警備について

 伊吹いぶきは借りている配信部屋で美哉みや橘香きっかと同じ布団で寝て、翌朝。

 昨日の朝のように搾り取られた。京香きょうかが初回の精液提供をした後、余裕を見て八回分の精液採取器を受け取って帰って来たが、二回分で勘弁してくれと美哉と橘香へ懇願し、結果三回分の採取となった。


 美哉と橘香にシャワールームへ連れられた後、身支度を整えられて配信部屋へと戻る。


「「おはようございます」」


 美子よしこと京香が朝食を用意しており、五人で食事をする。昨晩、燈子とうこは自分がひとり暮らししているマンションへ帰宅していった。藍子あいこはこの配信部屋のある六階の別の部屋で寝泊まりしているが、あえて朝食には誘っていない。


 朝食を終え、下膳しようとしている美子と京香に声を掛けて、伊吹が聞きたい事があると口を開く。すると二人は、その前に私達の話を聞いてほしい、と美子が切り出した。


「伊吹様のお気持ちは大変嬉しく思います。私達の娘らを愛して下さっている事は随分と昔から伝わっておりました。

 しかし、愛だけでは何とも出来ない事もあります。まずは伊吹様のご結婚相手を決めなければなりません。娘達と結ばれるのは、どうかそれまで我慢して頂きたく思います。

 もし万が一、どうしても性行為をなさりたいと仰るのであれば、大変心苦しい提案ではございますが、私達の身体をお使い頂ければと……」


「いやいやちょっと待って!」


「分かります、伊吹様のお気持ちはよくよく分かります。ですが、美子も私もすでに妊娠する事はございません。ですので、娘達の代わりにお使い頂ければ……」


「だから違うって! 僕が聞きたかった事は宮坂みやさか警備保障への支払いについて!!」


 このビルに来る前から、伊吹は宮坂警備保障という民間に会社に警備をお願いしている。元々はこちらから頼んだ訳ではないが、宮坂みやさか福乃ふくのが親戚だからと伊吹の身を案じて手配してくれたのだ。

 今もこのビルで二十四時間体制で警備をしてくれているし、総勢どれくらいの人数が関わっているのか、伊吹には想像も出来ない。

 また、このビルの玄関に警備用のゲートを後付けするなど工事費用も発生しているそうなので、総額でどれくらいの支払いをすべきなのかを、美子と京香に相談したかったのだ。


「「大変申し訳ございませんでした!!」」


 珍しく二人は顔を真っ赤にし、本当に恥ずかしそうに頭を下げている。娘達はその姿に情けなさそうな視線を向けている。


「いや、いいんだけど。

 もう隠す必要ないと思うから言うけど、確かに美哉と橘香とそういう事したいって願望はあるし、将来的に結婚してほしいと思ってる。けど、先に別の人と結婚しなきゃならないって話を二人から聞いたから、それまではダメなんだなって理解してる。

 だから身体を貸してくれるって言うなら遠慮なく……」


「それ以上はダメ」

「やっぱり三回じゃ足りなかった。明日は四回」


「冗談なので許して下さい!」



 その後、落ち着いて宮坂警備保障への支払いについて確認したところ、福乃から正式に不要であると伝えられているとの事だった。

 宮坂家にとって、本家筋である三ノ宮家さんのみやけの世話をするのは当然であり、過去に多大なる恩も受けているので、そのお返しをしているだけであると話していたそうだ。


 普通に考えれば、裏がある。しかし、今のこの世界の常識、それも女性社会においての義理や人情や縁戚関係の話について、伊吹では判断のしようがない。

 その上、最早裏があるから断ろう、という段階にないのは理解出来る。


「とりあえず福乃さんとは連絡を密にしておいてほしい。もし何かしら僕に対して要求があったのなら、ちゃんと内容を確認した上で返事するようにするから」


 裏があるとすれば、伊吹の身柄と生殖能力、そして先ほど話に出た結婚相手。第一夫人と第二夫人の件である。

 宮坂家から二人、いやそれ以上の結婚相手を寄越して、誰か一人でも男子を出産出来れば宮坂家へ迎え入れる事が出来る。三ノ宮の血と宮坂の血は繋がっているのであろうから、それが目的なのではと伊吹は考える。

 種馬的な扱いを受けるのであれば思うところもあるが、そういう世界なのだから仕方ない。



 今朝美哉と橘香に搾り取られた分は、美子が提出しに行くようだ。昨日とは違い、男性保護省ではなく保健所の方へ提出するそうで、昨日ほど時間は掛からないだろうと言って、出掛けて行った。


「このビル周辺の警備がすごい事になってるんだけど。あれ、宮坂警備保障以外からも派遣されてるわ。

 多分警察なんじゃないかな」


 入れ違いに配信部屋へと入って来た燈子が、周辺警備の人数が増えた事を知らせる。


「警察? 何で警察が?」


 いくら男性が希少な世界であると言っても、伊吹には今まで警察に警備をされた経験などない。


「伊吹様、恐らく屋敷が襲撃された際の失態を取り戻す為かと」

「襲撃犯を連れて来たのは本物の警察官でしたから」


 襲撃者と共に現れた警察官は本物であったらしく、事情がどうであれ、警察としては大失態と言って良い。

 その失態で失った信頼を取り戻すべく、伊吹の周辺警護をしているのでは、という事だった。


「まぁその辺の対応は美子さんと京香さんに任せるしかないか」


 警察の偉い立場の人に頭を下げられても、伊吹にとっては困るだけだ。二人に任せておき、自分はやりたい事をさせてもらおうと思うのだった。

 

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