大文字伝子の休日24改

クライングフリーマン

事件の予兆

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子((だいもんじでんこ))・・・主人公。翻訳家。

 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。蘇我と結婚した逢坂栞も翻訳部同学年だった。

 物部(逢坂)栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 南原蘭・・・南原の妹。

 南原(大田原)文子・・・南原の妻。学習塾を経営している。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 服部(麻宮)コウ・・・服部の妻。ミュージシャン。

 山城順・・・伝子の中学の書道部の後輩。愛宕と同窓生。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。


 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。結婚後退職していたが、現役復帰して旧姓の白藤を名乗っている。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。警部から警視に昇格。久保田刑事(久保田警部補)と結婚。

 久保田誠刑事(久保田警部補)・・・愛宕の最初の相棒。見合いした、あつこと事実婚の末、結婚。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。EITO前指揮官。

 橘なぎさ一佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

 斉藤長一朗理事官・・・EITOをまとめる指揮官。

 藤井康子・・・伝子のお隣さん。

 森淳子・・・かつて依田が住んでいたアパートの大家さん。

 増田はるか3等海尉・・・海自からEITO出向。

 金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・・伝子の替え玉もつとめる。空自からのEITO出向。

 結城たまき警部・・・元警視庁捜査一課の刑事。警視庁からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。元丸髷署勤務。丸髷署からのEITO出向。

 早乙女愛巡査部長・・・元白バイ隊隊長。白バイ隊からのEITO出向。

 江南(えなみ)美由紀警部補・・・警視庁警察犬チーム班長。警視庁かえあのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 一ノ瀬欣之助・・・一ノ瀬孝一佐の父親。

 一ノ瀬悦子・・・一ノ瀬一佐の母親。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。

 池上葉子・・・池上病院院長。

 風間えみ・・・池上病院精神科医師。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


 午前9時。伝子のマンション。

「あなたー。洗濯鋏、足りないわー。」伝子の声に「はいはい、これね。」と、高遠は洗濯鋏を持って来て、伝子に渡した。

 このバルコニーは狭いが、洗濯物の天日干しは出来る。EITOによって、幅を延長してされていて、出撃の時は、その隣の空間から脱出する。だが、ここ一週間、敵の動きがないから、一時的に物干しスペースを延長していた。

 決戦の前の夜以来、伝子は、高遠に対してだけは「おんな言葉」で接していた。

「あなたー、だって。初めて聞いたわ、黄色い声。」綾子が入って来た。

「なんだとー。声に色がついているのか、くそババア。」と伝子が返すと、「伝子。止めなさい。はしたないでしょ。」と高遠が窘めた。

「はああい。ごめんなさい、あなた。」と伝子が言うので、「にわか雨、大丈夫かしら?」と綾子は戯けた。

「お義母さんも、挑発は大概にして下さいね。」と、高遠は言った。

 チャイムが鳴った。なぎさが、舅姑とやって来た。

 午前10時。喫茶店アテロゴ。

「パンティ?」と物部が言った。「声が大きいわよ、一朗太。他にお客がいるでしょ。」と、栞が物部を窘めた。

 カウンター越しに、なぎさがいた。

「ちょくちょく、おねえさまの所に行ってたでしょ。お泊まりセット持ち歩いていなかったから、おねえさまのパンティや下着、お借りして着替えてたの。で、おにいさまが洗濯していたの。で、アパートに帰ると面倒くさくて洗濯しないままだったの。アパート引き払う時、持って来た荷物をお義母さまに見つかったの。」

