増資・増員

「よくもまぁ全世界へ向けてあんな事を言えるねぇ、感心するよ全く」


 ハム子との対談において、万が一の実態になった際に宮坂家みやさかけとしてすぐに対処出来るようにと、福乃ふくのが配信部屋で待機していた。

 つまり、伊吹いぶきの『藍子あいこは俺の女』宣言を間近で聞いていたのだ。


「あれ? 問題ありましたか?」


「いいや、ないよ」


 今回のハム子との共同生配信をする前に、マスコミ各社への対応も必要であった為、目に見えて伊吹と宮坂家が連携を取っている形が必要であった。


 一つは資本提携。宮坂家がVividColorsヴィヴィッドカラーズの新規発行株式を六十万株三億円分取得。

 これだけでは宮坂家がVividColorsの筆頭株主になってしまうので、宮坂家から伊吹と藍子へそれぞれ一億円の融資が実行され、その資金を元に新規発行株式を取得。

 結果、藍子の持ち株数が三億二千五百万円分で六十五万株。持ち株比率が三十二.五パーセント。肩書は代表取締役社長。

 伊吹の持ち株数が同じく三億二千五百万円分で六十五万株。持ち株比率が三十二.五パーセント。肩書は代表取締役副社長。

 燈子の持ち株数は変わらず五千万円分で十万株。持ち株比率が十パーセント。肩書は平の取締役。

 VividColorsの資本金は十億円となった。

 宮坂家から伊吹と藍子へ融資された一億円については、YourTunesユアチューンズからの収益ですぐに返済可能な金額である。


 もう一つはVividColorsの監査役として福乃が就任。宮坂家の家中において中心人物に極めて近い福乃が関わっている事がとても重要な意味を持つ。


 さらに一つ。宮坂家から三人の秘書が派遣された。

 宮坂みやさか紫乃しの。福乃の娘、二十六歳。

 宮坂みやさかみどり。福乃の娘、二十四歳。

 宮坂みやさか琥珀こはく。二十五歳。藍子、燈子、紫乃、翠の従姉妹。

 この三人はVividColorsの入っているビルに常駐する秘書だが、その他に必要に応じて別の秘書が出入りする事になっている。


 そして最後の一つ。伊吹と藍子、燈子との婚約だ。この世界において、男性側が申し出ればほぼ婚約成立となる。親の意見は聞く必要がない。というより、ほとんどの親が泣いて喜ぶようなおめでたい出来事だ。

 神社で結婚式を挙げる、という儀式的な行事は残っているが、お祝いをする意味での披露宴は行われていない。男性を衆目に晒す事が好まれないからだ。


 三ノ宮家さんのみやけと宮坂家の婚姻の許可が下りるまでは婚約に留め、その後神社にて神前式を挙げる段取りとなっている。この許可申請については形式的なもので、すぐに許可が下りるだろうと聞いているので、伊吹は深く追求しない事にした。

 伊吹としては、取り急ぎご両親にご挨拶せねばと思っていたのだが、神社での挙式の際に顔を合わすから、とやんわりと断られている。その際に婚前交渉は遠慮せずガンガンやっちゃって、と福乃から言われており、その方が気になっている伊吹であった。



「お館様」

「旦那様」

「副社長」


「どれもしっくり来ない」


「やはりご主人様が一番良いかと」


 生配信を問題なく終えて、現在はオフィスへ場所を移して反省会をしているところだ。伊吹はソファーに腰掛けた智枝ともえの膝の上に座らされ、抱き着かれている。伊吹の方が背丈が大きいので、見た目があまりよろしくない。

 智枝曰く、イチャイチャ解禁されたのなら私も福利厚生の一環としてご主人様を可愛がらせてほしい、との事だった。休みもなく有給休暇もなく残業代も出ない職場である事がおかしいと言い出したのは自分なので、甘んじて智枝に抱き着かれているという経緯がある。

 今は秘書の立場から、伊吹をどのような敬称で呼ぶべきかという話し合いの最中で、紫乃がお館様、翠が旦那様、琥珀が副社長呼びを推している。


「一気に人口密度が上がったね」


「良いのか悪いのか。お兄さんと結婚出来るのは良いけど、もれなくうるさい従姉妹がおまけでついてくるとは……」


「「「奥様」」」


「止めてよその何かを訴え掛けてくるかのような目は」


 伊吹は早くこの空間を抜け出して、美哉と橘香との初めてを行いたいとうずうずしている。

 福乃から先に二人との間に子供が出来ても宮坂家としては問題としない、と聞いていたが、せめて婚約が成立するまでは、と二人に止められていた。

 昨日正式に婚約が成立したが、ハム子との生配信での対談前日という事で自粛していたのだ。

 昨日婚約が成立した二人と、新しく派遣されて来た、婚約者の従姉妹にあたる三人。その前で、今からセックスしてくるからじゃあの、とオフィスを出て行く勇気を伊吹は持っていなかった。


「ご主人様、お察し致します」


「……何が?」


 智枝にこの童貞のはやる気持ちが伝わってしまったか、と焦った伊吹だったが、単なる思い違いであった。


「人数に対してこのオフィスも最早手狭になってしまいました。ビル内のもっと広い場所へ移動するか、そもそもビルを別で用意するか考えるべきかと思います」


「えー? せっかくあーちゃんが発注した改装工事終わったとこなのに?」


 金銭的な問題ではなく、こうしよう、ああしようとウキウキしながら改装計画を立て、ようやく形になったものをすぐに手放すというのは抵抗を感じる。


「もう一度、一から計画を練れるっていうのも楽しそうだよ?

 伊吹さんがどんなお部屋を必要とするか、試しに聞かせてもらえるかな?」

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