「それと、キャリー、あってはなしたい、いってる」


 止められたキャリーという開発担当責任者が伊吹と直接会って話したいと言っているとの事で、警備員に通すよう連絡を入れる。

 数分も待たずに大会議室へ通されたダークブラウンの髪色でショートカット、瞳の色は緑の女性が、ジニーの隣の席を案内され、伊吹に対して立ったまま礼をした。


「初めまして。キャリー・アトモスと申します」


「流暢な日本語ですね。ネイティブですか?」


「いえ、二ヶ月前に安藤家と出会ってから勉強し始めたのですが、すらすらと覚える事が出来ました。

 まだ読み書きは出来ないのですが」


 読み書き出来ないにしては、日本人と遜色ないほどの話し方だ。話せるだけでなく、礼儀作法も日本人に劣らないように見受けられる。


「まるで忘れていた日本語を思い出したような感覚なのです。

 貴方にお会いすれば何か分かるかと思い、ジニーについて来ました」


「なるほど……。ちなみに『光秀の大喜利よ今夜もありがとう』を聞かれた事は?」


「毎回聞いています。ですが読み書きがまだ出来ないので、お題に答える事までは出来ていません」


 伊吹は少し考えて、紫乃にキャリーを別室に通して、出場者選別の為の大喜利問題を読み聞かせるように指示を出す。

 紫乃はキャリーを連れて部屋を出て行った。


「あの、お兄様。質問をしてもよろしくて?」


「あぁ、乃絵流」


 乃絵流こと河本が怪訝そうな表情で伊吹へ質問する。


「あの大喜利の問題には何か隠された意図がおありなのですか?」


「そうだ、僕のように並行世界の記憶を持ったものを探す為の質問内容になっている」


 伊吹は大喜利というお笑い文化を広めると共に、それを隠れ蓑にしつつ転生者を集める為に大喜利の問題を公開しているのだ。

 少なくとも伊吹の父親という自分以外の転生者が存在している以上、この世に二人しかいないという事は考えにくい。

 さらに、この世界の科学技術の発展具合に歪みが生じていると感じてる伊吹は、自分のように前世の記憶を持って生まれた者が発展に寄与している為だと予想している。 

 現在のこの世に生まれるのはほぼ女性であり、伊吹のように男性特権を使って大々的に技術革新を働きかけるほどの背景を持たない為、そこまで目立っていないのだろうと考えている。

 今までも転生者を名乗る面接希望者はいたが、じゃあ何を覚えているかと確認すると、ほとんどが嘘かそれに近いものだった。

 伊吹は大喜利に見せた前世の記憶チェックシートを作成し、そういった者を事前にふるい落とせるようにしたのだ。


「あの、副社長。一人思い当たる人物がいるのですが……」


 メアリーが恐る恐る手を上げる。


「前世の記憶を持っている可能性がある人物?」


「はい、その……、ワタクシの娘なのですが」


 伊吹はこの後、オフィスへ連れて来てもらうようお願いをして、話を戻す。


「ジニーさん、YourTunesユアチューンズを円満退職されるとして、いつから弊社へ来られますか?」


 ただでさえVividColorsとGoolGoalの関係は良くない。ジニーが辞表を提出し、円満に退職を認められてから改めて日本に来てもらった方が良いだろうと伊吹は考えたのだが。


「えんまん? いますぐ、やめられる、です」


 ジニーは伊吹と一緒に写真を撮って良いか確認する。美哉と橘香が待ったを掛けたが、ドット絵のお面を付けたままで良いとジニーが言ったので、しぶしぶ了承した。


「Cheese♪」


「いやお面被ってるし」


 ジニーのスマホを使い、伊吹とジニーが隣り合って立っているツーショット写真を橘香が撮影した。


「つぶやきましたー」


 ジニーはその場でツーショット写真をYoungNatterヤンナッターで呟いた。英語で『副社長は実在した!』という文章と共に呟かれたこの写真は瞬く間に全世界へ拡散され、そしてジニーは即日YourTunesの執行役員を解雇された。


 この事により、GoolGoalとのゴタゴタが一時中断となった。



★★★ ★★★ ★★★



次話より新章へ移ります。

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