「叱られた?」栞が尋ねると。「そりゃあもうカンカン。廊下に裸足で正座1時間。」と応えた。

「ここに寄ること、よく許してくれたわね。」と、栞が言うと、「あ、EITOからの指示があったから、って。」栞と物部に、なぎさは荷物を見せた。

「これ、緊急追跡装置が組み込まれた、ガラケーです。激しい振動があると、オンになります。」なぎさは、物部と栞と辰巳にガラケーを渡した。

「午後から会議なので、もうすぐしたら、EITOに出勤します。」

 15分後。なぎさは、店を後にした。

「どう思う?」と、物部は栞と辰巳に言った。

「やっぱり。嫁入り先は窮屈みたいですね。」と、辰巳は言った。

「まあ、仕方ないかな。一佐は実家がもうないし。」と、物部が訳知り顔で言った。

「そうか。伝子の所が実家なのよ。」と、栞は感心した。

「高遠さん、一佐のパンティを洗っているんだ。」辰巳は、違うことで感心した。

「何を感心しているんだよ。」と、物部が辰巳に突っ込んだ時、声がかかった。

「あのう。お勘定を・・・。」客だった。「あ、失礼。」物部は速やかに客の支払いを受け取った。物部達は客そっちのけで話し込んでいたのである。

 午前11時。伝子のマンション。

「やっぱり、違うわねえ。お金持ちで、自衛隊の偉いさんの家は。」と、綾子が感心していた。「婿殿。一佐のパンティ洗ってたの?」

「はい。ちゃんと洗う前に名前書いて。『でんこ』『なぎさ』って。」「におい嗅いでたりしたの?」

 伝子は割り込んで言った。「いい加減にしろよ、ババア。学は変態じゃない!」

「私には、上品に言わないのね。」「学は、愛するダーリンなんだよ!もう!」

 伝子の剣幕に綾子は膨れた。

 正午。

 綾子がテレビを点けた。伝子が高遠に教えて貰いながら、カレーを作っている。

「臨時ニュースを申し上げます。今朝、総理官邸に1通の手紙が届きました。文面にはこう書いてありました。《やっと出番が来た。テラーサンタ。》以上です。」

 綾子は、黙って、2人にテレビを指した。

 EITO用のPCが起動した。

「ニュースで観たと思うが、敵は名乗りを上げて来ただけだが、会議するかね?」

「するかね?するから来い、じゃないんですか?」「想像だけ集めても議論にはならんだろう。」「では、1日様子を見るのはどうでしょう?今度の幹は、伝え忘れたメッセージがあるかも。」

「では、そうしよう。昼食時に悪かった。」画面は消えた。

「悪かった・・・謝ってたわよ。」と、綾子が騒いだ。

「疲れているんですよ、みんなだけど。心身共にね。」と、高遠フォローした。

「私、お邪魔かしら?」

 綾子の問いに、2人揃って、「はい。」と応えた。

「嫌な夫婦ねえ。あ。あ。子作りの時間?昼間っから。嫌らしい。帰ります。」

 綾子が帰ると、入れ替わりに藤井が、おにぎりを持って来た。

「あら?出撃しないの?」「検討する材料が少ないんですよ。あ。おにぎりは夕飯に頂きますね。」

「テラーサンタねえ。サンタって、サンタクロース?テラーって何?」

「綴りが違うけど、テラーの英語は、1.強烈な恐怖、2.語り手、3.金銭の受け渡しする人、詰まり、出納係ですね。この3種類の日本語に相当しますね。多分、1番でしょう。」

「じゃあ、怖いサンタクロース?」と問う藤井に、「恐怖を配るサンタクロースかな?」と、高遠は応えた。

「恐怖はもう充分配っているけどね、ダーリン。得体が知れないから。流石に、今度の幹はノーヒントかも知れないわ。」

「知れないわ?随分、女っぽくなったわね、大文字さん。あ。もう伝子さんでいいかしら?」「いいわよ。私、相手にもよるけど、ナチュラルな言葉を使うように心がけているの。学さんにしつけをして貰っているの。マゾじゃないわよ。」

 藤井は、伝子の変貌に、かなり驚いていた。決戦以来、顔を合わせていなかったからだ。だが、悪いことではない、と思っていた。

 午後3時。池上病院。精神科風間えみの診察室。

「どう?反響は?」「上々です。演技だと割り切ってみれば、すらすら言葉が出てくるんです。」「良かったわ。血液検査をしたら、今日はもう帰っていいわよ。お薬は無しね。」

 廊下に出ると、池上院長が立っていた。「よく見ると、モデル並みの美貌ね。あ、ケンは今朝手紙が来たわ。感謝していますって。」「樗沢は?」「やはり、ガン患者には無理だったみたいね。副作用ね。まだ『眠り姫』ね。」

