再会 + コスプレ文化

「ご無事で良かった、本当に良かったです」


 伊吹いぶきを新幹線に乗せてくれた侍女が、オフィスで伊吹と対面を果たした事で感極まって泣き出してしまった。

 もちろん伊吹が無事である事は早い段階で聞かされていたが、新幹線に一人で乗せてしまったという後悔もあり、実際に再会を果たした事で様々な感情が溢れ出してしまったのだ。


「車を乗り捨ててしまうと、伊吹様が新幹線で移動した事が襲撃者に伝わってしまうかも知れないと危惧しての行動だったのです」


 京香きょうかが伊吹へ補足の説明をする。あの時車で脱出出来たのは伊吹とこの侍女だけだったので、最善の方法だったと弁明する。


「駅まで連れて行ってくれたお陰で今こうして無事でいられます。本当にありがとうございます」


 泣き止まない近所のおばさん、もとい、侍女のお姉さんの手を取って、礼を言う伊吹。今後もよろしく頼む、と言うと、大きく頷いてみせた。


「ちなみに、あなたは僕にうちわをくれたバイトのお姉さんですよね?」


 伊吹が侍女のお姉さんを連れて来た警備の女性に尋ねる。


「はい、そうです。伊吹様をお探しておりました」


 彼女は三ノ宮家さんのみやけから依頼を受けた宮坂家みやさかけの指示により、伊吹を捜索してた内の一人だ。

 伊吹がラーメン屋から出て来たところを発見。男性である事を確認した後に本部へ連絡している間に藍子あいこがスライディング土下座で現れた、というのが真相である。

 スライディング土下座したのが藍子ではなく一般女性だった場合、実力行使で排除していた事だろう。


「僕が知らない間に色んな人のお世話になっていたという事ですね。本当にありがとうございます」


「いえ、これも仕事ですので。では、失礼致します」


 警備の女性と侍女のお姉さんがオフィスを出て行く。

 入れ違いで燈子とうこ河本こうもとがオフィスに入って来た。


「完成したものを受け取ったから着てもらったんだけど、どう?」


「如何でしょうか、お兄様」


 河本は伊吹が手の空いている侍女達にお願いして縫ってもらった服を着ている。

 桜柄のあわせの着物、その上に白いカーディガンを羽織っており、着物の裾は茶色のロングスカートの中に入れられている。


「いいね、乃絵流のえる。とても可愛い。大正時代って感じがする。これに革のブーツなんか合わせてもいいんじゃない?」


 伊吹はVCスタジオの技術責任者である河本多恵子こうもとたえこを本名で呼ぶと面倒な事になるので、本人がなりきっている乃絵流呼びする事にしている。

 褒められて嬉しいのか、河本が後ろも見えるようにくるくると回っている。


「あれ? 美羽みうさんも連れて来たんだけど……」


 燈子はうたかたラボの岡野美羽おかのみうも仮装していると伊吹に説明し、オフィスのドアを開けて外を確認すると、恥ずかしげにドアに隠れる美羽がいた。

 美羽は白いブラウスの上から袷の羽織を掛け、下は浅葱色あさぎいろの膝丈スカート、さらにはフリルのついたハイソックスを履いている。


「ほぉ、これはこれは。美羽さんもいいね。ただちょっとだけ手を加えてもいいかな」


 伊吹は橘香きっかにヘアゴムを借りると、美羽の髪の毛を高い位置でのツインテールにして結んだ。


「いいね、似合ってるよ」


「似合ってるなんてそんな今までこんな髪型した事なかったですしそれに私は研究者でありこのような格好をしても見せる相手もいないのでこの服が可哀想というかせっかく作ってもらったのに私なんかが着てしまって良いのでしょうか別に着たい人がいればその人に着てもらった方がいいんじゃないかってだって私は無表情ですし何考えてるか分からないって言われるしこんな格好しても似合わないというか……」


「ストップ」


「いたっ」


 ぼそぼそと独り言を呟く美羽の頭に手刀を入れる伊吹。


「似合ってるし、可愛いし、とても良いと思うのでこの服は差し上げます。福利厚生に一環なので貰っておいて下さい。

 他にこんな服が着たいなとかこんな服があったらいいなって思ったらまたうちの侍女さん達に言ってくれれば作ってくれると思うよ。

 あと、思っている事があるならはっきりと言ってね。一人で考え込んでないで、どんどん発信しよう。その方がより良いものが出来ると思うから」


「ほ、本当に思っている事を言っていいんですか?」


 俯きながら尋ねる美羽。伊吹がもちろん、と答えると、顔を上げて口を開く。


「私もお兄様とお呼びしたいです。それとギュッて抱き締めてほしいですし、よしよしもされたい。美羽って呼んでほしい。もっと可愛い格好もして、可愛い可愛いって言ってほしい。可愛い私をいっぱい見てほしい。頑張るから、私『あんどうた』の開発頑張るから! だからお願い!!」


 美羽は普段あまり自己主張しないが、一度感情を表に出すと止めどなく溢れてしまう質のようだ。止めどなく溢れてしまうからこそ、普段は抑えるようにしているのかも知れない。


「分かった分かった! 美羽、これからもよろしくね。また可愛い格好したら見せに来てよ」


 伊吹が美羽を抱き締めて、よしよしと頭を撫でてやる。そんな二人を河本が無表情で見つめていた。



★★★ ★★★ ★★★



ねんがんの コメントつき レビューを てにいれた !!


ありがとうございます!

今後ともよろしくお願いします!

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