夜の堤防

 堤防を歩きながら、夜の景色を眺める。


 対岸の街明かりに、水面に映る反転した世界。


 見上げると、雲一つない夜空。

 白く光る月に、いつもは見えない星々も顔を出している。


 昼とは全く別の世界だ。


 あー酔ってるわー。

 いつもはこんな景色を見ても何も思わないはずなのに、この世界に心が浸っている。


 少し降りて、芝生の上で寝転がってみる。


 プラネタリウムじゃん。

 星ってこんなにあったんだ、と改めて思う。

 それと同時に月の遠さを感じる。


 ちゃんと宇宙なんだな。


 あーあ。何なんだろな、生きるって。


 ていうか、田中さんの言葉本当にどういう意味だったんだろ。「世の中はもっと端がある。そこを貪欲見ていけ」ってどうやって何を見ればいいのかさっぱり分からん。

 田中さん社長って言ってけど、本当にどういう人なんだろ。

 

 涼しい風が思考を包む。

 


 この世界に自分ひとりしかいないような静けさ。

 たまに聞こええる虫の鳴き声が憂いを感じさせる。

 目に入る光も、ここぞとばかりに存在証明をしているようだ。


 この世界は寂しいな。

 でも、このくらいがちょうどいいや。


 ぼーっとしながら、しばらく色々考えてしまっていた。



 気づけば、二十分ほど過ぎていた。

 また来よ、と思いながら起き上がって、堤防の上まで登る。


 月ってなんか健気だよな。太陽の光でようやく光っている。太陽が休んでいるかわりに、地球を照らしてあげているみたい。

 そんなことを考えながら歩いていたら、一本の木が目に入った。

 珍しくも、河川敷の真ん中で一本だけ生えている。


 寂しそうだな。

 なんで一本だけ生えているんだろう。


 その木をちょっとだけ見ようと斜面を下った。

 

 近くに来てみると意外と大きい。


 こいつも頑張って生きているのか。


 ——。


 えっ、何してるん。酔いすぎだろ。

 やばいやばい。

 感傷に浸ってはいたけど、浸りすぎている。

 木に向かって勝手に同情をしている自分が恥ずかしくなった。


 ——帰ろ帰ろ。


 酔いが一気にさめた感じがした。

 ちゃんと酔っ払ったのは初めてかもしれない。

 酔うってこんな感じなのか。


 家に着くなり、そのまま倒れるようにベッドに寝転がった。

 時計を見ると、深夜の一時を過ぎたころだった。

 思いつきでバーに行ったけど、情報量が多すぎた。

 大人の世界はまだよくわからないな。

 

 気づけばそのまま寝ていた。

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