「よろしくお願いします。」そう言って、伝子は血液検査の為、処置室に向かった。

「おねえさま。」と、あつこと、久保田警部補が寄って来た。

「まだ、意識が戻らないみたい。尋問は無理ね。」「送って行くわ。」「ありがとう。でも、まだ血液検査があるから。いいわ。自分で帰れるから。」

 伝子が去って行った後、「別人だね、あっっちゃん。」「でしょ。」と夫婦二人で笑った。

 午後3時半。

 伝子はバイクで帰宅途中だった。

 後続の自動車が追尾しているような気がした。伝子はDDバッジを押した上で、加速し、Uターンした。DDバッジとは、EITOが開発した、緊急連絡通信用バッジのことであり、身体に危機があった時、EITOのオスプレイが飛来し、何らかの救援措置を行う。

 伝子は、追尾してきたクルマに正面から突っ込んで行った。

 伝子はクルマの3メートル手前でバイクを『ウイリー』させ、宙を切って、クルマのフロントガラスを蹴り、屋根を蹴り、着地した。

 伝子はバイクを降り、バイクに設置した、バトルロッドを取り出し、身構えた。バトルロッドとは、チタン製の棒で、軽量で頑丈な棒だ。

 男達がクルマを降り、伝子に向かって来た。一瞬のうちに、伝子は4人を倒した。

 その時、白バイ隊がやって来た。伝子は素早く、バイクにバトルロッドを収納した。隊長の工藤が尋ねた。「この人達は?」「あおり運転なんです、お巡りさん。危うく殺されるところでしたわ。」伝子は工藤にウインクをした。

 午後5時。伝子のマンション。

「災難だったね、伝子さんを襲った奴らは。」「学さん、あおり運転じゃないわ。新しい『幹』の『葉っぱ』だったかも知れないの。どこかから監視されていたかも知れないわ。」

「知れないの。知れないわ。何食ったら、こんなにお上品になるの?」綾子が二人の後ろから言った。

「また来ていたのかよ、くそババア。」と、伝子が言うと、「落差が大きいわ。」と綾子が返した。

 伝子は、台所に行き、塩を掴んだ。「伝子。塩を掴むんじゃなくて、しおらしく!」

 伝子は高遠の言葉に、「はああい。」と言って、塩を元に戻し、洗濯物を取り入れ、畳み始めた。

「何か調子狂うわ。帰る。」そう言って、綾子は出ていった。

 入れ替わりに入って来た藤井が尋ねた。「どうしたの?綾子さん。」

「以前と変わった伝子についていけないんですよ。藤井さん、当面内緒にして下さいね。」

「ああ。あのこと。了解。で、順調なの?」「病院行ったついでに、風間先生にも池上先生にも診て貰いました。」と言って、伝子は指で丸を作った。

「ああ。そう言えば、樗沢は意識不明のままだったわ。」「樗沢って、です・パイロット?」「ええ。まあ、意識を取り戻しても、3番目の『幹』のヒントや作戦のヒントを貰えるかどうかは分からないけど。」

 その時、EITO用のPCが起動した。

「大文字君。君を襲った連中だが、どうやら、ただの煽り運転ではなさそうだ。簡単には口を割らないだろうが。それと、総子君の大阪支部だが、一応明日、正式に発足することになった。早速、祝いに駆けつけたいだろうが、今は我慢してくれ。君を襲った案件は、前兆のような気がするんだ。」

「了解しました。」画面が消えると、「明日の料理教室、キャンセルする?」と藤井が言った。

「いいのよ、藤井さん。でも、緊急出動したら、早退するわ。」と、伝子はにっこり笑った。「そうだ、来たついでに、おにぎりの作り方、指導して下さい。」

「了解。キャンセルしないわ。」藤井が言った時、電源が落ちた。

「計画停電ね。時間ぴったりだわ。でも、不安よねー。」藤井が言った言葉に「犯罪が起きるチャンス作っているようなものですからね。」と、高遠が唸った。

 3人が話したたわいない会話は、実は事件の予兆だった。

 ―完―


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