ガールズバー

 お店へ入ると、十席ほどあるバーカウンターに、胸元の開いた服を着たお姉さんが四人ほどいた。


 三人いるお客さんの中にサングラスおじさんも混じっていた。


 「二名様ですか」


 「あそこのサングラスをかけた人の連れです」


 「承知しました。ではこちらへどうぞ~」


 がっちりおじさんが答えるなり、入り口付近にいたお姉さんに案内してもらう。


 これがガールズバーか。

 みんな可愛い。そして破廉恥だ。


 席に着くと、サングラスおじさんの声が耳に入った。


 「お姉さんは何カップですかな?俺が見るにCといったところかな?触って確かめてやろうか?だっはっはっはっは」


 最低だ。

 セクハラという言葉を知らないのか。


 「えぇ~、何カップだと思います?触りたいですか?まぁ触らせないですけどね~」


 前にいる可愛げなお姉さんは、笑顔でからかうように答えていた。


 「触らせてくれよ~。俺は寂しんだよ~」


 恥じらいもクソもない。とんだおじさんに会ってしまった。


 でも、これが大人の世界というやつなのだろうか。もし、これが当たり前だとしたら、セクハラの尺度なんて曖昧過ぎると思った。訴えられる人はどこまでしたんだろうか、と不思議に思ってしまう。

 

 すると、さっきまでサングラスおじさんと会話をしていたお姉さんが、おしぼりとドリンクメニューを渡しながら話しかけてきた。


 「お兄さん若いね。何歳?」


 「あ、二十歳です」


 「えぇ~、若―い。若いのにこんなところ来たらだめじゃないですか」


 「いえ今日初めてで…」


 「あ、じゃあこのおじさんに連いてきた感じ?こんなおじさんについていかないほうがいいですよ」

 

 「あぁ、なんだと!ならおっぱいでも触らせやがれ!」

 

 胸を触らせろとしか言わないおじさんと、それを簡単にあしらうお姉さん。

 これが大人の掛け合いか。全然ついていけない。



 それから、サングラスおじさんとお姉さんの会話に終始圧倒されつつ、たまにお姉さんと話しながらビールを飲んだ。

 

 「田中さん、もう帰りますよ」


 がっちりおじさんが、帰ろうとお会計を払いながら言う。

 この人田中さんっていうんだ。思えば、今名前を知った。


 店を出て、奢ってもらったので「ありがとうございます」とがっちりおじさんに頭を下げる。

 一方、田中さんは、目の前にあったラーメン屋を見て、「ここ行くぞ」と言ってそのままラーメン屋に入っていた。


 本当にこの人無茶苦茶だ。


 

 「豚骨ラーメン三つお願いします」


 がっちりおじさんが三人分の注文を通してくれた。

 

 「ガールズバー楽しかったか」


 注文をし終えると、田中さんが急に真面目なトーンで言ってきた。


 「初めてで圧倒されたというか…でも楽しかったです」


 「お前はまだかわいいな。だっはっはっはっは」


 なんだよ。なんかあると思ってしまった。


 「でもな、まだ若いだろ、お前。刺激が足りないんだろ」


 また、少しまじめなトーンになった。顔はただの酔っぱらいだけど、なんかすべて見透かされているような感じがした。


 「そうなんですかね。自分でもわからないです」


 「世の中もっと端の端まであっからな、貪欲に、貪欲にそこを見ていくといいよ。俺から若者へ言えることはこんだけだな。だっはっはっはっは」


 理解できるようなできないようなことを田中さんが言った後、机にラーメンが置かれた。


 この人どんな人なんだろ。

 ラーメンをすすりながら、田中さんを見る。

 浅い谷だと思って見ていたものが、急に深い谷だと気づかされたような感覚。

 いい人大人なのか、良くない大人なのかよくわからない。

 

 それからは黙ってラーメンを食べた。

 体が待っていましたとラーメンが胃に吸い込まれていく。

 お酒を飲んだ後のラーメンは、味が何倍も増している気がした。

 

 店を出て、田中さんとがっちりおじさんに「ありがとうございました」と言い、そのまま別れた。

 思えば、がっちりおじさんの名前最後まで分からなかったな。


 田中さんに言われた言葉を考えながら歩く。

 全然意味が分からない。


 深夜0時前。

 ちょっと散歩をしようと思って、川沿いへ向かった。

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