第10話 催眠療法(下)
「何だよ、金森の経験って……?」
「うん。さっき小学生の時に、私が事故にあった話をしたじゃない?もう少し具体的に話すと、私は小学4年生の時に如月くんと同じで車に撥ねられたんだ。でも私の場合、その瞬間もちゃんと意識があったの。だから私……ね。事故の時の記憶を……ね。もちろん覚えてて……」
そこまで話すと、きっと怖い出来事を思い出したのだろう。金森は自分の両腕をギュッと抱きしめた。
「……それでね。私、車恐怖症になちゃったんだ。車を見るとね、怖くて体が竦んじゃったり過呼吸を起こしたりして、もちろん車にも乗れなくなっちゃたんだよね……
でも車なんてどこにでもあるでしょう?もう普通の生活が出来なくなって、どうしようって家に、こもりっきりになっちゃたの」
それ…… マジで辛いな。
話を聞いただけで、当時の金森の過酷さが伝わってきた。車社会のこの世界で、車恐怖症になんかなったら死にたくもなるだろう。
よく、ここまで…… そう、思った。彼女の、今の元気で明るい金森になるまでの日々を想う。
「でもね。そんな風に引きこもっている時に、ある人が突然家に遊びにやってきて、ゲームをしようって……言ったの」
「……ゲーム?」
「うん。その人はメトロノームを持ってきていてね。この針を見ながら、私の話を聞くだけの簡単な遊びだよって言った」
「メトロノームって、あの音楽で使うやつだろ?」
「うん。細かいことは、あんまり覚えていないんだけど、いくつかの簡単なゲームをした後に、私は段々眠くなったの。そしていつの間にか、眠っちゃってたんだよね。
それで目が覚めると、その人が横にいて背中を優しくさすっていてくれたの。それでその人は、「もう大丈夫だよ」って言った。
そしたら不思議なんだけど…… その日から私、車が怖くなくなったの。あんなに怖くて仕方がなかったのに…… もちろんそれから暫くの間は少し怖かった気もするけど、でもそれも段々なくなって、今は前と変わらないくらいに車を見たり乗ったりしても何も感じないんだよね」
「マジか……」
「うん。今から思うと…… あの時、あの人は私に催眠術を掛けたんだと思う」
そこまで話すと金森は軽く息を吐いた。……確かにそれは、すごい体験談だ。その話を聞く限り、確かに金森はその催眠術で命を救われたことになる。つまりその催眠術をかけた人は、金森の命の恩人って訳だ。
「それでね。私、思うんだけど催眠術で記憶を忘れさせることが出来るんだったら、思い出させることも出来るんじゃないかって…… 確証がある訳じゃないんだけど、試してみる価値、ないかなぁ?」
その話を聞き終えたユウは、考えを纏めようと両手を組みながら、じっと地面を見つめていた。そんなユウを金森は心配そうに見つめている。
「……もちろん、無理にとは言わないよ。私も今のままの如月くんでいてほしいって思うから。だからね、この話をするか迷ってたの。でも……もし、もしね。如月くんにその気があるんだったら、私その人を紹介するよ」
そこでユウは、顔を上げる。
「……今も、その人と付き合いがあるのか?」
「うん。だって同じ高校の先輩だもん」
「!!」
今度こそユウは驚きを隠せなかった。金森の話から、その人は大人だと勝手に思い込んでいたからだ。
「その人って、城西に通っている人なのか?」
「うん。三年生の先輩で、
だとすると金森を催眠術で治した時、その先輩はまだ小学生だったことになる。小学生に、そんなことが出来ることが驚きだった。
「かなり不思議な人だけど、信頼出来る人なのは間違いないよ。私は小さい頃からずっとその人と一緒にいるけど、いい加減なことを言ったことなんて一度も無いもの」
……金森がそこまで言うのなら、きっと悪い人ではないのだろう。だが、自分の目でその人を確かめてみるまでは、何ともいえない。
「……わかった。金森、手間をかけるけど、今度その人を紹介してくれるか?」
ユウの言葉を聞くと金森は少し複雑な表情をしてから、うんと頷いた。
「……今から連絡してみるね。少し待っててくれる?」
そう言うと金森はスクールバックからスマホを取り出し、通話をタップした。
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