影ながら守ってくれていた人達
「ご主人様、このビルの周辺の現状をご存じないかと思いますので、ご報告させて頂きます」
「まず、このビルを中心とした百七十メートルが完全に封鎖され、警察の検問を受けないと近付く事が出来ません」
「百七十メートル!? 警察が協力していると言えど、そんな事が可能なの?」
「元々このビル一体は
そもそも都合よくビルの一棟丸々借りるなんて無理だよ」
福乃の説明を受けて、
「それと伊吹様が仰っていたレコーディングスタジオだけどね、この周辺に確保する事が可能だよ。宮坂グループ傘下の
どうする?」
「ぜひお願いします。ここから歩いて行ける距離なら僕も通いやすいですし」
後ろに控えていた
納得した。
「もしかしてさ、屋敷の周りの土地を全部買い上げて私有地にしてしまえばさ、僕が自由に出歩いても大丈夫なんじゃない?」
「伊吹様、実はすでにあの周辺の土地は全て
「……美子さん、もしかして近隣住民は全て僕の侍女だったりする?」
「その通りでございます」
普段から良くお付き合いしていた近所のおばちゃん達。伊吹の寝間着を縫ってくれたり一緒に庭でバーベキューしたりしていたのは、単に
これも
「まさか自分が映画のような日々を送っていたとはね」
こんな事ならばもっとしっかりこんにちは、こんばんは、おやすみを言っておけば良かったと思う伊吹。
「そんな僕が今度は
「伊吹様……?」
京香が独り言を零す伊吹に声を掛ける。伝えられた真実に驚いているのか、それとも騙されたと怒っているのか。
咲弥が伊吹には可能な限り普通の生活を送らせたい、と言っていた為、侍女が近隣住民の振りをして伊吹を影ながら支えていたとはいえ、伊吹にとっては騙されていたととられてもおかしくない。
しかしそんな心配は不要だった。
「もうどうせだったら皆をこっちに呼んで、元気な顔を見てもらいたいな。あと、屋敷に残したままになってるお母様とお祖母様の遺影とかも持って来てほしい。気になってたんだよね」
「屋敷の管理を任せている者以外は、すでにこの周辺におります。VCスタジオの従業員が昼食を摂る食堂や、クリーニング店やビル内の清掃の仕事などをしております。
この前の狩衣を縫ったのも侍女です」
「……通りで着心地が良い訳だ。
ちゃんと皆の顔を見たいから、時間がある時にここまで来てほしいって伝えておいてくれる?」
「お気遣い頂きましてありがとうございます。屋敷に連絡をして、遺影などを持って来るよう伝えておきます」
伊吹はそこで、ふと思い付いた事を口にする。
「狩衣を縫えるって事は、もしかして
「ええ、恐らく生地さえ用意出来れば問題ないかと思います」
「その侍女さん達さえ良ければ、業務の一環として色々な服を作ってもらいたいな。
僕が着る分だけじゃなく、VCスタジオの皆の分と、美哉や橘香、あーちゃんととこちゃんの分とかも。
僕がレコーディングスタジオに行く時に、皆で仮装をしていればどれが男か分かりにくくなるでしょ」
普段から仮装をした人物達が出入りしておれば、伊吹がその中に紛れて外へ出歩く事も出来るだろうという考えだ。
周りが完全に封鎖されているとはいえ、出歩く事に難色を示した美子と京香への配慮でもある。
そして、コスプレ文化の定着に向けた第一歩としても意味がある行動である。
「もうやるならとことんやろうか。京都の西陣とか、あとは博多だったっけ? 良い生地からちゃんとした着物を作るようにしようか。
現代では着物文化が衰退しているだろうし、僕のチャンネルをきっかけに和装姿で仕事したり出掛けたりする人達が増えたらいいよね」
「そうなりますと、本職の人達に発注した方が良いかと思いますが」
「そうだね、じゃあ本職にお願いするよう手配してくれる?
支払いは僕がVividColorsから受け取る予定の報酬から出す事にしよう。
侍女さん達にはまだまだやってもらいたいと思う仕事が山ほどあるんだよ。
例えば安藤家のぬいぐるみの試作品とか。
まぁ顔を見せに来てくれた時に僕からお願いするとしようか」
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