VC副社長がミラー配信をするようです

◇配信準備中です、配信開始時間は未定です◇

◇配信開始致しましたらYoungNatterヤンナッターでお知らせ致します◇


「視聴者さんの反応はどんな感じかな?」


 配信部屋に籠もってタイミングを見計らっている伊吹。生配信は開始したが、まだアバターを表示させていない。


「みんな何が起こるのか分かってない様子ね。ミラー配信って何だろうって話し合ってるよ」


「副社長って事は安藤家あんどうけじゃなくてドット絵のお面の人だねって、みんな分かってくれてるみたいだわ」


 本日はVividColorsヴィヴィッドカラーズとイサオアールが取り決めた、新人Vtunerブイチューナーのチャンネル開設日だ。

 すでに二つのチャンネルが開設済みで、チャンネル登録者も増えていっている。しかし、VividColors所属の新人Vtunerも、イサオアール所属の新人Vtunerもまだキャラ絵を出さずシルエットのみ公開されており、チャンネル名も仮称のままだ。

 これは取り決めになく、元々VividColors側は初回生配信まで情報を伏せるつもりだった。それを受けて、イサオアールが真似したものだと思われる。


「お、カウントダウンが始まったな。こっちも用意するか」


 伊吹は藍子あいこから手渡されたドット絵のお面を付け、カメラをオンにする。

 一斉にコメントが流れ、配信されている事を確認する。そして自分の写っている枠を小さくし、左下の隅へ移動させ、配信画面全体にイサオアールの新人Vtunerの配信画面を表示させる。

 伊吹はイサオアールの新人Vtunerの生配信デビューをミラー配信するつもりなのだ。


「はい、皆さんこんばんは。VividColors副社長です。

 今日は皆さんと一緒に新人Vtunerのデビューを見守りたいと思います。

 例え競争相手とはいえ、世間にVtunerという存在が広まるのは喜ばしい事ですからね。

 皆さん一緒に見守りましょう」


≪投げ銭設定はオフのままですか?≫


「そうですね、さすがに人の配信を見る配信でお金を頂くと、相手に怒られてしまうかも知れませんからね。

 このままオフで実況していきますよ」


≪和装のお召し物が艶やかで素敵です≫


「ふふっ、ありがとうございます。狩衣と言って、昔々のお偉い方々の普段着だったようです。せっかくなのでお洒落してみました」


≪向こうの同接が三千人。こちらは四百五十万人。圧倒的大差www≫


「おっと、始まりますよ」


『ヨぉ、おレさまがしんJinブイチューナーのスサのをだ、みなnoもの、チャンネルとぉおろくするのだ』


 明らかに合成音声であると思われる不自然な話し声。スサノオと名乗る男性風Vtunerが生配信を始めた。


「ヤマタノオロチを倒すべくスサノオにしたって事ね。

 まぁこちらはヤマタノオロチを自称した事なんてないんですが」


 コメント欄が激しく流れていく。


≪この声は安藤あんどう四兄弟のものですよね!?≫

≪ダメでしょこれ!≫

≪訓練された安藤子猫あんどうこねこには聞き分けられるのにゃあ!≫


 伊吹は配信部屋に待機していた福乃ふくのが立ち上がり、部屋を出て行ったのを確認する。

 こういう事も起こり得ると考え、事前にどう行動するか決めてあったのだ。


「まぁ正直私の声かどうか、専門家が詳しく分析しないと分かりませんから何ともしがたいですが。

 もし私の声を使っているのであれば、これは重大な問題ですよねぇ」


 今すぐ立証は出来ないが、容認している訳ではないと釘を刺しておく。でないと真似する人間が世界中に発生してしまうからだ。


≪ネットでイサオアールが男性の声を不正利用か、という記事が出てます≫

YoungNatterヤンナッターでイサオアールの社長が知らないって声明出してる≫

≪知らないじゃ済まされないでしょうwww≫


「アバターの動きは良いですね、よほど良い機材をお使いのようです」


≪もしや流出したVividColorsの最新機器を手に入れた???≫

≪他人の力借りないと戦えない時点で負けてるのよ≫

≪他人の力盗まないと、の間違い≫

≪みんなで通報しよう!≫


「まだ一ヶ月続く勝負の初日なんですから、もうちょっと様子見ませんか?

