昂った伊吹

 初の生配信を終えた夜。いつも通り、伊吹いぶきは配信部屋に敷かれた布団に美哉みや橘香きっかと三人で横になっていた。

 すでに部屋は暗く、後は眠るだけの状態がだ。


 伊吹は気持ちが昂ぶって、全く眠くならなかった。何十万人もの女性に対して話し掛け、コメントに対して返事をし、バイノーラルマイクを通じて刺激を与える。

 自分が男であるというだけチヤホヤしてくれ、全て受け入れてくれて、投げ銭までもしてくれる。

 自分の中では決して満足出来るような内容ではなかった。元一期生に自分のレベルの低さを自覚させる、などと驕った事を考えていた。自覚させられたのは自分だった。

 それでも、数多くの女性を楽しませる事が出来たというのもまた事実。


 眠れない。上手く行ったと言う実感と、もっと上手く出来るはずだったという後悔と反省と、自分の実力不足を感じての落胆と。

 感情がぐちゃぐちゃになり、思考を止める事が出来ない。深呼吸をすると、美哉と橘香のふわりとする体臭を感じ……。


 そっと、美哉と橘香のそれぞれの手に触れる。指をなぞり、絡ませ、包み込む。特に反応は返って来ない。

 伊吹は、もういいと思った。もう我慢などする必要などないと。二人とは想い合っている。身体だけでなく、心も含めて求め合っている。いいじゃないか。

 伊吹は二人の手を離し、そっと太ももを撫でる。浴衣の裾から直に手を入れて、柔らかい内ももへと指先を沿わせ、そして……。

 ビクリと美哉が身体を震わせた。起きている。美哉は起きている上で、自分の手を拒んでいないのだ。

 そう判断した伊吹は、気付けば美哉に抱き着いていた。背中に手を回し、身体全体で美哉の柔らかさを確かめる。首だけを動かし、美哉と唇を重ねる。ねっとりとした温かい感触。乱暴に掻き回し、味わう。

 すると、伊吹の後ろから橘香が抱き着いて来た。伊吹のうなじに唇を這わせ、ついばむように吸い付く。こそばゆいような、気持ち良いような感触が広がる。

 二人は自分を拒否していない。受け入れてくれている。

 伊吹は美哉の背中からお尻へと手を撫で下ろし、乱暴に揉みし抱く。


「もう我慢出来ない! 二人が欲しい!!」


「ダメ」

「我慢しているのは私達も一緒」


「でも!」


「結ばれたいという気持ちはいっちゃんと一緒」

「でも順番が大事」

「結婚相手を先に探さないと」

「伊吹が望む、仲睦まじい家庭は作れない」


「それは分かる、でももう我慢出来ないよ!」


「いっちゃんと私達では本来の立場が違う」

「いっちゃんが優しいのと、咲弥さくや様の願いがあったから今の私達の関係がある」

「私達の欲望のせいで今あるこの関係を壊したくない」

「今この瞬間の欲望のせいで全てを不意にしたくない」


「いつまで、いつまで待てばいいんだよ……」


「私達の身体なら好きに触って、好きにして良い」

「してほしい事なら何だってしてあげる」

「でも最後までは絶対にダメ」

「どうしてもセックスをしたいと言うなら……、お母さん達を呼ぶ」


「違う! 誰でも良い訳じゃない、僕は二人と結ばれたいんだ!!」


「分かってる」

「分かってるよ」


 伊吹を仰向けにして、美哉と橘香が伊吹の唇へキスを落とす。


「……分かった。順番を守る事で、三人の幸せな未来が守れるって言うのなら、今は我慢するよ」


 不本意だが、本当に不本意だが、我慢すると伊吹は誓った。天井を見上げ、どうしようもない気持ちの昂ぶりを逃がす為、大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。


「我慢はしてもらうけど、こっちは我慢する必要はない」

「眠たくなるまで搾り取ってあげるからね?」


「えっ!?」


 伊吹は美哉と橘香に揉みくちゃにされながら、迸る性欲を精液採取器へ吐き出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る