第11話 城西の魔女
「三年の黒木先輩?」
「ああ、聞いたことあるか?」
金森と一緒に帰った次の日の昼休み、ユウは春日といつもの中庭のベンチに腰掛けながらまったりとしていた。二人共すでに弁当は空っぽで、春日にいたってはバカでかい弁当の他に、コロッケパンとチョコレートとカスタードがたっぷりのエクレアもペロリと平らげている。
「よくは知らないけど、みんな魔女って呼んでる先輩だな」
「ま、魔女!? ……やばい奴なのか?」
「だから、よくは知らないって。でも同じバスケ部の中山は占ってもらったことがあるらしいんだけど、母親が病気だと思うから早く病院で検査してもらった方がいいって言われて、お袋さんを無理矢理に検査に連れて行ったら初期の癌だって分かって本当に助かったって言ってたよ」
「マジか!?本当の魔女なのか!?」
「……だから、よく知らないって。でも他にも助けられたって人の話は聞くことがあるけど、悪く言う人の話は聞いたことがないから、いい人なんじゃないか?」
「いい人なのに、魔女なのか!?」
「別に魔女にいい人がいても、いいじゃないか」
その春日の言葉に思わず口ごもってしまった。……そりゃそうである。
魔女=老女の恰好をした悪い奴、というイメージは自分の固定概念でしかないのだろう。
「で、黒木先輩がどうかしたのか?」
急に黙ってしまったユウを、少し心配そうに見つめながら春日が聞いてきた。こいつに比べると俺は何てちっぽけな奴なんだと、少し落ち込んでしまう。
「あ、いや。今日の放課後に金森の紹介で会うことになったんだ」
「金森さんの?お前らいつの間に、そんなに仲良くなったの?」
「いや、昨日の放課後、たまたま帰りが一緒になってさ。金森と黒木先輩は昔からの知り合いみたいで、俺の記憶を思い出いだす手助けになってくれるんじゃないかって、一緒に会いに行くことになったんだ」
「……ふーん」
ユウの話を聞くうちに、段々と春日は顔色を曇らせていった。その反応にユウは、少しの違和感を覚える。
「……どうしたんだよ?金森に何かあるのか?」
「……別に、何もないよ。まあ、金森さんが言うなら間違いないんじゃないか?やっぱり、黒木先輩はいい人だと思うよ」
意外な言葉だった。女性に対して人見知りの春日が、金森のこと、こんなに信頼しているとは思わなかったからだ。だから、つい素直に聞いてしまった。
「……お前さ。金森のこと、やけに信頼してるんだな」
「見ていれば分かるさ。あの人は、人を見る目は確かだと思うよ」
「何で、そう思うんだよ?」
すると春日はユウをじっと見つめて、何となくさっと言って口元に笑みを浮かべる。答えになってないぞ?と思いながらもユウはそれ以上その話に突っ込むことはしなかった。それ以上は聞かない方がいい気がしたからだ。
「……ユウ」
「……なんだよ?」
「黒木先輩。少しでも、お前の助けになってくれるといいな」
そして目を閉じながら、春日は天を仰ぐ。そしてベンチの背もたれに体を預けると、すぐに小さな寝息を立て始めてしまった。
……朝から頑張りすぎなんだよ、お前は。
「……ああ」
もう聞こえていないのは分かっていたが、ユウはそれに返事をする。
ピーヒョロヒョロと
……春日、やっぱりお前は大した奴だよ。俺はお前に記憶を失くしている話なんて、したことなかったよな。
初めて会った時、足の怪我に気が付いていたこともそうだが、コイツは話していようがそうでなかろうが、目の前の人をちゃんと見ているんだなと思った。
それからユウは、隣で間抜けな顔をしながら眠りこんでいる友人の寝顔を眺める。そして先程の違和感の理由に何となく気が付いて…… これって青春だよな?と思いながら、一人苦笑いを浮かべた。
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