後編 その1
母さん父さん俺に空音のいただきますの声が合わさった。
食卓は横に長いこたつテーブル。二つの長辺に二人が並んで座っている。
俺は隣で早くもエビフライにかじりついて衣をさくさくさせている空音に、ちらちらと目配せをした。
「ん!」
空音が流し目を細めて空き小皿をよこしてきた。
俺は無言で自分のハンバーグを箸で半分に割り、片方を小皿に乗せた。
「ごくん。おにいありがとっ!」
「あ、うん」
俺と空音の取り引きを正面で見ていた母さんが、一度箸を置いて、
「光紀、もしかしてお腹の具合でも悪いの……?」
心配げな様子で目をぱちくりしている。
「いや大丈夫。準備段階でちょっといろいろあって」
「ふうん? けんかしたの?」
「いや、俺が空音に屈したんだ」
「意味不明なんだけど」
母さんは眉根を寄せた。俺の要領を得ない物言いに頭を悩ませているようだ。
しかし説明しようにも内容がない。
話を雑に流そうと思い、俺はちくわの天ぷらを一本取って、しょうゆにつける。このノーマルのやつもいいけれど、個人的にはちくわは磯辺揚げが一番好きだ。
「おにい、何食べてるの?」
「ちくわ」
「ちくわ好き! 磯辺揚げ⁉」
「普通のだけど」
「あー……」
空音が急角度でテンションを上げて、すぐさま下げていった。
「ちくわ、おいしいぞ。ほら」
「うん」
空音が小皿を持ってこちらに向けたので、俺はそこにちくわを置いた。
俺の差し出がましさを、空音は受け入れてくれた。
そのことが心に小さな熱を生んだ。俺は今日、胸の奥に光が灯っては陰る、その繰り返しばかりしている気がする。
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