第二章:転生先は並行世界
【悲報】俺氏、神様に会わず転生してしまう
伊吹の幼少期編です。
よろしくお願い致します。
★★★ ★★★ ★★★
私生活では外見が普通よりもやや良い事が逆に作用した。そして二人の姉と暮らし、育った事もその要因と一つになる。
彼女がいそうに見えるから。女性の扱いに慣れているから遊んでるのだろう。
そんな先入観を持たれてしまい、女性からアプローチを掛けられる事なく、自分からも積極的に行動しなかった事もあり、29歳になっても女性経験がなかった。
三十歳になる前の日、このままでは魔法使いになってしまうと、勇気を出して風俗街へと向かった。しかし周りの目が気になり、風俗街の入り口を遠くから眺めるだけで心臓がバクバクと跳ね、足がすくんでしまう。とりあえず落ち着こうと思い、近くの居酒屋に入って酒を注文する。
これを飲んだら行くぞ、いや精の付くツマミを食べてもう一杯。腹が減っては戦は出来ぬ、丼ものを注文してもう一杯。気付けば相当飲んでしまっていた。ふら付く身体で風俗街へと向かう。ゴールデン街のアーチを睨み付け、交差点で信号待ちをしていると、後ろから勢いよく押し出され、車道へと飛び出してしまう。
最後に目にしたものは、大きなトラックが放つ眩いライト。思わず目をギュッと瞑り、強い衝撃を感じて……。
享年二十九歳、童貞。
そこで終わるはずだったしがない会社員の人生。
しかし、彼の意識は暗闇の中、不思議な温もりに包まれて確かに存在していた。
手も足も動かせず、声も出せない。ただ存在しているというだけの状態。植物状態で病院のベッドに寝かされているのかとも考えたが、どうやら違うらしい。
少しずつ手足が動くようになった。グルグルと何かが蠢くような音も感じるになった。そして時々、身体全体に響くかのように聞こえる女性の声。
(これってもしかして、俺を呼ぶ女神様の声なのでは!?)
バタバタと手足を動かし、ここにいるぞとアピールする。響く女性の声と、とても遠くにいるように聞こえる、くぐもった男性らしき声。
しかしすぐに何かが起こる事はなく、かなりの時間が経った。寝て起きて寝て起きて声が響いて寝て。食事も排泄もする事なく、ただ温かい何かに包まれて、生きてる。
楽しくはないが辛い事もない。働く必要もなく、結婚は子供はと急かされる事もない。
まぁいいか、もうしばらくこのままで。
さらにどれだけの時間が経っただろうか。男を包む空間が固く、狭くなっているように感じる。上からぐっと押されるような圧と、呻くような女性の声。
なすすべなく身を任せ、何かに引っ掛かると頭の角度を変えてみたり、肩をすぼめてみたり。そして突如感じる重力。
こうして、彼は長らく過ごした居心地の良い空間から押し出された。
ぼんやりと照らす光。幼子の鳴き声。複数の人間の話し声。浮遊感。そして、肌と肌の温かい触れ合い。
「おめでとうございます、元気な男の子です!」
「やっと会えたわね、伊吹。私があなたのお母さんよ」
(……何ですと!?)
こうして再び生まれる事となった、今世では伊吹と名付けられた男。前世ではサブカルチャーに好んで触れていたので、自分の身に起こった事はある程度把握出来た。
(【悲報】俺氏、神様に会わず転生してしまう)
出産というものは母親の身体だけでなく、赤ん坊の身体にもそれなりに負担が掛かるようで、産まれた直後からの伊吹の意識はぼんやりとしていた。
気付けば病院ではないどこかで寝かされていた。まだよく見えない目、座っていない首。周りを見回す事は出来ないが、自分を覗き込む人物が複数いる事は分かる。
自分の母親が綺麗である事と、母方の祖母が同居しているらしき事。自分が住んでいるのはそれなりに大きな屋敷である事。メイドさんのような女性が二人いる事。そして、小さな女の子も二人いる事。メイドさん二人と女の子二人はそれぞれ親子であるらしき事。どうやら二家族ともこの屋敷に住んでいるらしき事。
聞こえて来る会話を理解出来る事から、異世界ではなさそうだと判断した。仰向けに寝かされた目線の先、天井には明るさを調節出来るシーリングライトがあるので、電気を使用する文明がある事からも分かる。
かなり早い段階で
(【悲報】俺氏、同じ地球で生まれ変わる)
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