 明日はご自分の力で配信されるかも知れません。見守ってあげましょう」


『見ていルのか、VividColorsノ。私ノぎぃじゅつニおそれオノノいてイルんだろう?』


≪呆れ返ってるよwww≫

≪もうハム子が実写で喋ってる方が視聴者集まるのでは≫

≪アバター操作してるのも喋らせてるのもハム子一人でやってんのかな?≫


 伊吹はVCスタジオのスタッフへ合図を送り、配信画面に映っている実写の伊吹だけをあきらのアバターへと変える。

 左下で小さく表示されていた枠を、スサノオより少し大きいくらいに広げる。


「君の技術力ってのはちょーっと何言ってんのか分かんなんだけど?」


≪へぇっ!? 現実空間に旭きゅんが!?≫

≪後ろに緑の布がなくても大丈夫なの!?≫

≪何で今最新技術見せちゃうの! 投げ銭出来ないにゃん!!≫

≪カメラの前をおさむ様が横切られた!?≫

≪旭君の肩に乗ってる手ってお衣装の色から言って英知えいじ君では!?≫

≪ちょっと待って何でショタきゅんだけ出て来てくれないの???≫


『おノれ、めんヨぉな!

 きさⅿぁらなどぉこノくさナGiのつるGiでまぷたツにしteくれぃる!!』


「いやヤマタノオロチを草薙の剣で真っ二つにするのは無理でしょ」


≪ヤマタノオロチの尻尾から出てくる剣なんですが???≫

≪真っ二つにしても四つ首の怪物が二体になるだけだがwww≫

≪聞き取りにくいから普通に喋ってほしい≫

≪ってかスサノオって皇王家のご先祖様でしょ?≫

≪宮内省が準備運動をしています≫


 VividColors側の配信画面ににゅっと人の右手が伸びて来て、パチンと指を鳴らす。すると、配信画面内で好き勝手にわちゃわちゃしていた治と旭と英知の動きがピタっと止まる。


≪えっ、何?≫

≪ずっと見てたかったですにゃ……≫

≪止まってるお姿もきゃわわ≫


 指を鳴らした右手が、配信画面に手を開いた状態で甲を見せ、止まっている治らをなぞる。すると、なぞられたキャラから順番に姿を消していく。


≪消しちゃいやーーーーーー!!≫

≪らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!≫

≪うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!≫


 そしてカメラの画角に翔太しょうたが入り込み、椅子へと座る。


「配信画面に映ってるのはボク一人でいいよね?」


≪良いけどらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!≫

≪何かめちゃくちゃ複雑な感情がぁぁぁ!!≫

≪何これ超怖いんだが? 恐ろしんだが??≫


「さて、画面に映っているボクらという存在は、結局は作られ操られている存在でしかないという事が分かってもらえたと思う。

 この世界に安藤さん家の四兄弟は存在しない。が、存在しているかのように見せる技術は存在する。

 この技術を使えば、高品質な映画を撮影する事も、実現不可能な小説の実写化も、見た事もないアニメも、思うがままに作れる。かも知れない。

 この技術に興味ない? 映像の製作依頼や技術相談、または技術者としてボクと一緒に働きたいって人は、リンクを貼ってるからそちらを確認してね」


≪突然のお仕事募集告知と技術者募集告知w≫

≪もうミラー配信とかいうの関係なくなってるw≫

≪いつの間にか向こうの生配信終わってるしねwww≫

≪イサオアールの社長が配信部屋に突入して強制終了させた模様≫

≪マジかよ伝説じゃんwww≫


「ミラーすべき配信が終わっちゃったので、ボクもこれで失礼するよ。

 じゃあね、子猫ちゃん達ぃ~。


 あっしたー。お疲れしたー」

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