2年生『夏』

体育祭前

第12話

夏。それは暑苦しい時期。体育祭という、陰キャの活躍の無いただの祭りに絶望をする。その中には俺も含まれていた。


「体育祭、応援の副団長やりたい人ー」

「はいはいはーい!」

「俺も俺も!」


そんなふうに盛り上がる中、

「むさっくるしいな…」

と俺は1人呟いていた。


毎年やる体育祭。

去年もやり、結果は惨敗だった。

リレーと時俺が転んでしまったのもあるのだろうか?

だがしかし、それなら2位とかになれよ。

何で、ブッチギリのビリなんだよ。

しかも俺が全て悪いとか言うし。

最悪な思い出しかない。


「じゃあ、これでいいよなー」

と委員長が言う。

何も聞いていなかったので、俺が何やるかも分からない。

とそこに、海が言ってきた。


「一志君は何もしないからね。あっ、一応、応援って事にはなってるけど」


俺が聞いていない事を分かっていたかのようにナイスアシストしてくれた。


「ありがとう」

「どういたしまして。でも、今度からちゃんと聞いてよねー」

「多分そんな事はしないよ」

「はぁー…」

「どうしたんだよ、そんなため息吐いて」

「誰のせいだか分かってる?」

「いや?」

「…。今ものすごく一志君を殴りたいよ」

「ダメだよ、女の子がそんな事言ったりやったりしちゃったら」

「…(怒)」

「あっ、すいません」


いつか、無口で何も聞かずただただ殴ってきそうだ。

…怖い怖い。


給食。

「体育祭って何ですか?」


ローズのその質問があまりに意外で、聞くのが遅すぎて、箸を落とそうになった。


「えっ?何も分からないでお前体育祭の係決めしてたの?」

「はい」

「まじかよ…」


せめて聞くぐらいしろ。

クラスの男子共が喚いてくれるぞ。


「体育祭っていうのは、チームを組んでそのチームと他のチームとスポーツで争う…みたいな感じだ」

「…なるほど。初めて知りました」

「あと、応援もしなきゃいけない」

「応援?『頑張れ』とかですか?」

「そう。それを大声で、リズム付けたりして応援するんだよ」

「…」

「おい『面倒臭い』って顔に出てるぞ」

「そんな事ありません」

「本当か?」

「…はい」

「なんだその答えるまでの間。お前、もしや嘘つくの下手だな」

「…うるさいです」

「そうか、分かった。黙ってる」


これ以上変な事を言うと、殴られそうになる。

海が教えてくれた教訓だ。


「でも、何でそんな事するんでしょうね」

「クラスでの絆深めたりとかなんだろう。お陰様で、俺はクラスの腫れ物だ」

「一志君は、スポーツ出来ないのですか?」

「まぁな」


まぁ、出来たとしても普通のレベルまでしか出来ないだろうな。

ゲームで言えば、サブ。


だが、今年の体育祭はこのクラスが勝つだろう。なぜなら、


ローズという強力な手札がいるからだ。

応援で力を与えてくれる。それに、

今年が初めての体育祭らしい。

初めての勝利をローズに掲げたいだろう。

それのおかげで、他のチームが遅くなるという事態になってしまう。


「ローズは運動出来るのか?」

「はい。一応」


しかも、運動できるとは。

まじでやばいな…。


「そういえば、ローズは何の係になったんだ?」

「応援です」

「そうか。まぁ、1番仕事無いから、そこで慣れていくしかないな」

「そうですね」



とその日から応援練習だった。

それと同時にローズが応援を頑張りたいと言ったので、教える事にした。


「まず、敬語を外す」

「無理です」

「大きな声を出す」

「無理です」

「よし、無理」

「嫌です」

「無理だわ!敬語外せない時点でもう無理だったのに、大きな声も出ないのかよ!」


まぁ、全然声出せない人もいるけど…。

何で、やりたいって言ったんだよ。

いや、声出せない人も声出したいとは思っているのだろうけど…。


「じゃあ、まず今出せる8割ぐらいの声でやろう」

「そんなので良いのですか?」

「あぁ。そして、それに慣れたら9割。それに慣れたら10割。そうして段々慣れていった方が効率いいんだよ。しかも、体育祭までまだまだある」

「そうですね。これから毎日やります」

「頑張れ。まぁ、俺はやらないけどね」

「…。あなたも応援やるのですよ」

「面倒臭いから嫌だ」

「そういうの良いので。やりましょう」

「…分かったよ。やればいいんだろ」

「はい」



それから俺はローズに教えたり、やらされたりした。


体育祭前日。


「いよいよ明日ですね」

「そうだな」

「いつもより喉枯れてますけどどうしましたか?」

「誰かさんのせいでいつもより声を出さなきゃ行けなくなったんだよ」

「ふふ、明日は声が出せない程応援してくださいね」

「はいはい…」


嫌だがな。

でも、ローズは俺の隣で応援するらしいので、逃げ場は無い。


「走りも頑張ってくださいね」

「分かったよ」


ローズに走りもやらされた俺はクラスの中間ぐらいの速さになった。


「明日休もうかな…」

「そんな事したら、黒い服の人達があなたの事をお出迎えしてくれるので、止めといた方がいいですよ」

「…分かった」


貴族怖えー…。


そう思いながら、うるさい教室に耳を塞いだ。


明日は、嫌だな。


青春。

その二文字を前にして、ふざけるやつ、本気になりすぎるやつ、

全てに悪い影響を与えるバカは嫌いだ。


そんなのか最も多くなる

三大青春イベントの1つ。


体育祭。


胃が重くなりそうだ。


でも、

隣の楽しみにしている貴族様のせいで、

その楽しさが感化されそうだ。





────────────────────

バン!

「チッ!」

【???視点】

体育祭のパネルを蹴り、舌打ちをする。


イライラしてしょうがない。


「明日は…」

そう、思う。

強く。

憎悪を、込めながら。


「体育祭なんか、ぶち壊す」


それは、教室によく響いた、

憎しみだった。

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