新たな代理人

GoolGoalゴルゴルの幹部がYourTunesユアチューンズ公式アカウントから生配信を行い、VividColorsヴィヴィッドカラーズに落ち度があるとしたYoungNatterヤンナッターの呟きを正式に取り下げると発表しました。

 VividColors副社長の会見配信がもたらす影響を無視出来なかったと思われ……』


「まるでこっちが圧力を掛けたみたいな言い方だな」


「掛けたのよ、いっくんが。わざと生配信を切って、さもYourTunesに強制終了させられたかのような演出までしてね」


 伊吹いぶき燈子とうこにツッコまれ、機嫌良さそうに笑顔を見せる。

 GoolGoalはVividColorsへの収益支払いの振り込みが遅れたのは、VividColorsの手続きに問題があったとした発言を取り消したが、何故支払いが遅れたかについては調査中としている。

 生配信で述べた通り、伊吹はこれ以上追及するつもりはない。向こうから殴り掛かって来たので、ひょいと避けただけだ。こちらが避けた事で殴り掛かって来た相手が転んで怪我をしようが伊吹には関係のない事である。


「失礼するよ」


「失礼するんやったら帰ってー」


 ぎょっと目を見開いて伊吹を見つめる福乃ふくの。その場の空気が冷えていくのが伊吹にも分かった。


「すみません、福乃さん。元いた世界の冗談でして」


「……何だい、驚かせないでおくれよ。ついに伊吹様の本性が出たのかと冷や汗をかいたよ」


 伊吹は大喜利だけでなく新喜劇や漫才、コントや小演劇なども普及させなくてはならないと思った。しかし伊吹一人でお笑い文化を発展させるのはとても難しい。

 改めてゆっくり方針を考える事とし、伊吹は福乃に向き直った。


「儲かりまっか?」


「ん? それも冗談の一つかい?

 儲かるどころの話じゃないよ、三十兆円分の商いだからね。

 もちろんうちだけの儲けじゃないが、お金以外にも得るものがあったからね。伊吹様には頭が上がらないよ。

 藍吹伊通あぶいどおりの二丁目でも作るかい?」


 藍吹伊通り一丁目を広げ過ぎて大通りに面してしまったら、警備の上で手間が掛かるのでこれ以上の拡張は難しい。


「一丁目の開発でさえまだまだなので、その時に相談に乗って下さい」


「何でも言っておくれよ、ヘリさえあれば区画間の移動は自由だよ。

 さて、そろそろ時間だね。藍子あいこ、行くよ」


 福乃は藍子と紫乃しの、そして弁護士のメアリーを伴い、自らが経営する喫茶店へと向かった。GoolGoalの新たな代理人と面会する為だ。



「とりあえずこれで一旦幕引きだね」


 四人が喫茶店から戻り、伊吹へ内容を伝える。

 今回GoolGoalから派遣されたのは、ただの代理人ではなくYourTunesの幹部であり、自ら名乗り出て訪日したとの事。

 YourTunes内部としてはVividColorsの躍進に喜び、日々の配信を楽しみにしているのだが、GoolGoal本体からは良く思われていない雰囲気であるとの事。


 その幹部曰く、Alphadealアルファディールの経営母体である一家が、自分の旦那様よりも活躍している男性が出現した事に驚き、しかもそれが日本人である事に対抗意識を燃やしてしまった。

 伊吹に対抗して自分の旦那をYourTunesユアチューンズへ出演させようと画策したが、本人の機嫌を損ねてしまったという。

 その八つ当たりとして今回のような騒動に発展したというのが真相のようだ。


「初めはちょっとした憂さ晴らし程度だったんだろうけど、あれだけの規模の企業グループを私情で動かしたんだ、罰くらい当たるさ」


 あんた達も気を付けな、と福乃が女性陣に忠告する。皆が頷いてはいるが、そう言われて制御出来るほど女性の感情というのは簡単な作りになっていない。

 ただ、伊吹がやりたい事を主張して皆がそれを支えている現状においては、誰かが暴走するというのも考えにくい事ではあるが。


「で、YourTunesの幹部がこれを伊吹様に渡してほしいってさ」


 福乃が預かっていた三つの盾と名刺を伊吹へ渡す。名刺の裏面に日本語で、「いっしょにおしごとしたいです」と書かれていた。


「安藤家のチャンネル登録者だとさ。一生懸命日本語を覚えてるって言ってたよ」


「自分を売り込む為にわざわざ代理人に名乗り出たんでしょうか?」


 会見生配信で安藤治あんどうおさむを使ってYourTunesのようなサービスを立ち上げるような内容の発言をしたので、自分を売り込みに来たのかと伊吹は考えた。


「もちろんそれもあるだろうけどね。あれは恋する女の目だったよ。

 運営元さえ虜にしちまうんだから、あと何人奥様が増えるか分かったもんじゃないね」


「えぇ……、仕事と恋愛は分けるべきでは?」


 新規事業を立ち上げる為に、色恋を使うのはどうなのかと躊躇う伊吹。しかしこの世界の価値観ではそうはならない。


「自分の能力を売り込んで妻にしてもらうのさ。当然の事だと思うがね?」


 福乃にそう言われても、今一つ納得出来ない伊吹であった。



★★★ ★★★ ★★★



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