手段と目的
「お兄さん、ごめんなさい!!」
「いや何があった」
イサオアールとの打ち合わせからオフィスに戻って来て早々、
「とりあえず座って。まずは撮影機材が回収出来たかどうか聞かせてほしいんだけど」
二人をソファーへと座らせて、落ち着くよう伝える。本来であればこちらから話したい事があるのだが、伊吹は努めて冷静な振りをしつつ、二人を促す。
「イサオアールが確保していた機材は七セット全て回収出来るよ。業者手配は終わってて、明日このビルに運び込まれる事になったの。問題なく使えるかどうかの確認が必要だけど、多少の故障は目を瞑る事にするね」
残りのうち二人がVividColorsを脱退してから個人で活動を続けており、残りの二人が活動を辞めてしまっている。
個人で活動を続けている二人に関しては、弁護士から所有権がVividColorsにある事を改めて伝え、返却に応じるならそれで良しとする。
活動を辞めた二人に関しては、こちらからの連絡に対する反応を見た上で、対処する事となった。
「それで、とこちゃんは何をやらかしたの?」
「……お兄さんが本当に男な訳ないよねって言われて、
「それで?」
「お兄さんは本当に男だって、言っちゃって、その……。
生配信でハム子と対談する事に決まっちゃったの。ごめんなさい!!」
伊吹からすれば、男が女から金を巻き上げているのは事実なので、特に思うところはない。社会の闇かどうかは分からないが、少なくとも伊吹自身は悪い事をしているつもりはない。
「僕がハム子と対談する事で、何がどうなるの?」
「ハム子はお喋りが上手だから、伊吹さんとのお話を通じておかしい点や違和感を炙り出すって言ってたんだ。
あ、もちろんハム子は来てなかったんだけど、イサオアールの社員は最初からそのつもりで弁護士事務所に来てたみたいで」
対談するのは別に良い。問題はどうやって伊吹が女性であると証明するつもりなのかという点だ。
もちろん伊吹は男なので、どうやっても証明など出来るはずがない。しかし、真実がどうであれ、女性であると証明したかのように見せてしまえば、視聴者にとってはそれが真実として受け止められてしまう。
「うーん、向こうがどういう作戦で僕を女性に仕立て上げようとしているのか分かれば何とでもなるんだけどなぁ」
考えらるのは、マスコミを使って
ただ、それだと生配信で対談をする前に騒動になってしまうので、結局対談が出来ないという矛盾が生じる。
「もしくは、VividColorsとイサオアールとの対立構造を作って自分のチャンネルの再生回数を稼ぐつもりか」
「あー、なるほど。単にお兄さんの正体を暴きたいんじゃなく、暴こうとしてる自分の姿を視聴者に見せようって事ね。じゃあ炎上すればするほど向こうの利益になるのか……」
「まぁ向こうの目的が本当にそれかどうか分からないけどね。こっちとしては、生配信での対談を行うと想定して準備をしようか。
で、もし向こうが生配信中に何か仕掛けてきて、僕が男じゃないという方向に持って行こうとしても問題なく対応出来るようにしておけばいいんじゃないかな」
一応考えはある、と伊吹は話すが、具体的にどうするつもりかを教えられず、燈子は不安に思う。
「原因を作ってしまった私が言うのも何だけど、お兄さんが辛い想いをするのだけは嫌。この話、やっぱり断ろうと思う」
「そんなに思い詰める必要ないよ。別に僕が女だって言われても、証明する方法があるんだから。顔出し配信すれば一発だよ」
「それが嫌なの! お兄さんの背格好が、お顔が、世界中に広まってしまう。そんなのヤだよ……」
ついに泣き出してしまう燈子。藍子は自分の妹が人前で泣いている姿など見た事がなかったので、とても驚いた表情で見つめている。
「うーん……。そうだね、その時は二人に責任取ってもらおっかな」
「……私達で取れる責任って?」
「世界中に顔が知られてしまった男と結婚してもらいます」
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