二人のおじさん

 サングラスをかけた小さめのおじさんと、がっちりとした体型の包容力がありそうなおじさんが入ってきた。


 「おー、お久しぶりです」


 マスターの知り合いだそうだ。


 「ビールだ、ビール」


 座りながら、サングラスのおじさんが怒っているかのような口調で言った。

 サングラスのおじさんはべろべろ状態で、がっちりとしたおじさんがそれを介抱する形になっている。

 

 「べろべろじゃないですか、大丈夫ですか」


 マスターはそう言いながら、ビールをグラスに注いで、カウンターに置いた。


 「まだ全然よ、全然」


 怒りっぽい口調で、ビールをぐびぐびと飲んだ。


 がっちりとした方のおじさんはお酒を飲まないそうで、「水をください」と申し訳なさそうに言っていた。

 

 「なんだよ、みんな俺を避けやがって。みんな薄情者だよ、薄情者」

 

 ビールを飲み干すなり、わーわーと言い始めた。

 

 何だこのおじさん。


 「飲み過ぎですよ、今日何杯飲んだんですか」


 「もう八杯は飲んでます」


 がっちりおじさんの方が代わりに答えていた。


 それから、サングラスおじさんがわーわーと言っている横で、マスターとがっちりおじさんが愛想笑いをしながらそれに答えるという時間が続いた。


 「おい、お前そこで何してるんだ」


 サングラスおじさんが、急にこっちを向いて話しかけてきた。


 「え、えー、一人で飲みに来ていまして…」


 「おっ、お前若いじゃないか。いいな―若いのは。この年になると、女もよって来やしねぇ」


 「あ、はぁ」


 「女は好きか、女は」


 「そりゃ、好きですけど…」


 「よっしゃ、ガールズバーに行くぞ、ガールズバー」


 間髪入れる間もなく言ってきた。


 何だこのおじさん。


 マスターに目をやると、「いってみたらいいと思いますよ」と言ってきた。


 マスターもそっち側なんかい。

 まぁ行ったことないし、ついて行ってみるのも悪くないかなと思った。


 お金を払おうとすると、「大丈夫ですよ」とマスターが言った。


 「えっ、でも払ってないですよ」


 「このおじさんが払ってくれましたよ。この人、こう見えて社長なんですよ」


 目が丸くなった。

 こんな人が社長かよ。大丈夫かよこの会社。

 

「ありがとうございました」と言いながらおじさんたちと店を出た。



 「ガールズバーは行ったことありますか」


 お店を出たところで、がっちりおじさんが話しかけてきた。


 「いや、初めてです。ちょっと楽しみです」


 「それはよかったです。あのおじさんこんなんばっかりですから」


 一方で、サングラスおじさんは千鳥足になりながら、陽気に歩いていた。

 

 とてもじゃないけど、社長とは思えない。


 五分ほど歩いたところで、急に足を止めて、「よし、ここ行くぞ」といいながら、ドアに横文字でBLACKとかかれたお店へと入って行った。

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